側妃1
「ケルレン・・・・・。」
日が傾いて少し薄暗くなってきた部屋の中で
膝を抱え込んで一人座っているケルレンにチョイルンが声を掛けた。
所々砂で薄汚れ裾のところなんて何かに引っ掛けたように
裂けているケルレンの衣に
眉根を寄せてチョイルンはそっとケルレンに近づくと肩に手を置いた。
「さあ・・・・衣装を替えないと・・・皆が貴方の衣を持って待ってますよ?」
自分はすでに美しく着飾った姿でケルレンの顔を覗き込もうと傾けた頭から
シャナリと玉簾がなる。
「・・・・・・・・何か・・・・遭ったのですか?
・・・もし、宴に出たくないのなら・・・・出なくても・・・」
「出ます!」
俯いてケルレンを気遣うチョイルンの声に重なるように
キッと顔を上げてケルレンはそう言うとさっさと立ち上がる。
いつだってこの姉チョイルンはケルレンを気遣って
自分と息子のレンヤンの立場が悪くなることも構わずそう言ってくれていた。
「・・・・・・・ケルレン・・・・前から聞こうと思っていたのですが
セレンゲ殿を長の所に連れて行ったときに
貴方、何か言われたのでは無いですか?」
宴に出る為の用意をする為に急いで侍女達が待っている
部屋に向かおうとしていたケルレンの背中に少しためらいがちな
姉、チョイルンの声が掛けられ少しビクッとしてしまった。
「・・・・・・何も・・・・・・そんな・・・
否、側妃のことを言われてびっくりしましたけど」
一世一代の名演技をしているつもりでケルレンは必死でごまかす。
隠し事は向いていない
でも、これ以上姉のチョイルンに気を使わせたくはなかった。
「それは・・・・・・嘘です・・・・
でないと急に後継様のリューラン様の、側妃になるなどと貴方が
言うはずはありません・・・・・・何を言われたのですか?」
表情が見られないように背中を向けたままケルレンは
思い返す。
「バイカル族のセレンゲをリューランの側妃にするのに反対だと言うのか?
それも又良いだろう・・・・・・ただしそうすると、
それに換わる側妃が必要になるな・・バイカル族でもハンガイ族でもオタル族でも
良い。・・・そこに楔を打ち込むことが出来る側妃が。」
意味ありげにケルレンの顔を見て笑うイェニセイ族長にケルレンは何を言うのかと
見上げた。
「チョイルンは必死で隠していたようだが知っているのだ
オタルの直系とハンガイの長の弟の血を引く者がチョイルン以外にも生き残って
居たこと・・・。
『ハンガイの後継は、生まれた時から一緒の本物と偽者の2人居る』
と言うのはかなり知れ渡っていることだからな大方偽者の方がチョイルンと
同じ血を持つ者なのだろうと・・・そして今、ハンガイに一戦を交えて突然出現した
お前と言う戦士。偶然では収まりきらぬだろう?」
「何を・・・・?」
顎に手を掛けられ驚くケルレンにイェニセイ族長は言った。
「男でもよかったが女ならばなおよい
リューランの、我が後継の側妃になるが良い。
側妃になって我がイェニセイとオタル、
そしてハンガイの長の血を引く男子を産むが良い
・・・・・・・・チョイルンが産んだ我が息子レンヤンはイェニセイ族の血を引かぬ
我が血を引いておらぬ」
「!!?」
側妃が産んだ長の血を引かない息子、
本当かどうかは分からないけれど
それはいつでもチョイルンとレンヤンを切り捨てられると
言うことでは無いだろうか?
ならばケルレンにはその話を承諾するしか思いつかなかった。




