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まいごは今、異世界  作者: heina
ほぼ家出中に家出編
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馬と仲良くなる為に僕の出来ること

 馬というのは乗り心地がこんなに悪いものだとは思わなかった。

 乗りたいなーと馬のそばに寄ってみたら、馬が察してくれて首を下げて、たてがみを掴ませて背中じゃなくて首元へと引き上げてくれた。 その時見えた高い目線の感動と、さっきまでの喜びをどこへやればいいのだろう。


「あばばばはばびばばば」


 喋ることもままならず、ぼくはお面をした馬の背から伝わる、歩く振動に揺られて楽しくも楽しくない気分。

 馬め、もしやわざと早足で歩いて反応を楽しんでいるのか。

 白薔薇は少し浮いているから、揺れがそこまでじゃないみたいで楽しそうにはしゃいでる。

 ぼくはこんなに重力の軛(くびき)を疎ましいと思ったのは、師匠と行った海で釣り上げたお魚が僕の針から外れて、ぴちょんと水面に逃げ落ちたとき以来なのです。


「太郎、そろそろ行くぞ。 遊んでないで一緒に行くならば早く支度を済ますのだ」

「いびびびびぶぶぶぶ」

「何を言うとるのかわからぬぞ」

「行くって」


 猫がかけてきた声に白薔薇が、言葉がまともに紡げない僕の代わりに返事をしてくれた。

 別にいいけど馬で行くんじゃなかったの?

 あ、頭が振動で痒くなってきた。


「こここばばばいびびびでででで」

「なに? 何と言うておるのだ?」

「このまま馬に乗って行くって」

「よく言ってることがわかるのだの」


 白薔薇がまた言いたいことを代わりに言ってくれたけれど、確かに猫の言うようによくわかるものだ。 全部言葉にしていないのに。


「構わぬが、荷物はなにも準備しなくて良いのか? それと行き先を知らぬのだから勝手には行けぬぞ、暫(しば)し待つのだ」

「わわらばあぁああ」

「わかったって。 それじゃあここで待ってるから」

「うむ、ちゃちゃっと支度してくるからの」

「はーい」

「ばばばばば」


 そう言って猫はお団子頭を連れて建物内へと戻って行った。

 おじさんはまだ寝てる。 ちっとも動かないからぐっすり寝ているのかも。

 日頃の疲れをここで癒すがいい。


「ぬぬんぬんんんん……?」


 優しい目でおじさんを馬に揺られながら見ていると、早足で駆け回っていた馬が足を止めた。

 振動から解放されてホッと一息。

 頭が痒いのも薄れていく。


「……馬〜、どしたの。 飽きちゃった?」


 人差し指で少し頭を掻いてから、しがみついてる馬の首筋を手のひらでぺたんぺたんと叩いてみる。

 馬は「ブルルルン」と鳴いたけど、歩を再び進めはしない。

 温かに馬臭さを感じているとふと、師匠の言っていたことを思い出した。

「口封じって意外と目を潰すんだよね。 命を取らない場合は」

 これは師匠なりの面白い話だったんだけれど、今そのことを思い出した僕は興味深いと思った。

 師匠の言いたいことは他人へと伝える手段は出すことよりも入れることの方が重きを置いているという事なのだと思う。

 知らない見ただけの人を他人に伝えるときに必要なのはその人の特徴を上手く伝えることじゃない。

 その人をその人だと確定する為の足場が大切なのだ。

 目が見えなくなってから「この人か」と写真や本人を連れてこられて聞かれても、顔を見て確認できなかったら他人との認識を擦り合わせられなくて話はちっとも進まない。

 見ることができなくなってから「こういう奴だ」と伝えたくても頭の中の自分の記憶なんてそんなにしっかりしていない。

 何かを目を瞑って頭で思い描いた後で、その何かを実際に見てみると大体何かしら違うから、伝える人によっては実物と全然違ったりする。

 入力が出来なくなれば、人は出力が不安定になるのだ。

 だから「口封じって意外と目を潰すんだよね」なのだ。


 これは今の僕に動物のことを深く考えられるようになる為の手掛かりとなるのではないか。

 言葉を話さないから生き物は話が通じないと思う人もいるかも知れないけれど、それは間違いなのだ。

 人も動物も目で見て耳で聞いて、脳で判断する。

 ぜんぜん変わらない。 言葉として返って出てこないだけ。

 話さない生き物は喉の構造上話せないだけで、話しかけた言葉は通じているのだと思う。

 出力が疎かでも、入力がちゃんとしているならそれは「通じている」で間違い無いのではないだろうかな。

 特に今戻ってくるのを待っているあの猫を見てるとそうだとしか思えない。

 普通に喋るもの。

 なら普段から人とたくさん関わることのある馬や牛、山羊とか犬とかニャンコとか、そんな動物は話せば理解してくれる動物もいるはず。


「ねえ、馬。 馬は名前を持ってるの?」


 馬はブフンと鼻息を吐くだけ。

 喋らない、返事をしない。 馬だから。

 けれどきっと、理解はしているはず。

 喋ることがないから、反応をしないことが普通になっているだけなんだと思う。


「ねえ、馬。 いつもなんて呼ばれているの?」


 今度はぶらんぶらんと馬は尻尾を揺らすだけ。

 ……これはもしかしたら反応していないのではなくて、この薄くてほぼ無視にしか思えない馬の仕草も馬界では返事に該当するのでは?

 勝手に人の枠組みに当て嵌めているから僕は理解出来ていないだけではないのだろうか。


 ならば考えよう。

 深く馬を想おう。

 仲良くなるには相手のことを理解しなくてはいけない。

 それは相手が自分とかけ離れていればいるほどに。

 似ていれば僕と白薔薇のようになんのこともなく仲良しになれるのに。


 でも、それならば簡単なこと。 なんのこともなく仲良くなれないなら、色々すればいいだけなのだから。

 僕は馬と同じ気持ちになれるようにと、抱きついていた馬の首元へと廻す両手に少しの暖かさを持って同じ温度になるように、同じリズムになるように、揺蕩うそれと同じ色になるようにと目を閉じて自らへ祈った。


「おもしろい顔しながらなひとが、こっちをじっと見てるよ。 えっと、十二人おもしろい顔して見てる」


 集中してたのに白薔薇がそんなことを言うからチラッと片目を薄く開いて見てみると、確かにさっきの講堂のあの背の高い窓から目と鼻の穴がグッと開いて見ている人が何人か見える。

 みんな揃っておじさんばかり。

 口も開いている人もいる。

 みんな背のすごい高い人ばかりなのだろうか。

 あの窓は下の縁でも普通の部屋の天井くらいの高さがあったのに。

 階段の上から見たときにそんな人いたっけ?

 背が足りないからか子供はいない。

 女の人もいない。

 おじさんだらけだったからちょっとやめようかとも思ったけど、小ちゃく手を振ってみた。

 変な顔していたおじさんたちの顔が少しほころんだ。

 その様子に僕は満足したので、再び目を閉じ仲良くなれるように祈るのです。

せっかくお休みなので読むのに集中してたら、書くのが疎かに……

でもまだ読んでないのとか読み途中のがネット上にも書籍として手元にもあるのです。

読むの楽しいから仕方ない?

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