毒
「あっははは! そんなわけがないだろう。 食べたのはコレさ」
ネズミを捕まえて食べたのかと言われた学徒長はでっかい昨日と同じお団子頭を揺らして笑いながら手を差し出した。
手のひらには真っ赤な小粒の実が載ってる。
実はトマトよりもクレヨンの赤よりも濃い赤で、少し気持ち悪い。
「そこに生っていたんだよ。 昨日、主任が見つけてね、食べてみたのさ。 それが驚くほど美味しくてね、二人で年甲斐もなく口の周りを赤くするまで食べて……恥ずかしい話だけど、お腹いっぱいになってそのまま寝ちゃったんだよ」
お団子頭は言いながら口端を親指で拭い、親指に移った赤い色を見て一息だけ笑った。
「そうなのだぞ! このすごい見たことあるけど全然知らない実の汁が口に付いておるだけなのだ。 なんならお前達も食べたらいいのだ、たくさん生えるからの。遠慮するな」
お団子頭に追随した猫は、近場に生えていた赤い小さな実をプチプチと千切ってはいくつか溢れ落としながらこっちへと駆け寄ってきた。
「ほれほれ、わらしの手から全て落ちるのは時間の問題なのだ。 早くみんな取って食べるのだ」
「……あの、主任?」
猫のちっちゃな手のひらからとりあえず一粒摘んだミトラルカちゃんは、それを口に持っていくことを躊躇って怪訝に猫に話しかけた。
「どうしたのだ? ミトラルカ」
僕たちも摘んだところでミトラルカちゃんが話し出したので、食べる寸前でみんな動きを止めた。
僕は食べるならみんなで一緒にかな、と思ったから。
みんなが食べるのを止めて見ているなか、ミトラルカちゃんは指先で実を一頻りコロコロするとスッと止めると、熟考するようにゆっくりと口を開いた。
「この実は昨日見つけたって言いましたよね」
「うぬ? そのとおりなのだぞ」
「じゃあ、なんで食べたんですか?」
「おお? さっき言うたではないか」
「聞いてません」
「そうかの?」
「そうです」
ミトラルカちゃんは何を聞きたいのだろう。
なんで食べたかなんて、お腹が空いたか、なんとなく食べてみたくらいしかないと思うのに。
実際、猫もミトラルカちゃんの問いに「お腹が空いた時にちょうどあったから」と答えた。
だけどミトラルカちゃんは猫がそう答えた瞬間、信じられないものを見る目で猫を見た。
「安全は……」
「安全? 何のだ?」
「その実に毒性がある可能性は考えなかったんですか?」
「毒? 毒などあったら、もっと不味いであろう。こんなに美味しいのだから平気であろ?」
ミトラルカちゃんは猫じゃあ埒が明かないと、お団子頭へと視線を移した。
「学徒長が一緒になって食べたのですから、学徒長はこの実のことを前から知っていたのですよね」
ミトラルカちゃんにそう問われたお団子頭は照れ笑いを浮かべて「面目無い」と一言。
その一言でミトラルカちゃんはエミと相談を始め出した。
白薔薇を見てみると、キョロキョロと辺りを見回しながら落ち着かない様子になっていて、どうしたのかなと声をかけようとしたその時。
「だめっ!」
白薔薇が赤い実を投げ捨てて、僕の摘んでいた実も手を弾かれて飛んでいった。
「だめなの。 毒は怖いのよ、とても怖いの」
白薔薇はそう言って、僕にしがみついてきて震えている。
きっとお魚の時の毒を思い出しているのだろう。
あの時も白薔薇はすごく泣いて…… 違った。 泣いたのは王様だった。
白薔薇は王様と一緒にくっついて離れなくなったんだったや。
「大丈夫。 毒ってそんなに怖くないよ」
白薔薇が安心するように言い聞かせてみた。
けれどそれがよくなかった。
「!!」
「しろ?」
白薔薇が僕の二の腕に押し付けていた顔をバッと上げて、僕の目を見つめた。
「だめ、だめよ。 毒は友達になれないのよ? あれは友達になる気なんて全然無い、ぜっんぜん無いの!」
白薔薇は懸命に訴えます。
そんなに言わなくてもわかってるよ?
だって毒だもん。 ……あれ、友達?
「しろ。 毒と友達になれるの?」
「なれないのよ? だって友達なんていらないっていつも言っているもの」
んん?
ものの例えでなく?
「言ってるの? けど、そうでなくても僕は友達になるのは無理かなぁ」
だって毒だし。
「本当に? ……一緒にお昼寝したりしない? 一緒にご飯食べたりもしない? 手を繋いでお出かけもだめなのよ?」
「毒だよ?」
「そうなの! そうなのよ!!」
白薔薇は興奮して腕を上下に振りたくる。
「あーっ、こら! なんでもない、わらしはなんともないのだ!」
騒ぐ猫に目をやれば、ミトラルカちゃんに抱きかかえられて身動きを封じられながらエミに検診されていた。
目を指で開けて見られてるけど、エミの様子を見ているとなんともなさそう。
「とりあえず目立った症状は見当たらないわ」
「ほら、大丈夫なのだ。 心配のしすぎなのだ」
お気楽を言葉にした猫をミトラルカちゃんはキッと怖い顔で見つめた。
「のんき過ぎます。 何かあってからでは遅いんですからね」
「でも、でもでも」
「なので調べがつくまでコレは食べることを禁止します」
「あぁー、そんな…… せっかく美味しいのに!」
猫は床に両手両足を着いてガッカリした。
土曜日、面白い小説読み出したら気づいたら徹夜してて、日曜日は一日予定で埋まるし月曜日は寝落ちするしで火曜日になってしまった。
こらぁだめだめだ。




