雑然から整然へ
僕とミトラルカちゃんが話していると、ミトラルカちゃんが目覚めたということで今からすることがあるみたい。このごちゃごちゃした部屋を出ると、おじいちゃん達が付いて来てと道を先導してくれます。
廊下なのか物置なのか微妙な外の光が差し込む通路を進みますが、さっきの部屋とおんなじに物だらけで隙間をくねくねと通らなければならないのに加えて通路自体も真っ直ぐには伸びずに、曲がり角が多くやけにくねくねしてる。
しばらくくねくね廊下に置きっぱなしになっている埃の薄く積もった物だらけの隙間を縫って、よりくねくね道を歩いて行くと急に道が拓けました。やっぱり広いところの方がいいなと背伸びをしながら思うのです。
見える範囲では廊下がすっきりしているのはここだけ。一つ扉の前だけで、次の扉の範囲からはまた物だらけになっています。
おじいちゃんはすっきりしているおかげで全開にできる扉を開くと、声をかけながら足を踏み入れました。
「おぅい、ちょっくらアレ貸してくれや」
すると中から返事が聞こえて来た。
「ぎゃっ、また来やがったなこのジジィ。テメェらは部屋散らかしやがるから来んなっつっといただろうがよ!」
乱暴な言葉には嫌悪が乗っておらず、どこか親愛の情を感じさせるものだった。そしてその声は高く涼やかで、若い年頃の女の人のもののようです。
部屋は奥がパーテーションで区切られ、そこから白衣の裾を引きずる背の低めな黒髪の、眼鏡を頭に乗せた肌の真っ白な綺麗な人が頭をぽりぽり掻きながら出て来た。
部屋の中は扉の外とおんなじに物がほとんどなく、とても綺麗。床だってピカピカに輝いています。もしかしたら白衣の裾を汚さないためかも。
部屋にある物は椅子と机が部屋の真ん中に。パーテーションのところに本棚、そして壁際に白くて角が丸い大きな四角の塊があります。
「マジで何しに来たんだよ、ジジィ。てか、もう帰って来てたのか」
「ああ、予定より早いがな。そんなことよりアレ貸せい、アレ」
「またかよ、テメェンのとこにだって似たようなのあんだろが」
「ありゃダメだ。時間がかかりすぎる上に整備しとらん。それにお前さんのとこのやつの方が優秀だしな」
「チッ、来いよ。今なら使ってねぇから貸してやる。けど汚く使いやがったら二度と貸さねぇからな」
「はいはい」
僕は隣のミトラルカちゃんの、体と一緒に大きくなった服の袖を指先で引っ張ります。
「ね、何しに来たの?」
「調べ物らしいですよ」
答えてくれるミトラルカちゃんは終始笑顔です。
ミトラルカちゃんは自分が大きくなったのがとても嬉しいと、本当に嬉しそうにさっき教えてくれました。
本当かな、と顔を覗けばミトラルカちゃんが笑顔を返してくれて、エミは渋い顔で僕のことを見るのです。
ミトラルカちゃんの髪の毛が白いカバーで覆われた、洗濯機くらいの大きさの機械に付いている引出しにしまわれていきます。
この機械は入れたものを調べてくれる便利グッズなのです。さっき仕入れたばかりの情報なので間違いない。
おじいちゃんが光るでっかいボタンを撫でると、カバーとカバーの繋ぎ目の隙間から光が漏れ出して、ちゃんと動いていることをお知らせしてきました。けれど音が何にもしません。ギギーとかウィンウィンとか予想していた音も何も聞こえてこないのです。
とても気になったので白いカバーの中を覗いてみたら、内側には機械なんて詰まっていませんでした。たくさんの絵の描かれた板がピカピカっと瞬きながら、少しの隙間を残してギッチリ詰まってるだけです。
「なんだこれ、面白い! ……なんで動くの?これ」
どこを押そうが、どう電気を流そうとも動きそうにない中身には一体どんな意味があるのでしょう。
指の届く場所にある、中に入っている絵を触ってみると、ボコボコとしていて線の輪郭の分だけ彫られています。ピカピカに光っているところも暖かくない。
白熱球よりもLEDに似てる感じ。近未来的なのです。あ、でも光り方は蛍光灯に似てるなぁ。
僕が指でカバーに守られた内部をグリグリしていると、誰かに後ろからヒョイっと抱え上げられました。
おお、足がブラブラする。
首と目を頑張って使い、後ろを振り向くといつもはいる白薔薇が見えません。代わりにミトラルカちゃんがいます。
白薔薇は……僕の頭の上にいた。
僕の髪の毛を人差し指にくるくると巻きつけて膝を抱えて浮いています。
唸りながらもたまに聞こえる「おがぐぎ」という言葉っぽい声に、そこはかとない不安感がする。名前? 僕の名前じゃないよね?
「あんまり弄ると壊れちゃいますよ? 」
おがぐぎのせいか、白薔薇がいじっている髪の毛がごっそりと抜けるイメージが頭の中を支配して、冷や汗を感じはじめた頃にミトラルカちゃんは笑顔で提言をしました。
助かった。思考の檻に閉じこもるところで引き戻してくれたミトラルカちゃんは、なんというか天使的な存在?
そんな感じなのです。
「おいおい、怪我したら大変だぞ。怪我してないよな?」
持ち上げられたままの僕の指をさすりながら優しい顔でこの部屋の白衣のお姉さんが心配してくれます。
さっきまでの言葉遣いはなくなって、優しさが溢れてる。
持ち主なら、機械の心配をしないのかな。
そんな僕の考えを読み取ったかのように、お姉さんは優しい口調で僕に語りかけてくれた。
「あのな。 怪我は治してやれないけれど、こういうものなら私には直せるんだ」
そう言って白いカバーをボンと叩いた。
「私にできないこと、人にはできないことをやらないでくれ。……私が無力感に苛まれてしまうよ」
そう言って笑みを作ったお姉さんは、そのまま視線を上にあげて宙に浮いている白薔薇に今気づいたのか凄い驚いて少しジャンプしたのです。
また寝すぎて、昨日の夜から夕方まで寝てしまった!
そしてぼおっとしているうちに夜に……




