乾燥って大変
「へへは、へぷちっ」
女の子がくしゃみをした。
それは可愛らしく、子犬のくしゃみを思い出してしまいました。
僕はついさっきまで、たくさんできることが増えた気でいたけれど、実際にできることはそんなにたくさんないのだという事に、行動をしてやっと気づけたのです。
僕のできることのなかで、お姉ちゃん達に教えて貰ったのは、はじめて知る体の動かし方とそれに伴う二つか三つづつの面白いコト。
例えば今ポケットにも入っているキラキラのあんまり甘くない飴玉。これをたくさん捕まえた時にやった、空気に替える宵闇ちゃんに教わった狐の輪っか。
狐の耳の間、人差し指と小指の先を繋ぐなんでも掬える黒いタモ。
これにはいくらでも物が入るのですが僕がやった場合に限り、大きな欠点があります。
本当は物を入れると言うとおりに出すことが出来るはずなのですが、僕にはまだ肝心の空気から元の物に戻すことが出来ないのです。
宵闇ちゃんが言うには空気に替える時に、その物から別れて残った重さの無い物を基にして、また新しく作るのだそう。
言われた通りにやると確かに空気には替えられるし、ナニカも残るのですが、そこから先がまださっぱりわかりません。
まだ中途半端なのです。
そしてそれは洗濯でも同じ事なのです。
女の子は今びしょ濡れなのに、僕は乾かし方がわからない事に今更気づくという間抜けを犯してしまったのです。
自分の事ならいいけど、このままだと女の子が風邪を引くのは明らかです。
「ごめんね、すぐになんとかするからね!」
「はわわさぬいるめぇ」
早口で謝る僕に女の子は何か返事をしてくれたのだけど、まだちょっとわかりません。
ちょっとずつわかってきたような気がするだけです。
髪も服もびしょ濡れにしちゃったけど、幸い今日は暖かかったのでブルブル震えるほどではありません。ですが、至急身体を温めて服も乾かさなければ。
どうにかできないかと手をかざしてみたり目を隠してみたりと行動をして、何かできることがないか懸命に思い出していると、女の子が僕の服の裾どころか腕を抱いて、どこかに連れて行こうと引っ張りだしました。
女の子の表情はよく見れば濡れていることなど構いもしないくらいに必死で、チラチラと何かを伺いながら後退りで僕を引っ張っています。
何を見てるのかといえば、それは先ほどと変わらずにあの熊。
どうやらこの女の子はあの熊が嫌いのようです。
「ただの熊だよ? あれかな、嫌いなのはあの熊がいじめっ子とかなのかな」
「ひゃいひゃぷ、でもららいら!」
あ、ちょっとわかった。この子の言葉は白薔薇と同じ系統の感じだと思う。
なるほど、だから白薔薇には少しわかるのかな。
話す言葉と言えば、お姉ちゃん達と、白薔薇と最初に会った時の言葉と、お出かけしたあの街の人たちの言葉はちょっとだけ違います。
ほぼ同じなのですが、訛り的なニュアンスが白薔薇よりもお姉ちゃん、お姉ちゃんよりも街の人たち、とだんだん強くなります。
とりあえず白薔薇と話すことができれば問題ないのだけど、多分ここの人はより強く鈍っているんだと思う。
それこそ指し示す言葉が違う感じ。
そもそも言葉ってちょっと場所が違うだけで全然違うから難しいのです!
ちょっとやそっとじゃ単語がわからないから。
あれ、でもそれならなんで僕は……
じゃない! そんなことよりも早く服を乾かさなきゃ!
全部を後回しにして、女の子の為にいろいろ考えながら周りを見回すと、あるものが目にとまりました。
「良いのがあった。 これ燃やしちゃおう」
見つけたのは森の木々から少し距離を置かれた枯れた大木。木の周囲三メートル程には草すら生えていなく、乾いた白けた土が顔を出しています。
この枯れ木、家の周りに生えている木よりもずっと背が低くて白く脆そう。
これで暖を取れば、服も乾けば冷えかけの体もぽかぽかになること間違いなしです。
女の子を引き連れてやって来た僕は、早速この木を燃やす為に僕は両手を幹に翳しました。
僕の手の平からはすぐさま可愛い雷が音を立てて、一瞬に十も二十も煌めきます。
「はうりたぁ、綺麗……」
あ、女の子から知ってる言葉が聞き取れた。
今確かに「綺麗」って聞こえました。
なるほど。たくさん話せば僕もこの女の子とお話が出来そう。
しばらくすると、雷を受け続けた木から赤いぼんやりした光が透け出し、熱源が燻った途端に発火しました。
一度点いてしまえば火の回りは早く、燃え出すと一息で天辺まで炎が柱の如く立ち昇った。
燃え盛る木立から女の子は後ずさりで距離を取り、熊は何が怖かったのか走って藪に突っ込んで逃げていきました。
白薔薇は全てのことを気にも止めずに僕の名前を考えてくれています。
ありがとう、しろ。
どんな名前かな。
ほんとの名前にならないかな。
しろがくれるならあだ名でもいいな。
そんなことを思いながらあたっていた火のおかげで、女の子の服もだいぶ乾いてきた。
「お、これズボンとシャツ脱がないと乾き切らないかな」
シャツを摘んでいる時に激突音と破砕音が鳴り響きました。
音の方角はちょうど熊が逃げていった方角です。
まあまあ離れたところから聞こえたので無視して服を乾かすのを優先します。当たり前なのです。
腰の布が厚い部分を乾かすのに難儀しましたがなんとか乾かせたのです。
多少ゴワゴワなのは仕方がありません。
服も乾いて落ち着いた女の子と近くの倒木に腰を下ろして話をしています。
「ちょっとずつわかるようになってるよ。どんどん話そう」
一輪花を摘み名前を聞いたり動きで動詞を聞き出したりを白薔薇に手伝ってもらいながら、順調に言葉を追加していくと案外早くに言ってることをだいたい理解できるようになりました。
僕にはもしかしたら語学の才能があるのかもしれません。




