森の熊っぽい生き物
キラキラの終わりが見えてきました。
あれからふよふよと漂ったり泳いだりしているうちに、キラキラの薄い方角が出てきたので突き進んでみたのです。
「見て!緑色が見えてきたよ」
「む〜、なまえ! 呼んでくれないの?」
白薔薇が二の腕越しから上目遣いでおねだりをしてきます。ほっぺたが少し赤らんで柔らかそう。
「しろ「あい!」ば……あの緑色は何の色なのかな。葉っぱかな」
「そうだねー。葉っぱかもしれないし、緑色の血溜まりかもしれないね」
「それはいやだねぇ」
「ふふん、そうだね〜」
白薔薇はもう自分の名前を「しろ」だと認識しちゃったみたいで反応が速い。なぜか白薔薇と口にするのが恥ずかしいので丁度いいから「しろ」って呼べばいいや。
だんだんキラキラが薄くなってきて抵抗が弱くなる。目指した緑色がもう近い。
纏わりつくキラキラを振り解き、ベシャリと音を立て、見えていた緑色の部分にくるんと回転して足から着地した。
キラキラはさふりと手から離れると、すぐに薄くなって次第に見えなくなってしまった。
「着いたー! しろ、着いたぞ。けど来た道が無くなっちゃった」
「ん、大丈夫。私がいるもの」
「大丈夫なの?」
「大丈夫」
「そっか、ならいいね。僕もいるもん」
二人でふふふと微笑み合っていると物音がして、そこから視線が送られていた事に気づきました。
二人で視線のヌシの方を見やると、木の枝に半分隠れた先に子供の女の子が地面にお尻をつけて、尻餅をついたみたいに座っています。
「お尻が緑色になってると思うけどいいの?」
女の子に話しかけてみました。
僕はちゃんと履いているサンダルのおかげで緑になっていません。セーフです。
「あ、あああ、あ……」
女の子が何か言いたいようです。
僕はふわふわ浮いてる白薔薇に緑色が付かないように気をつけて女の子に近寄ります。
「あなりしゃぬ、ふりひはは……」
そう言うと女の子は泣きながら笑うのです。それも手を組んでるから、たぶん祈りながら。
「なんて言ったのかな。しろ、わかる?」
「わからなくはない……くらいだけど、ちょっと訛りが強くてはっきりしないの。たぶん「ご主人、私を連れてって」って言ってた」
「しろはすごいなぁ」
「えへへ」
「でもご主人て、なんだろ」
近くにそのご主人てのがいるのかなぁと後ろを見たら、でーっかいのがいました。
こちらを見もせずにもたもたとご飯を食べている熊です。あ、熊っぽいやつです。
その熊っぽいのは公園にある公衆トイレくらいの大きさで、肩が大きいのです。
茶色い毛皮は硬そうで臭そう。
それが、ベロベロになった緑の血を流す何かを両手に可愛く持って、口の周りを汚しながら美味しそうでも美味しくなさそうでもない顔で噛り付いています。
もしかしてこれがご主人?
たぶん違うんだろうなーと思いつつも師匠に「決め付けは良くない」と言われているので確かめるために近づくと、まだ全然遠いのにグルルと唸られました。短気なのです。
「わきゃべりる!はあはい」
足元まで這ってきた女の子が僕の服の裾を引いて、熊っぽいのから遠ざけようとしている様子です。
「へい! 大丈夫だから見ててごらんお嬢ちゃん」
あわあわしてる女の子は置いといて、ごはん中の熊っぽい子の頭でも撫でましょう。
手を出すとまたグルルと言うのです。
何が不満なのでしょうか。
ご飯を食べていて、そこに撫でられが加わるなんて素敵なことだと思うのにこの子はグルルと唸ります。
あ、撫でられる可能性を考慮してないから警戒しているのか。
それなら笑顔です、困ったら笑顔なのです。
師匠に教えられた通りに歯を見せて笑います。
コツは犬歯が見えるくらいに笑うこと。そうすれば相手もつられて笑顔になること請け合いです。
しかしどうでしょう、熊っぽい……もう熊でいいや熊は声を小さくするだけで、まだグルルと言っています。
こうなるともう僕の手札は尽きてしまうのです。
引き出しが少なすぎるのではありません。ここの引き出しは大きい引き出しなので、数が取れていないだけなのです。あとで仕切りを増やすのです。
でも、こうなれば僕は考えて何をするのが一番かを見つけなければならないのですが、何を隠そう得意なのですよ、こういうのは。
「とりあえず、ご飯が終わるまで待っとこう、しろ」
「うん」
熊のご飯が終わるまでに、熊のことを考えます。
熊がグルルと唸るのは、熊の機嫌が悪いからだと思うのです。
つまりは機嫌が良くなればいいのですよ。簡単なのです。
ならば何をすればいいのか。
こういう時は師匠の言葉を思い出すのです。
あれは酔っ払いのおじさんが喧嘩腰で絡んできた時の事。
「ねーぢゃん、なんでぇ。文句でもあんのかよ」
「ねぇよ。誰だお前?消えろ糞が」
「ああん? 酷いこと言うなぁ〜」
「うっせ、消えろやボケ!」
師匠はそう言うとおじさんを蹴り飛ばしました。
おじさんはそのあと土下座をして、師匠に誤ったあとに「えへえへ」と笑ったのです。
「これだ!」
僕はそう言って立ち上がると、熊はグルルと唸り、女の子はビクッとしました。
ごめんね女の子。




