眠気
「さあ、着いたよ」
紺碧ちゃんのその声を半分寝ながら耳にしてます。
僕はもう眠気でふらっふら。
お昼寝を舐めてはいけなかったのです。
お姉の忠告は正しかった。戻れ時間と念じたけど何も変わらない。
当たり前なのだ。そんな後悔よりも今はちゃんと寝たい。
紺碧ちゃんの水の波紋の中は秋の温かさみたいに心地よくて余計に眠気を誘うのだ。
睡魔が両手で僕の瞼を抑えて離さないせいで目を瞑ったまま、手を引かれて外へと出る。手は柔らかいけど誰の手だろう。
「ほら、ちゃんとお昼寝しないから。ふらふらしてるよ、大丈夫?」
「……ちょっとだけ大丈夫。 残りはもう全然ダメ、眠い」
さっきまで夜だったのにお出かけ先が明るい。目を閉じててもひどく眩しくて、目を開けたくない。
夜更かしし過ぎて朝んなった?
「着いたけど、一回帰ろうか。ね?」
「そ〜、お、ねっ。うん、今日は帰って寝よ? 王様も遊びに行くなら他のとこに行こうか」
漆黒ちゃんと宵闇ちゃんの声がなんか固い。
「だいじょうぶ……起きるよ……」
僕は太陽に負けないように目を頑張って開く。
睡魔の手を退かそうと瞼の上を指で雑に摘んだけど、睡魔はさっと避けたのか自分の瞼を摘んだ。
ちょうどいいので上に引っ張る。
お昼寝をさぼったせいで寝る時間がちょっとだったので大分眠かったけれど、そこで僕は景色を見た途端にしっかりと目が覚めた。
ここに着くまでは眠くて仕方なかったはずなのに、景色を見た瞬間にそれはどこかへと消えていたのです。
「違うよ、ここじゃないの。だって……」
見覚えのある松の木の横を、踏んだことのない敷き詰められた砂利の上をちょっとふらつく早足で歩く。
「こんな建物、知らないもの」
ずっと見据えていた、砂利道の先にある和風の家を指差す。
指差した家は泉のほとりに建っていて、家の前は木が切られて草も払われています。
家から遠い泉の反対側へ行くほど緑は鬱蒼としているので、元がああだったとこに人が手を入れてこうしたんだと思う。
砂利の歩きにくい中を知らない家へと近づくとその入り口には看板がありました。
木を短冊切りにしたその看板には、少し前に師匠と通りを歩いている時に見た児童館と同じ漢字が使われていたけれど、教えてもらったことのある漢字が少ない僕には全部は読めない。
爪先立ちで窓から家の中を覗いてみたけどカーテンも付いていない殺風景な室内で、誰も人はいなさそう。隠れるとこもないし。
白薔薇にも「中に誰かいるかな」と指をさして尋ねたけれど首を振りました。
覗いている今の僕は、変な気分で息苦しい。
あんまり落ち着かなくてソワソワする。白薔薇がくっついているのに背中がちょっと寒いのです。
指した人差し指が勝手に少し震えている事に気づき、ちょっとびっくり。
急に起きたからかも。
「ぅ〜ん、知らないところなの? 水色〜! 場所は合ってるんだよね?」
「そのはず……。えっと、そうだ! いないか呼びかけて探して、返事がなかったら今日はもう帰ろう?」
「そだ、そだね。そうしよう、神ちゃん」
みんなの様子はだいぶ変なんだけど言ってることはそんなに普段と変わんない。
自分自身も何かを感じながら、僕はカパ美とカパ代を呼びながら泉を一周する事にしました。
「カパ代〜、カパ美〜、遊びに来たけどいる〜?」
「私たちは一緒に声出したほうがいいのかな」
「どうだろ、急に来た何も喋らない知らない人より声をかけてくる知らない人のほうが少しはマシじゃない?」
「けど神ちゃんの呼びかけてる声が何を言ってるのかわかんないんだけど、なんていえばいいの?」
「私らが普通に声かけしたらよくわからないことをしゃべる怖い人っぽくない?」
「神ちゃんと同じこと言えばいいじゃない」」」
「カパ〜」
「王様、カパでいけんの?」
「わかんないけどたぶん大丈夫」
「ん、なんにしろ大丈夫だよ。たぶんね」
「あ、そっか……」
呼び声には結局返事はなく、泉のそばを歩くただの散歩になりました。
そのことにどうしてか安心感を貰いつつ、やっぱり二人は恐竜さんのところにいるんだなと、僕の体が求めていることを受け入れられた事に少しだけ安堵するのです。
それは不思議な感覚でした。
懐かしさはあるのに、この変な場所からすぐに離れたくて、紺碧ちゃんにせがんですぐにお出かけの水滴を呼んでもらう。
フライング気味に飛び込むとお家を目指します。僕は何もしなくていいのだけど、今は何もできない事がもどかしい。
のんびり入ってくるみんなを急かして全員を引きずり込むと、外の景色が見えなくなってから腰を下ろしました。
「いなかったね。やっぱりみんなのとこにいるんだよ」
誰にも届かないように独り言をつぶやくと、白薔薇だけが反応を示しました。
落ち着くとまた眠気がやってきて思考が重い。
白薔薇の温かさも心地いい。
眠る直前に久しぶりに白薔薇の声が聞こえた。
その声には、起きたらちゃんと返事をしよう。
僕の意識は靄に包まれた。ねむい。
僕は白薔薇に押し倒されて、中からこぼれ出たらしい。
誰かの「あっ!」という声を耳にしながら僕と白薔薇はどこかへと落ちていく。
僕はそのことを目覚めた後に白薔薇に教えてもらうことになるのです。
河童の姉妹の住んでいたところに建っていたのは河童伝承館です。
あのミイラとかあったりするやつです。
最近出来たってことはここで何かがあったのか見つかったのかです。
お姉さんたちにそんなことを知る由はありませんが、森に人の手が入った時にはだいたい元いた生き物はどうなるのかは永い人生で経験があるので少し察してます。




