かしこいいきもの
犬のお腹を撫でていると、すぐそばまで音を立てずに猫が背後に歩いてきました。
振り返って見たその猫は立ち上がった時の僕の頭と同じくらいの位置に頭がある大きさの猫で、僕は見たことがないのでたぶんだけれどゲーさんのとこで見た図鑑に載っていた虎くらいかもしれません。
大きさは虎くらいでも、その猫はやっぱり猫だと思うのです。なぜならその猫はシマシマの模様はないし、黄色くないし、シュッとしてるし、にゃあと鳴くのですから。
「ん? にゃあとは鳴かないのよ。その子の喉は体が大きい分広くてね、その分声も低めかな」
夢ちゃんが否定の言葉を口にします。
「でも確かに、そこのにゃんこから鳴き声が聞こえたよ?」
そう言って猫のほうを見やるとちょうどいいタイミングでまたにゃあと鳴き声が聞こえました。しかも今度は四匹分の鳴き声です。
「ほら」
そうでしょ、と夢ちゃんに振り返ればああ、違う違うと言いながら猫の前脚を持ち上げます。
「この子の声じゃないわ。この音はここから鳴っているのよ」
持ち上げた前脚の裏、肉球の付け根辺りを夢ちゃんがぷにっと押しました。
「みゃーん」
猫の足裏から、可愛らしい子猫の声が聞こえてきます。
「この子は肉球の付け根にある部分を押すと音が鳴るの。爪先立ちで歩いたり走ったりする時は踏まないから音がしないのだけど、落ち着いたりすると踵を落とすから音が鳴るのよ」
なんかちっちゃい子のサンダルみたい。
「あの子を見てみて」
夢ちゃんが指差す先には、よく行くおばさんの家のテレビの上に置いてあったぬいぐるみそっくりなクマの姿が。そのクマはのっそりと茂みから出てきて、少し離れたところでどっかりと腰を下ろしました。後脚を伸ばしてシャッキリと背筋が立つ姿はますますぬいぐるみそっくりです。
図体はクマそのもので、目はうるうる円ら。爪先には鋭い爪など無くて、肉球だけが大きく目立ちました。
「この子もね、肉球に特徴があるの。爪も長くないし手も大きいだけで器用じゃないの。けれどそれじゃあ困るからってあの子の肉球はね、ペタペタと色んな物がくっ付くようになっているのよ。歩いた後は手を水で洗わないと付かないけどね」
楽しそうです。僕の手が何でもくっ付くようになったら何をくっ付けようかな。
「でも何回も手を洗わなきゃいけないから、水辺にしか住めないの。舐めてもくっ付くようにはなるけれど、すぐお腹を壊しちゃうからやっぱり水がないとね」
クマさんは暮らしが大変そうです。僕の知ってるクマはそんな事ない、と思うけどな。会った事ないから何とも言えないけど。
他にも周りを囲む動物たちはたくさん。空を飛ぶ生き物も水の中に暮らす生き物もすぐそばまで集まって来ましたが、僕がわかる動物は少ししかいません。
それも実際には見たことのない、本で見たことしかない動物ばっかりです。
「ここに居るのはみんな外の世界にはもういない子達なの。絶滅っていうのかしら」
夢ちゃんが知らない動物をきょろきょろ見て首を回す僕に、そう顔を寄せ教えてくれます。
その時です。大きな体の子が多いみんなごと、大地を揺らす振動がすぐそばまでやっと到着しました。
「この子もね」
黒い威容に見上げるほどのここに居る誰よりもな巨体。
首まわりと体の陰からチラチラと見える尻尾の先に、白い羽毛のようなふわふわと風に負ける毛を生やしたその子は、師匠がお土産でくれた図鑑に載っていたものとは色が少し違うけれど、僕の知っている通りのかっこいいティラノサウルスでした。
「わ、触りたい! よじ登りたい!」
友達になりたい!
見つめるティラノさんの重心が少し左に寄る兆しがティラノさんの頭に見えました。
チャンスと思って軸足に飛びつきます。
触れた黒い肌はザラザラはせず、小さな鱗みたいな模様で一杯のサラサラの肌触り。手の届かないシワシワした膝のところはどうなってるのでしょう。どうやって触ろうかな。
よじ登るのは無理そうです。
「こら! ちゃんと他人のことを自分で考えてあげるんでしょ!」
「僕にちっちゃい子がくっついても気になんないもん!」
僕に離す気はありません。
だってこんなにカッコイイんだもん。
僕が夢ちゃんに窘められていると、頭の上から声がかかりました。
「ああ、大丈夫ですよ」
えっ? っと思い、上を見てもティラノさんしかいません。
「でも今度からは危ないから声をかけてね」
見上げている僕に向かってティラノさんが喋りました。
僕はショックを受けて固まってしまいます。
これは生「ギャオン」を聞けないかもしれないって事なのかな……
夢ちゃんがティラノさんに「ごめんね、タリちゃん」と話をしています。
僕は夢ちゃん捕まって抱き抱えられて、離してもらえません。
しかも罰として僕よりもちっちゃい子たちがしがみついていて、たまにサワサワっと動いて擽ったくしてきます。その度、力を入れて我慢
しているけれど、よく考えたら我慢しないで笑っちゃった方が楽でいいのかも。
僕にくっつくのはちっちゃい金色のお猿さんで、たぶん赤ちゃん。キュッ〜とかキャュ〜とか小さく鳴いて弱々しいので、動かないようにぎゅっと抱きしめると怪我をするかもしれないから触れないのです。
何て恐ろしいおしおき!




