ユミと康祐とタカマサの再挑戦が始まる。果たして、今度こそ、夢は成就するか。
タカマサは、二十歳の誕生日を迎えた。漫画作品の公募に出展した彼の作品には、何の反応もなかった。意気消沈してるかと思いきや、
「時々、お前の部屋で、マンガ描いてもいいか?」という問い合わせが、康祐のスマホに入った。
「いいけど」と、康祐。続けて、
「二十歳までっていう約束は?」
「そうなんだけど」と、タカマサ。
「今はまだ、内緒で続行中」と続けた。
「いつでも、どうぞ」と、康祐は応じた。タカマサには、ユミの動画作りで、知恵を貸してもらった恩義もある。
その週の土曜日の午前中、康祐の部屋を、早速タカマサが訪れた。
「やっぱり、まだ諦めてなかったか」
缶コーヒーを手渡しながら、タカマサの座った小さめのソファの前に、デスクチェアを滑らせて、康祐が座る。
「俺も騙されたようなもんだからな」とタカマサ。
「ん?」
「本庄に引っ越す必要はなかったんだよ」
「うん」
「俺の気持ちを、高校受験に向かわせるのと、悪友との交際をしばらくの間、断つことが親の狙いだったんだ」
「俺とか、か?」
「ははは。そう言うな」
「気にもしないさ」
「折をみて、必要な機材を、この部屋に持ち込みたいんだけど、いいか?」
「その机を使えよ」と、康祐は背中の、作り付けの棚のような机を指した。
「ありがたい」。片手拝みに、タカマサが言った。
「もう、作品に手を付けているのか?」
「いや、まだだ。前回、己の力不足を痛感した」
「ふ~ん。……」
「ん、何?」
「ユミがね」
「うん」
「同じこと、言ってたなぁって。……」
「同じ意味かどうか分からないけど、俺は自分の人生経験の少なさを痛感したんだ」
「うん」
「魂を込めて、訴えたい何か、みたいなの、俺にはまだ無いなぁって。……」
「……」。声には出さず、頷く康祐。
「今は、それを求めて、見識を広く、深くしようとしてるっていう所だね」
「……」
「何?」
「うん。お前、少し大人になった感じするよ」
「もう二十歳だぜ」
「ははは。俺もだけどな」
二人で、少しの間、笑い合った後、康祐が続けた。
「俺に少し、考えがあるんだ。マンガ作りに取り掛かるの、ちょっと待ってくれないか?」
「ん?」
「ユミがね」
「うん」
「『映画作りたい』って、言ってるんだけど」
「うん」
「ユミとお前と、俺も入れて、共同制作にしない?」
「ふ~ん。……」
「マンガじゃなくて、アニメーション風になるかもしれないんだけど、どう?」
「風?」
「うん。もしかしたら、アニメーションとはちょっと違う仕上がりになっちゃうかもしれない。……」
「どういうこと?」
「ユミが構想している映画っていうのは、実写じゃなくて、アニメーションの方が、表現方法がマッチしてると思うんだ」
「ふ~ん。……」
「この前、お前が連絡してきた時から、なんとなく考えていたんだ」
「……」
「もうすぐ、ユミも帰ってくると思うから、ユミも入れて相談しないか?」
「おう。丁度よかったよ。次の構想を練るのに、少しくたびれていた所なんだ」
「そっか。じゃあ、ちょっと待っとけ。軽い食い物、作ってくるから。昼前に、少しばかり腹に何か入れて、それからユミの部屋に行こう」
「悪いな」
「いいって。あ、それからな」
「ん?」
「こういう展開もあるかなぁって思って、この場のやり取りを撮影してるんだ」
「ふ~ん。……」
「お前がイヤだったら、お前の画像は加工するし、存在も架空の誰かにしちゃうんだけど。……」
「そっか。……。ちょっと考えさせてくれるか?」
「OK。メシ、作ってくるから、後で返事、聞かせてくれ」
「えっ。……」
康祐は、階下のキッチンに降りて行った。
ユミは、朝6時からのコンビニのバイトを終えて、お昼過ぎ、1時近くになって帰ってきた。
「帰ったよ」というメッセージが、康祐のスマホに入った。
「タカマサ君、去年はアリガトね。イメージ通りの構成が出来上がって、チョー嬉しかった」
掃き出し窓から入って来たタカマサに言った。
「大したこと、してないよ」
「いやいやいや」
「挨拶はそれぐらいにして、本題に入ろうぜ」と、康祐。あらましのことは、既にユミに連絡してあった。
「そうね、まず。……」
「ん?」。タカマサも康祐も、頭からユミに仕切られそうだ。
「ユニットを組むのはいいんだけど」
「うん」
「続けるかどうかは、本人次第」。そう言って、ユミは二人の目を見た。
「当然でしょ」と、康祐。
「いや、そうとも言いきれないかも。……」。タカマサだった。
「ん?」。康祐が、タカマサを横目で見やった。
「今は、これから始めようというんだから、『やめる』ということは考えられないかもしれない」
「うん」
「何か、問題が起きた時。お互いの感情がもつれた時。病気か何か、身体的な問題が発生した時」
「そっか。色々考えられるね」
「うん」
「そういう時」とユミ。
「続けることを、強制しないこと。励ましたり、アドバイスしたりはいいけど。……」
「うん。了解」。二人が、声を揃えた。
「それから」と、ユミ。
「ん?」。まだあるのかという顔の二人。
「プロ意識を持って、臨むこと」
「ふ~ん。……」
「今はまだ全然、お金を手にするなんて考えられないでしょうけど」
「だね」
「お金を払ってもらえるかどうかじゃなくて、任された作業なり業務は、プロ意識をもって完遂すること」
「OK。いいよ」と、タカマサ。
「俺も了解だ」と康祐。
「私が作りたいのは、ドキュメンタリーだから、こんなやり取りも、作品の中に入っちゃうけどいい?」
「当然、頭から撮影してるんだろ?」と、康祐。
「モチ」
「タカマサも了解だって」。ユミに向けた視線を、タカマサに移す。
「……」。彼は、しっかりと頷いた。
「普段の制作打ち合わせは、スマホでいいね?」とユミ。二人の返事を待たずに、
「土曜か日曜の午後には、顔を合わせて話し合って進めたいな」
「異議なし」
「俺も」
「タカマサ君は、当然、作画担当よね」。言いながら、タカマサを見る。
「だね」
「最初は、こーちゃんがストーリーを考えてくれない?」
「俺もその積りでいたよ」。頷きながら、康祐が応える。
「とりあえず、私は、全体の進行管理とか、調整。まぁ雑用ね。それを引き受ける」
「よし。話は決まった。早速だけど、第一作の方針」と、康祐。
「おぉ~」と、ユミとタカマサ。
「最初は短編でいこうと思う」
「無難なところね」
「SF物で、宇宙空間から、地上の問題のある国の紛争なんかを解決していく話」
「こーちゃん、ヤル気になってるねぇ」
「俺はもう、意識はプロそのものだよ」
「はい。あなたについて行きます」
「俺も」と、タカマサ。
「ユミ。ここで一旦切ってくれない?」
「ほいっ」。声を掛けて立ち上がり、録画を停止した。
「俺の部屋のと、ユミの部屋での今までのやり取り、それぞれ1コマ0.1秒で、20~30コマで纏めてもらえるか?」。タカマサに聞く。
「大変な時は俺も手伝うし、ユミでもできるでしょ?」
「『でも』って、何よ」。ユミが口を尖らす。
「そんな時は、遠慮なく頼むよ」
「うん」
「でね」と、康祐。
「肝心のお話の展開の方なんだけど」
「うん」
「VR空間で、話を進めて行こうと思うんだ」
「へぇ~」
「仮に、ユミをMJ12、タカマサをシグマ40,俺をα(アルファ)ロメオという登場人物として」
「ズルい。こーちゃんだけ、格好いい」
「『仮に』だから。それに自分の好みの名前を、考えてきていいから」
「うん」
「それより、話の腰、折らないでくれる?」
「はい」
「プロ意識でいこうぜ」
「参った。一本取られた」。康祐にジッと見られて、ユミは口をつぐんだ。
「三人で、VRの中で、話を進めて行くんだ」
「……」
「背景なんかも、宇宙ステーションの中で。地球を見ながら、作戦会議したり」
「うん」
「登場人物も、どんどん必要になると思うから」と、ユミを見た。
「ユミが、前回の動画で声を掛けた人の中から、VR環境を備えることが出来て、俺らの企画に参加してくれるエキストラみたいな人、募集できないかな?」
「いいよ。告知してみる」
「頼むな」
「了解。αロメオ」
「うん。飲み込み早くて、いいよ」
「……」。べぇ~、とユミが舌を出した。
「セリフが皆に伝わるように、参加してくれる人全員の、連絡グループ作ろう」と、康祐。
「それは、必要だね」
「制作会議も、VRの中でいいんじゃない?」と、タカマサ。
「それもそうか。……」
「折々でいいんじゃない?」とユミ。
「VRの中でやったり、たまにはこの部屋とか、こーちゃんの部屋とか」
「よし。それでいこう。次回までのことは、スマホで色々連絡するから」
「あっ、それとさぁ。……」と、ユミ。
「VR環境って、いくら位、必要?」
「ん?」
「私、VRゴーグルとか、持ってないからさぁ。……」
「まぁ、20万だね」と、タカマサ。
「20万。……」
「康祐が言うような、宇宙ステーションの中とか、そこに備えたモニターで、地球を見てるだとかの風景を撮影する為には、30万は必要かも」
「……」
「康祐の発案は、俺にとっても役に立つアイデアだから、そういう環境作りの機器は、俺が揃えるよ」
「さすが。タカマサんちは、親が太いからいいよなぁ」
「ユミちゃんも、映画制作を目指すんだったら、将来はそのレベルの機器を意識しておいた方がいいかも」と、タカマサ。
「でも」と、続ける。
「VRの中に参加して、会議したり、俳優として振る舞うんだったら、20万以内で済むんじゃない?」
「ユミは、俺の部屋に来て、俺のPCで、一緒にVR見れば?」と、康祐。
「そういうこと、できるの?」。二人を見較べながら、ユミが聞いた。
「今は、それでいいんじゃない?」と、タカマサ。
「どうしようかなぁ。買っちゃうかなぁ。……」
「バイトは、学費かせぐ為にしてるんだろ?」と、康祐。
「そうだけど。……」
「どうしても必要だとなってから、買えばいいんじゃない?」
「こーちゃんは?」
「俺は店の手伝いで稼げるし」と、康祐。
「季節ごとの陶器市に行ってくれば、それでVRの為の費用くらいは、どうにでもなるよ」
「ふ~ん。……」
「そのうち、もっと上位機種が欲しくなったら、使わなくなった機器をユミに回してもいいし」
「嫌!」と、キッパリとしたユミの声。
「そういうのは、嫌なの」
「……。うん」。分かってた、という感じの康祐だった。
「じゃあ、まずゴーグルだけ買いなよ。てか、俺が一式買ってきて、ゴーグル2台で見れるようにセットしてきてもらうから、ユミはゴーグル1台分だけ、負担してくれる?」
「う~ん。……」。
「バイト代、貯まったら、また考えればいいじゃん」
「うん。ありがと、こーちゃん」




