第22.5話 空から
「あの病め。忌々しい変化を遂げてくれたものだ」
セレスティアの言葉には怒りが滲んでいた。もっとも、それを感じ取れたのはメモリアぐらいしかいなかったようだ。居住エリアの周囲の乗組員たちは各々の作業に集中するか、娯楽に興じている。
コロニーとワンダーの間に流行った病は、セレスティアが地上で根絶するべくあらゆる手を打っていたものに酷似していた。コロニーの住人の免疫系を強化した結果、コロニー内では発生しなかった。しかし、病原菌が死に絶えたのではなく、共生関係を結んだためだった。
「克服はできそうですね」
少し間をおいて、
「これは生存競争だ。手を打ち続けるしかない」
言葉に反して祈っている、とメモリアは思った。セレスティアは地上に干渉しないと決めているから、祈るしかできない。しかし、誰が叶えてくれるのだろうか。
メモリアは別の話題を切り出す。
「旧ヒースからの搬出が落ち着いたようです」
旧ヒースが放棄される前に住人全員と管理者の脱出に成功したが、いくつもの無人作業機械などが置き去りにされた。その回収が無事に終わったのだ。
「それは幸いだ。彼らには元気でいてほしい」
「第1世代のコロニーでしたか。面識があったのですか?」
メモリアが問うとセレスティアは微笑んで、
「ある。この表現が適切かわからないが我が子だよ」
彼女の手のひらの上に映像が浮かび上がる。分厚い雲に覆われているその座標はコロニー「ヒース」の跡地だ。
レーダー表示に切り替わると、ドームで覆われているはずの内部構造がむき出しになっているのがわかる。風雪に耐えきれず、崩壊した建物が無数に並んでいた。
「……ひどいものです」
「痛ましい、というべきなのだろうな」
セレスティアを見ると目を伏せていた。
「コロニー「ヒース 2nd」の建造は順調のようです」
その言葉にセレスティアは映像を切り替えた。大地には巨大な穴が掘られ、その中で多くの人々と無人作業機械が協力して、地下部分の建築と機材の搬入を行っている。
目を引くのは中央の核融合炉だ。ジーンバンクシップに積まれているものとよく似た構造だ。
「あれは、ミューオン触媒核融合炉か。アスチルベは技術を独占しないか」
「何らかの取引があったのかもしれません」
実際にどのようなやり取りが行われているかはわからないが、取引があったと考えるのが自然だとメモリアは思う。
「それが理というものだが」
含みある物言いにメモリアは安堵を覚えた。いつものセレスティアだ。
「アスチルベには通じないと」
「そういうことだ。最初の子は生真面目だったが、その子供は面白いことをする」
作業エリアの周辺には作業に携わる人間の住居や無人作業機械のメンテナンススペース、資材置き場などが並んでいる。その中に、一つ大きく堅牢そうな建物があった。コロニー「ヒース 2nd」の管理者本体のある場所だ。
「管理者には機密性の高い場所を好むよう教えたが、新しい経験で好みは変わるか」
そうつぶやくセレスティアは嬉しそうだ。変化を歓迎しているように見える。
「子の変化は制御できませんよ」
「――メモリア、あなたと話していると言葉に血が通う」
意外な言葉にメモリアが驚く横で、セレスティアが映像を切り替えた。
今度は洋上を進む巨大な双胴船の姿があった。甲板上には涙滴型の巨大なドームも見える。コロニー「ビーチ・パールウォート」だ。ドームの横には空気抵抗を減らすための角が並んでいて、その後ろにはコンテナが並んでいる。
「ヒース 2ndの物資か。あのような使い方もできるのだな」
セレスティアは一通り眺めた後、映像を消した。
「彼らの幸運を祈ります」
メモリアは思わず口にしていた。
自分の祈りは誰が叶えるのか、とメモリアが考えていると、セレスティアは満足げにいった。
「なら、私は皆の力を信じようではないか」




