六話 水行の源はどこ?
「……なぁ緋月……ここは手分けして行かないか?」
月楼を出てすぐに、紅葉は遠慮がちに緋月へ声をかけた。
「ほぇ? なんで?」
緋月は意気揚々と踏み出そうとしていた足を元に戻すと、キョトンとした顔で理由を問うた。
「いや、二人で同じ所行ってても時間かかるし……じゃなくて……その……俺、は……」
紅葉はもごもごと小さな声で何かを述べようとする。しかし、最後までは声にならず、悔しそうにギリと歯ぎしりをした。
「…………あ、そっか。弐番街道にも行かなきゃいけないもんね……!」
普段は鈍い緋月だが、この件に関してはすぐに察して、ぽんと手を打った。
紅葉は訳あって、弐番街道を避けている。彼女が何も話して来ないので、緋月も詳しいことは聞いていない。
ただ紅葉は、弐番街道やその先の隠り世の話になると、苦しそうな表情になるのだ。何か辛いことがあったのは確かだろう。
「…………」
その証拠に現在も、少し俯いて唇を噛み締める紅葉の顔は青く、瞳が小刻みに揺れているのが見て取れた。
「……うんっ、いいよ! だいじょーぶっ! 弐番街道はあたしに任せてっ!」
それに気付いてしまった緋月は、紅葉を安心させるように手を取って、任せてほしいと胸を張って笑った。
「……っ、ごめん、ありがとな……んじゃ、その代わり残りの街道は全部俺に任せてくれ」
紅葉は痛みを堪える様な表情で礼を告げた。それから首を振ると、ぱっと表情を一転させて緋月を真っ直ぐに見据えた。
「えぇっ!? それじゃ紅葉が大変じゃない?」
紅葉の突飛な提案に、緋月は目を丸くして驚いた。
「いーや、平気。俺には式の二人もいるし、何より……弐番はすっげー広いだろ? だからそう考えれば平等だ」
紅葉はそんな緋月を説得するように言葉を続けて、十六夜から預かった「火」の札を差し出した。
「そ、そぉ……? ……うー、紅葉が平気って言うなら平気……だよね! わかった、残りのとこはよろしくね!」
緋月は暫しの間受け取ることを渋っていたが、長いこと一緒に居る相棒の言葉を信じることにして、「火」の札を受け取った。
「ん、任せろ! ……そんじゃ気を付けろよ、緋月」
紅葉は緋月の行動に満足そうに笑うと、手を振って緋月とは別の方向へ走り出した。
「うんっ! 紅葉もね!」
緋月もそれに応えるように手を振って、弐番街道へと駆け出していった。
****
「……まずは肆番街道、だな」
緋月と別れた後、紅葉は真っ先に肆番街道に続く関所へと向かっていた。肆番街道であればそこに住まう妖怪も多く、簡単に聞き取り調査ができると踏んだからだ。
肆と書かれた赤い門の前に立つ門番へと通行許可手形を見せて、紅葉は今朝も訪れた肆番街道へと足を早めた。
「んー、さてどうすっかな……」
肆番街道の大通りへとたどり着いた紅葉は、辺りをキョロキョロと見回しながら呟いた。
ここの大通りは壱番街道とは違って整備されている訳ではなく、ただ単に道幅が広いがために大通りと呼ばれているだけである。
「っ、しまった! 興奮してて気付かなかったけど、もう夜じゃねぇか……」
立ち並ぶ民家から漏れる灯りを見て、紅葉は焦ったように声を上げた。
別に妖怪たちは寝ずとも生活は出来るのだが、何となく夜は自身の家にこもってしまうのである。
「どうしよう、依頼で何回も来るって言っても、別に詳しいって訳じゃないし……」
早速計画が頓挫しかけて、紅葉は困った様に頬をかいた。自力で探し当てることも可能ではあるが、それだと時間がかかりすぎてしまう。
「おや、紅葉ちゃんじゃないか。また陰陽亭の依頼かい? こんな時間まで大変だねぇ」
そんな八方塞がりで困り果てていた紅葉に、親しげに声をかける人物がいた。
「あ、玉緒さん……、どうも!」
紅葉が驚いて振り向けば、そこには今朝の依頼でも出会った猫又の玉緒が立っていた。
肩の辺りで切り揃えられた黒髪に、黄色を基調にした着物。頭頂部に生える三毛模様の猫耳さえ無ければ、玉緒は普通の人間のようにも見える。
「いや、今回は依頼じゃなくてちょっと探してる所があって……」
人当たりのいい笑みを浮かべながら手を振る玉緒にぺこりと頭を下げ、紅葉は現在探しものをしている旨を伝えた。
「へぇ、場所探しかい?」
玉緒は紅葉の困った様な言葉を受けて、パチクリと瞬きをしながら頬に手を当てて聞き返した。
「はい、そうなんです。その……、この辺りで一番水行の力が強い場所って分かりますか?」
折角こんな夜中に出会った貴重な住民だ。紅葉は藁にもすがる思いで彼女に問うた。
「はぁ、水行の力ねぇ……うーん、すまないねぇ、ちょっと猫又のアタイには思い当たらないね」
しかし、玉緒の反応は芳しくないものだった。
それもそうだ、本来猫又と言えば土行などを司る妖怪であって、水行を司るものでは無い。
「あー、ですよね。すいません、ありがとうございます」
微妙な表情の玉緒を見て、紅葉も苦笑しつつお礼を言った。
さて、これは困った。早くも頼みの綱が途絶えてしまったのだ。紅葉は再びしかめっ面になって、策を講じ始める。
「……そうだねぇ、この辺りには河童だの雪女だのが多いし、そういう奴らに聞いた方がいいんじゃないかね?」
それを気の毒に思ったらしい玉緒は、しばしの逡巡の後に助け舟を出してくれた。
「あ、雪女……! そっかなるほど……! 玉緒さん、ありがとうございます! それじゃあ俺は早速!」
玉緒の口から飛び出した単語に聞き覚えがあった紅葉はパッと表情を明るくすると、お礼と共に勢いよく頭を下げた。
「あいよ、気を付けるんだよ!」
玉緒は役に立てて良かったよと威勢のいい笑い声をあげ、駆け出していく紅葉を見送った。
「えーと、確かこの辺に……」
玉緒とのやり取りの後、紅葉が向かっていたのは肆番街道の中でも一等地と呼ばれるような場所だった。紅葉の中の心当たりはこの辺りに住んでいると記録してあったからだ。
しばらく一等地を歩き回っていた紅葉は、見覚えのある水色の着物を見つけて足を止めた。
「……あっ! いた! 小雪さん!」
そう、紅葉の心当たりというのは、雪女である小雪のことだ。
「まぁ、紅葉さん? どうか致しましたか……? もしや……先程の件で何か?」
縁側に腰掛け、静かに鈴を眺めていた小雪は、突然現れた紅葉に驚いて目を丸くしていた。
先程とは違い、高い位置で括られた髪には美しい簪が光っている。
「あ、いやさっきの話は関係なくて……! その、小雪さんって雪女ですよね?」
紅葉は縁側まで駆け寄ると、少し乱れた息を整えながら、普段の彼女であればしないような質問を口にした。
「えぇ、そうでございますが……」
小雪は余りの勢いにたじろぎつつも、素直に首を縦に振った。
「……! じゃあその、この辺りで一番水行の力が強い場所とかって分かりますか!?」
紅葉は小雪の答えにパァっと目を輝かせると、勢いのままに質問を続けた。
やはり従姉妹というべきか、傍から見ればその様子は緋月にそっくりだった。
「水行の……? えぇ、勿論ですよ……あそこは水行の妖怪の中では、とても有名な場所ですから……」
小雪はパチパチと瞬きを繰り返していたが、質問の意味を理解すると微笑んで答えた。
「っ! 本当ですか!? それ、どこか教えて貰ってもいいですか!?」
その答えに紅葉は、パッと小雪の手を取って必死に懇願した。
普段の彼女であれば絶対にこんなことはしない。今の紅葉は気持ちが昂っている状態なのだ。
「えぇ、もちろん構いませんよ……」
手を取られた小雪は気にすることなく微笑みを深くして、紅葉の手を握り返した。
「ありがとうございます!」
小雪の笑顔に釣られたのか、生まれた喜びがそうさせたのかは定かではないが、紅葉も満面の笑みを浮かべた。
「この辺りで水行の力が強い場所と言ったら……、それはもう清水の滝しかありません……」
小雪はそう言いながら立ち上がると、紅葉が来た方向とは逆の方向を指し示した。
「なるほど、清水の滝か……! よしっ、ありがとうございます、小雪さん! 助かりました!」
その名称に思い当たる節があった紅葉は、小雪の手が示す方向に首を向けつつ呟いた。
「いいえ……、困った時はお互い様です……!」
ぺこりと頭を下げる紅葉に小雪は微笑みかけると、手にしていた鈴をそっと包み込んで胸に当てた。
「……っ、ありがとうございます! それじゃあ失礼します!」
そうして紅葉は、陰陽亭の手伝いをしていて良かった、という想いを噛み締めながら、再び頭を下げるのであった。
****
「ったく、住民街だからって舐めてたぜ」
あれから紅葉は、肆番街道を流れる川沿いを上流へ向かって駆けていた。
この間に何度もここの住民たちに声をかけられ、その都度足を止めて話を聞いていた紅葉は既に疲弊していた。
しかしここはもう清水の滝に続くけもの道だ。ここであれば、声をかけられることはそうそう無いだろう。
「ヨッ! 元気シテルカ兄弟!」
「兄弟! 兄弟!」
しかし、その紅葉の予想を裏切り、突然緑と青の丸い小鳥が彼女の目の前に飛び出してくる。
「のわっ!? 豆鳥三兄だ……あん? お前ら、あと一匹どうした?」
急な登場に紅葉は仰け反って驚いたが、普段は三匹で居るはずの豆鳥たちが二匹しか居ないことに気付き、訝しげに問いただした。
「ソレガヨ兄弟! 末ッ子ノ奴ガ居ナクナッチマッタノサ! ドウニカシテクレヨ!」
すると薄い緑色の方――豆鳥三兄弟の長男が、忙しなく羽ばたきながら騒ぎ立てた。どうやら一番下の弟鳥が居なくなってしまったらしい。
「居ナイ! 居ナイ!」
カワセミ色の次男もそれに続いてピーピーと鳴き喚いた。
「は、はぁっ!? い、今はそれどころじゃ…………あぁもうっ! 仕方ねぇな! いつどこで居なくなったんだ!?」
清水の滝へと急ぎたい紅葉であったが、困っている妖怪を見捨てて行ける程薄情では無いのである。頭を掻きむしって大きなため息をつくと、詳しく話すように長男を促した。
「朝ノ水浴ビノ後カラ何処ニモ居ナインダ! ……ソウイエバ今日ハヤケニ風ガ強カッタナ、モシカシタラ飛バサレチマッタノカモシレネェ!」
「風強イ! 風強イ!」
豆鳥の長男と次男はパタパタと小さな翼を動かしながら、懸命に声を張り上げる。どうやら今朝の肆番街道は風が強かったらしく、末っ子の豆鳥は飛ばされてしまった可能性があるようだ。
「くそっ、それじゃあ探しようが……! ……っ、そうだ! これくらい澄んだ水なら……っ!」
あまり広大な範囲が捜索範囲に該当したため紅葉は思わず悪態をつくが、傍には澄み切った川が流れていることを思い出して大きな声をあげた。
「水紋、来いっ!」
紅葉は前に火刈を呼び出した時のように手のひらを宙に向け、もう片方の式である水紋へ声をかけた。
『……あらぁ紅葉様、どうなさいましたの?』
すると青白い炎がほわっと燃え上がり、そこから間延びした優し気な声が聞こえてきた。
彼女は、気の強い姉御肌の火刈とは違い、温厚で聖母のような性格の式だった。
「ちょっと水鏡で探して欲しい妖怪がいるんだけど、いいか?」
『えぇ、もちろんですわぁ。私は紅葉様の式ですもの、出来ることなら何なりとお申し付け下さいませ? ふふ』
紅葉が恐る恐るといった様子で問うと、水紋は二つ返事で快諾した。紅葉から彼女の様子は見えてはいないが、何故だかふわふわと笑っている姿が見えたような気がした。
「ありがとう……! 早速なんだけど、こいつらと同じような小鳥の妖怪を探して欲しいんだ!」
紅葉は感極まったように礼を告げると、火刈と同様に視界の悪い水紋のために二匹の豆鳥の方向に手のひらを向けた。
『あらあら可愛らしい……えぇ、承知しましたわぁ』
ころころとした豆鳥たちを目にした水紋は楽しそうにくすくすと笑うと、ゆらりと揺れながら清らかな川へと近付いた。
『――見透かせ、流水よ』
そうして水紋が穏やかな声で唱えれば、ふわりと柔らかな火が彼女を取り囲んだ。まるで水が舞うように揺れる炎は美しく、永遠に見ていたいと思ってしまう程であった。
『…………あぁ、見つけましたわぁ』
しばらく炎をゆらゆらと舞わせ続けていた水紋はふとそう呟くと、周りを取り囲んでいた炎を四散させた。豆鳥の末っ子の場所を突き止めたようだ。
「ホントかっ!?」
『これは……溢るる水、流るる水……溢れれば泉となって……流れれば街の糧となる……だそうです。紅葉様、どこか思い当たる場所はございません?』
紅葉が慌てて問えば、水紋はまるで詠うように言葉を連ねた。
そう、水紋の使う水鏡は、一種の占いのようなものなのだ。
清らかな水に宿る者たちと共鳴し、その声を水紋が作り出した水の鏡に映し出す。そしてそれを紅葉に伝えることで水鏡は役目を果たす。しかし、その者たちが何も知らなければ応えは現れないし、必ずしもその言葉が真実とは限らないのである。
「ちょ、ちょっと待てよ……ええと、水が流れて溢れて溜まってて……、そんで街道の源になってるような場所だから……っ!」
とは言え後者のような事態はそうそう起こらないため、紅葉は素直にその言葉を信じて場所の推察を始めた。
「っ! 清水の滝かっ!? わかった、行ってみる! ありがとな、水紋!」
紅葉が思い当たった、水紋があげた特徴に当てはまる場所は一か所だけ。その場所こそ、最初から紅葉が目的地としていた清水の滝であった。
『いいえ、また何かあればすぐにお呼び下さいませ、紅葉様!』
水紋は紅葉の礼を嬉しそうに受け取ると、ゆらりと焔を散らして本体の元へと帰って行った。
「清水ノ滝マデナラ、オイラ達ガ案内スルゼ! 」
「近道! 近道!」
と、そこまで成り行きを見守っていた二匹の豆鳥がここぞとばかりに声をあげ、パタパタと先導を始めた。
「おぉっ、そりゃ助かる!」
紅葉はその申し出に歓喜の声をあげると、懸命に羽ばたいている豆鳥たちの後を追いかけた。
「オウヨッ! 待ッテロ末ッ子!」
「待ッテロ! 待ッテロ!」
****
「ココガ清水ノ滝ダ!」
「助かったぜ、ありがとな!」
豆鳥たちが選んだ道は歩くのには適していないような道であったが、紅葉は難なく後を追い、短時間で清水の滝までたどり着いたのであった。
「おーい末っ子! どこだーっ!!」
「末ッ子ーッッ!!」
「……ココダヨォ……兄チャァン……助ケテェ……!」
早速紅葉と長男が声を張り上げて末っ子のことを呼べば、ぐずぐずと弱々しい鳴き声が頭上から聞こえてきた。
「んなっ……寄りによって木の上かよ……!」
全員が慌てて上へ視線をやれば、確かに山吹色の毛玉のような末っ子が、背の高い木の枝に引っかかっているのが見えた。
「兄チャァン……怖イヨォ……」
「オイオイ! オイラ達ハアンナ所マデ飛ベネェゾ!」
末っ子は弱々しく声を絞り出したが、豆鳥二匹はそこまで飛ぶことは出来ないようだ。どれだけ頑張って翼を動かしても、半分の位置までも届いていなかった。
「いい、俺が行く!」
ゼェハァと荒い呼吸を始めた二匹を見かねた紅葉は、木から十分に距離を取ってから走り出した。
「っらぁっっ!」
そして短い掛け声と共に木の幹を一気に駆け上がり、末っ子が引っかかっている枝の元まであっという間にたどり着いた。
「ほら、チビ助! こっちこい!」
生憎木の枝は細いため末っ子の近くまでは行けず、紅葉は懸命に手を伸ばして呼びかけた。
「ウン……ワカッタ……!」
末っ子は恐る恐る体を揺すって枝から脱出すると、覚悟を決めたように紅葉の手のひらにぴょんと飛び乗った。
「……よし、飛ばされんなよ!」
末っ子が戻ってきたことを確認した紅葉は、彼が飛ばされないよう手をそっと胸に当て、木の上から飛び降りた。
「うし、これでもう大丈夫だ……どっか怪我とかしてねぇか?」
タンッと軽い調子で着地をした紅葉は、遠くから見守っていた二匹の豆鳥の元へ末っ子を連れていく。
「大丈夫ダヨォ……ビックリシテ動ケナクナッチャッタノ」
その間に怪我の有無を問うてみたが、どうやら動けなくなっていたのは腰を抜かしていたかららしく、特に怪我などは無いようだ。
「心配シタンダゾ兄弟ッ! 本当ニ無事デ良カッタ!」
「オ馬鹿! オ馬鹿!」
アワアワとしている二匹の傍に末っ子を降ろすと、兄貴たちはピーピーと叱責しながらも末っ子の無事を喜んだ。
「ゴメンネェ、兄チャン達……!」
ようやく兄たちに会えて、末っ子も心底安心したようだ。へたりと座りながら、安堵の涙をぽろぽろこぼしていた。
「ったく、もう飛ばされんじゃねぇぞ?」
その様子を見ていた紅葉は豆鳥たちに傍に行ってしゃがむと、苦笑しつつ忠告をした。
「ウン! アリガトウ、紅葉オ姉チャン!」
紅葉の言葉に末っ子は元気よく頷く。そうして豆鳥たちは口々に礼を告げると、パタパタと三匹仲良く飛び去っていった。
「……さてと、俺も目的を果たすとするか」
仲睦まじい様子の豆鳥三兄弟を見送った紅葉は、おもむろに清水の滝へと向き直った。
清水の滝はそこまで大きなものではなく、見上げればすぐに滝口が見える程であった。だがそれでも、轟音を立てながら岩の斜面を流れ落ちていく水流の姿は見事なもので、紅葉は無意識のうちに感嘆の声をもらしていた。
しばらくそうして滝に見入っていた紅葉だったが、不意にハッと我に返ると慌てて懐から「水」と書かれた札を取り出した。
「えぇと確か……、此く札の力を増幅し給え、急急如律令! ……とかでいいのか?」
そうして十六夜の言いつけ通りまじないを掛ければ、札はふわりと紅葉の手元を離れて滝の傍まで飛んでいく。
札は淡く光りながら五芒星を浮き上がらせ、中央に「水」の一文字を刻み込んだ。その瞬間、辺りに清らかな力が満ち満ちて、五芒星はゆらりと大気に溶けて消えた。
「……よし、次だな!」
成功したことを感じ取った紅葉は満足そうに笑うと、次の場所に赴くべく踵を返して来た道を駆け戻り始めた。




