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第94話 後宮の主として




「「「「と、と……ととのう~!」」」」


 数十分後。


 外気浴をしながら、姫たちが蕩けきった表情で目をきらきらさせた。


「サウナと水風呂の温冷浴! これが『ととのう』なのですね!」

「これは未知の快感です! こんな世界があったなんて、さすがはロクさまです~!」

「それは良かった。そろそろ十分経つから、中に戻ろうか」

「「「「は~い!」」」」


 はしゃぐ少女たちの身体には、眩い魔力がいっそう力強く輝いている。


 自律神経が整うと魔力回路も活性化するのか。いい勉強になった。今度から外部講義の内容に取り入れてみよう。


 心のメモに書き留めていると、リゼが嬉しそうに俺の手を引いた。


「ロクさま、次は泡風呂などいかがですかっ? ふわふわで気持ちが良いですよっ」

「あ、足下滑るから気をつけて――」


 注意する暇もあらばこそ、小さな足がつるんっ、と滑る。


「ひゃう!?」

「おっ、と」


 間一髪、細い腰を抱き留めた。


「平気か? 足くじいたりしてないか?」

「ふぁ、ふぁい」


 密着した肌、鼻と鼻とが触れそうな至近距離。

 リゼの頬がみるみる上気し――リゼの魔力が弾けて、赤い火花が俺の身体を駆け抜けた。


「いてててててて」

「ひゃあああああっ!? す、すみません、すみませんーっ!」

「いや、大丈夫、たいしたことないよ」


 これくらいなら電気治療みたいなものだと笑いながら、涙目でパニックになっているリゼをよしよしと宥める。


 赤い火花――リゼ本来の魔力、火属性。

 出会ったばかりの頃、リゼの魔力は魔の力に支配され、火属性の魔術は使うことさえ出来なくなっていた。今は、咄嗟に暴走するくらい、ちゃんとリゼの身体に馴染んでいる。


 背中のアザを撫でながら、俺は目を細めた。


 汗を流して、みんなで泡風呂に浸かる。


「ロクさま、こちらライチのソルベです! フルーツもどうぞ!」

「冷たいはちみつ水(シェルベティ)もございますよ~。デトックス効果を高めてくれます~」

「フェイスマスクも各種ご用意しております。水煙草(シーシャ)のフレーバーも、お好きなものをお選びくださいね」

「ありがとう。みんなも、ゆっくり肩まで浸かって。日頃の疲れを癒やしてくれ」


 身体を包む滑らかな湯に、はー、とほぐれきった息が溢れる。


 長湯にのぼせた姫たちが、思い思いに湯殿(スパ)を楽しみ始める。


 素足で歩き回る姫たちに、マノンが声を掛けていた。


「あまりはしゃいでは危ないですよ~」

「……マノン」


 振り返ったすみれ色の瞳に、目を伏せる。


「ごめん、さっきの話だけど」


 ずっと、心のどこかに引っ掛かっていた。


 彼女たちが、教官としての俺に注いでくれる、親愛や敬愛、あるいは家族愛のようなもの。

 温かくて心地良いその想いに応えようと力を尽くす一方で、俺は男として――後宮の(あるじ)として受け取るべき愛を、ずっとうやむやにしてしまっている。


「俺もちゃんと、後宮の主になるっていうのがどういうことかわかってる」


 俺の自惚れじゃなければだけど……と前置きしようとして、呑み込む。頬を染め、潤んだ目で俺を見上げるマノンの表情を見れば、それが蛇足であることはあまりにも明白で。


 いつかサーニャに噛まれた首筋をさすりながら、目を落とす。


「マノンの――みんなの気持ちはすごく嬉しい。けど、今はまだ、その時じゃないと思うんだ。君たちを大切にしたいし、君たちの気持ちが、本当に追いつくまで待ちたい。その上で、君たちが心から望むなら、ちゃんと応えたいと思ってる。だから、その……魔王を斃して、世界に平和を取り戻して……その後で、ゆっくり考えてもいいか?」


 マノンは俺の言葉にじっと耳を傾けて、すみれ色の目をふわりと細めた。


「本当に、真摯な方ですね」

「ごめん、頭が硬くて」

「いいえ。そういうところも含めて、お慕いしているのです」


 そう笑って、どこか色香を含んだ流し目で俺を見遣る。


「それに、ひとたび一線を越えてしまえば、際限がなくなってしまいそうですものね。さすがのロクさまもご公務に支障が出るかと。なにしろ後宮(ここ)には、ロクさまのご寵愛を熱望する令嬢が星の数ほどおりますから」

「そ……んなにいないと思うけど……」


 マノンは湯の中で両手を前に伸ばして、ふー、と息を吐いた。


「ふふ。けれど、安心いたしました。あまりに清廉かつ禁欲的でいらっしゃるので、もしかしたら、ご興味がないのかと」


 俺は「まさか」と慌てて首を振った。


「みんなすごく魅力的だよ。優しくて温かくて、心から可愛くて愛おしいと思ってる。でも、だから、それ以上に大事にしたくて……――」


 言葉半ばに、ふふっと軽やかな吐息が鼓膜をくすぐった。

 肩に小さな頭が寄りかかる。


「本当に、後宮にいらしてくださったのが、ロクさまで良かった。ロクさまにお仕えできること、これ以上ない悦びです」


 マノンは愛おしげに潤んだ瞳で俺を見上げて、身を寄せた。

 豊かな膨らみが胸板に押しつけられて、柔らかな弾力がふにゅりと潰れる。


「っ、マノン――」

「ロクさまが私たちに真心を注ぎ、持てる限りの力で愛してくださっていること、十分に理解しております。けれど、」


 ちゃぷ、とお湯が揺れる。


 花びらの浮かぶ泡の下で、細い指が俺の手にするりと絡んだ。


「いつかその時が来たら、この手で、指で、鍛え抜かれた肉体(カラダ)で、私たちを愛してくださるのですよね? 甘く蕩けるような夜に、シーツの海の上で……――」


 耳に忍び込む声はぞくりとするほど妖艶なのに、頬を染めた表情は、恥じらう乙女そのもので。


 応えるよりも早く、細い手が俺の視界を覆った。


 無防備な口の端に。

 ちゅっと、甘い感触が弾ける。


 驚く俺から手を外して、マノンがいたずらっぽく微笑んだ。


「先程は不覚を取りましたが、私の本気は、こんなものではございませんので。時が満ちた暁には、その鋼の理性、粉々に打ち砕いて差し上げますから、覚悟なさってくださいませ?」


 俺はばくばくと高鳴る胸の底から、「はい」と掠れた声を絞り出した。


 マノンは花のように笑うと、朗らかに声を上げた。


「みなさま~! ロクさまに身も心も愛される日のために、目指せ・打倒魔王ですよ~!」

「「「「? は~い!」」」」


 蒸気の昇る天井に、姫たちの朗らかな合唱が響いた。













いつも温かい応援ありがとうございます。


もしよろしければ、評価等していただけますと今後の励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。


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