力の覚醒
<力の覚醒>
暗闇の中、藤崎は未那と共に敵のアジトに向かっていた。目的は、茉那の捜索だった。戦いは避けたい為に、二人で行くことを仲間に納得させた未那だった。
「駿の記憶、まだ戻らない?もう丸1日たったのに・・・」
未那は辺りを警戒しながら藤崎の耳元で囁いた。
(記憶は、戻るわけがないかな・・・最初から無い記憶だから・・・)
藤崎はそう思ったが、口には出さず、未那には小さく頷いた。
敵のアジトは、何かの工場の跡地に作られていた。その周りの建物はすべて破壊され、サーチライトに浮かび上がった建物は、要塞のような威圧感を放っていた。城壁のような壁に囲まれ、いたるところに監視を行う兵士が立っていた。
「これじゃ、中に侵入するのは難しいな」
藤崎が呟くと、未那は、
「黒川先生から聞いた地下通路があるの、そこから行ってみましょう」
そう言うと、懐から地図を取り出し、辺りを見回す。そして、一つの倒壊したビルを指さすと、足音も立てずに走り出す。薄暗い街並みを未那の黒いスカートが翻り、まるで、闇夜のカラスが羽ばたいて飛んでいるようだった。黒いブレザーにエンジ色のネクタイ、黒いスカートそして黒いブーツ・・・戦いには向いていないのではないかと藤崎は思いながら未那の後を追った。
原形を留めないほどに崩れたビルの壁の裂け目に入っていく未那と藤崎。ビルの中は歩く事すら出来ない程の大きな瓦礫が転がって二人の行く手を遮っていた。
未那が大きな瓦礫に右手をかける。未那の手の甲が青く輝き出し瓦礫が動き出す。
「これも、ストーンの力よ」
未那はそう言って、瓦礫を次々と移動させる。
地下の通路はひんやりと冷たい暗闇に覆われていた。未那の持つライトの光だけで二人は進んでいく。やがて、立ち止った未那は地図を見ながら、壁を触っている。
「此処かも・・・」
未那が何かを発見したらしい。ライトで浮かび上がった未那の指先が壁の一部を押していた。壁が軋みながら横にスライドしていく。
壁の入り口から、二人はひんやりとした空気に包まれた真っ暗な通路をライトの光を頼りに歩いていた。通路は分岐がなかったが、左右に折れ曲がり方向感覚さえ分からなくなるほどだった。
「未那さん・・・」
藤崎の言葉は、未那の柔らかで、いいにおいのする手に遮られた。
「だれか・・・いる・・・」
小声でそう言うとライトを消し、未那の顔が暗闇に包まれた。藤崎は耳を澄ませて暗闇に目を凝らした。小声でそう言うとライトを消し、未那の顔が暗闇に包まれた。藤崎は耳を澄ませて暗闇に目を凝らした。しかし、感じるのは隣にいる未那の緊張した意識だけだった。
突然、未那の銃が火を噴き2発の銃声が静寂を引き裂く。そして、反響した銃声が消え、再び静寂が二人を包む。未那がライトを点ける。
「気配が・・・きえた」
そう言うと、立ち上がりライトを床に向けて歩き出す未那。藤崎もそのあとに続く。
暫く歩くと未那は立ち止り、床から何かを拾った。藤崎が未那の掌を覗き込む。それは、金属製のポイントと呼ばれる鏃を用いたハードダーツだった。金属製のシャフトは、くの字に曲がっていた。
(これを、未那は暗闇の中で撃ち落としたのか・・・)
藤崎は驚き未那を見た。
「どうやら、待ち伏せされていたようね。でも、進むしかないですね」
そう言いながら未那は微笑んだ。
暗い地下通路から階段を上がり、扉をあけるとライトは必要ない程の薄暗い通路に出た。未那はスカートを少し捲り、右太腿のホルスターから銃を取り出し顔の横で構えた。藤崎も右の腰に下げた刀に左手をかける。辺りに十分に注意を払いながら通路を進んでいく二人。15mほど先の窓から明かりが通路を照らしていた。未那は、少し手前の部屋のドアに耳を着けた。暫くしてドアを開け、中を確認すると中に藤崎を招き入れドアを閉めた。
その部屋は、さまざまな計器が並んでいた。奥に進んでいくと、壁の一部が大きなガラス張りになっていた。二人は計器の陰からそっと覗きこむ。ガラスの向こう側には、白衣を着た化学者かと思われる者達が十数人、慌ただしく、動き回っていた。部屋の大きさは、かなり広く、此処からでは天井が見えない程で、広さは学校の体育館程あった。部屋の中央に球状の透明な容器のようなものが置いてある。中には、人が・・・
「茉奈!・・・」
未那が小さく声を漏らした。視線は球状のそれに向けられていた。藤崎は驚き、未那を見て尋ねた。
「あれが、茉奈・・・間違いないのですね?」
未那は小さく頷く。藤崎は刀に手をかけ抜こうとしたが、未那の手がそれをやんわりと止め、首を横に振った。
「あの透明な球体は、茉那が自己防衛の為に作り出したものです。そう簡単に破壊することは出来ないと思うので、もうしばらく様子を見ましょう・・・!?」
未那が言い終わるのと同時に、藤崎の体を突き飛ばした。藤崎の体は後ろの壁に打ち付けられた。何が起こったのかと未那を見ると未那は、蹲っていた。よく見ると左肩にダーツが刺さっていた。未那はダーツを抜き取ると、すぐに銃を構えた。
(地下通路で襲ってきた敵が再び現れたのか・・・)
藤崎は、腰の後ろのホルスターから銃を抜いた。
「その身のこなしはさすがね。そのダーツには薬を塗っておいたのに、すぐに抜かれちゃったわね。まぁ、命は奪えないけど、あなたの体を麻痺させるには十分かしら?」
いつの間にか現れた敵は、そう言いながら、計器の陰から少しだけ顔を出した。
その顔を見て未那が驚く。
「美優ママ・・・!」
藤崎にも見覚えのある顔だった。『スナックpianissimo』のママである田辺美優だ。
「美優ママ・・・どうして、あなたが此処に・・・」
未那が美優に問いかける。
「なぜ、私の名前を知っているのかわからないけど、あなたなんて知らないわ。気安く呼ばないで!」
云い終わると同意に、美優の放ったダーツが未那に襲いかかる。かろうじてそれを避ける未那だが、額には汗が浮かび、苦痛で顔が歪む。未那を助けようと藤崎が立ち上がり銃を構える。しかし、銃はダーツに弾き飛ばされ、藤崎の両手が計器盤に叩きつけられる。藤崎の両手は、鎖でつながった2本のダーツに押さえつけられ、自由を奪われた。それを振り払おうと力を入れるが、少しも動かない。
「それは、簡単には抜けないわよ。・・・さて、どちらを先に楽にしてあげましょうか」
美優が、姿を現す。美優の右手の甲が青く輝いている。未那の青とは違うクリアブルーの青である。その手を未那に向ける。
「私のストーンは、アクアマリン。あなたが身につけているストーンは、私たち組織のものなの。だから、返してもらうわね」
未那は、体の自由が利かなくなってきているらしく、銃を持つ手がけいれんを起こしている。言葉すら発することが出来ないようだ。
(未那さんを助けなければ・・・)
藤崎は両手に力を集中させる。
「もう少し遊んであげたかったけど私も急いでいるから、そろそろあなたたちのストーンをいただくわね」
美優は、未那に近づくと右手を取り両手で挟み込む。未那の手が青く輝きだす。まるでそれに共鳴したかのように、藤崎の左手が赤く輝き始める。そして、藤崎の両手を拘束していた鎖がはじけ飛ぶ。自由になった左手は刀を抜き取り、美優に向かって下から振り上げられた。
美優までの間は5mほどあったが、刀から赤い光が発せられ、光は美優に向かう。美優は、驚き後ろに飛んだ。しかし、右手の甲から赤いものが伝う。
「おまえもストーンを付けていたのか・・・しかも、それは、ルビー!!・・・まあいい、次に会うときには、必ずストーンは頂く・・・」
美優は藤崎にダーツを投げつける。藤崎がそれを刀で弾き飛ばす。その瞬間ダーツが爆発する。藤崎を爆風が包み込む。
「駿・・・!!」
未那が、叫ぶ!
爆発の煙の中から、現れる藤崎。左手から放射線状に広がった光は盾のようになり藤崎を爆発から護っていた。
「駿・・・力が覚醒したのね」
未那が、よろめきながら立ち上がった。
美優の姿はすでになかった。
藤崎は未那に近づき、未那の体を軽々と抱き上げた。
未那は、藤崎の胸に顔をそっと預けた。




