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夢幻の始まり

  大切なものを

   護れなかった悲しみは

    心が砕け散る程に深いものだった

 

  大切なものを護るために

   何が出来るのだろう

 

  いや、出来ない事でもやらなければ・・・


  あなたを護る・・・そう心に誓おう

   この・・・命の限り


  大切なあなたを・・・護る



<夢幻の始まり>


今日はいつもより酔っていた。勢いで飲んでしまった日本酒が効いたのか、それとも…そう、忘れる為に飲んでいたお酒。でも、いくら酔っても忘れる事が出来ず、頬をつたう悲しみの滴…。

「未那、泣きたいときは泣くのが一番だけど、後悔は涙と一緒に流すのよ」

カウンターの中の美優がビールを差し出す。さっきまでいた賑やかな団体客が帰って『スナックpianissimo』の店内は静けさを取り戻していた。

「でも若いっていいわよね、泣きたい時に泣けるものね。私なんか泣きたい気持にすらすらならないし…」

そう言うと、未那の頬をハンカチで拭いてくれた。

彼女は田辺美優、ここ『スナックpianissimo』のママである。

「そんなぁ、百戦錬磨のママと一緒にされちゃたまんないよねぇ、槇村さん」アルバイトの華森 舞が口をはさむ。未那は舞の言葉に笑って頷く。

 槇村未那は、男運の悪い普通のOLだ。男には結構好かれる方なのだが、どういう訳か自分が好きになる男は、ママに言わせると、自分とは合わない男を好きになるらしい。自分でも何となく感じている所為もあり、反論もできない。でも、好きになると自分を制御出来なくなってしまうのだ。

でも…今回の男は優しかった…(最初だけでしょ)

いろんな所へ連れて行ってくれた…(でも、彼の好きな所ばかりだけどね)

でも、楽しかった…(本当に?)

私に向けられる笑顔が好きだった…(彼がひとりで楽しんでいるだけじゃない?)

たまに怒るけど、謝ると許してくれたし…(怒る理由がつまらない事ばっかりじゃない?)でも、笑顔が…(そればっかりだし…)

何故か、今日はもうひとりの未那がやけに絡む。いつからだろう、私がネガティブになると、ポジティブな未那が私を責めまくっていた。

その時ドアが開いて、ひとりの男が入ってきた。この店では、何度か見かけた事はあるが、話した事は無い。彼の名は、藤崎駿と言って、罰いち独身だそうだ。罰いちのバツは彼がそう言ったのらしい。アルバイトの舞ちゃんの情報だ。別に聞いた訳でもないが、ダイレクトメールのように勝手に送信されてくる。

 藤崎は未那の席から2つ開けて座った。

「ビールをお願いします」

そう言うとグレーのスーツの内ポケットから煙草を取り出し、火を点けた。

その仕草を何となく見ていた未那の視線が、藤崎駿の視線につかまった。

彼は軽く頭を下げた。ふと、我に返った未那も頭を下げ、慌てて視線を逸らした。

 「しゅ~ん、のんでるかぁ」

酔った未那が、藤崎にからんでいた。藤崎さんと呼ばれていた名前もいつの間にか『しゅ~ん』に変わっていた。未那に勧められた日本酒のせいで、藤崎のペースは乱され、かなり酔っていた。そして、カラオケで歌う未那の歌が子守唄のように・・・藤崎の意識は消失した。


 (たすけて・・・おとうさん・・・お母さんを守って・・・)

 一人の少女が泣きながら叫んでいる。

泣いているのは分かるのだが、顔がよく見えない。

 (君は・・・だれ?・・・おとうさんって・・・)

 (お願い・・・おかあさんを・・・)

 少女が闇に包まれていく。

 (まって・・・)


 酷い激痛が頭を駆け巡り思わず顔がゆがむ。

(何なんだ、今の夢は・・・)

藤崎が目を開けると見慣れない部屋が映った。

あわてて体を起こして見渡した。視線の左下のほうに黒いものが映った。視線をそれに向けると、髪の毛だった。

(え!?・・・だれ?)

激痛に征服されている頭で記憶を探ったが、探している記憶は、存在しなかった。恐る恐る髪の毛の持ち主の顔を覗き込んだ。・・・昨夜、一緒に飲んでいた、未那がこちらに背を向け、静かな寝息を立てていた。彼女を起こさないように静かにベッドを抜け出す。少しめくったふとんの奥に未那の白い背中が覗く。それを見て頭を抱える。とりあえず気を落ち着かせようとベッドルームから出る。

 ドアを開けるとまばゆいばかりの光が窓から差し込んでいた。彼は目を細め部屋を見回した。

(どうやら、どこかのホテルらしいが、部屋が2つあるということは・・・きっと高いな、幾ら位の部屋だろう?)

ソファーにおいてあったスーツのうちポケットから財布を取り出し中身を確認し、ほっとため息をついた。

(このくらいあれば何とかなるか)

ふと床を見ると、未那のものと思われる衣服が落ちていた。たぶん身に着けていたものすべてが床にあった。短いため息を吐くと、それを拾い上げベッドルームに入って、ベッドの上においた。未那はまだ起きない。リビングに戻りソファーに腰を下ろすと、テーブルの上においてあった自分のタバコに火をつけた。

(さて、どうしたものか、このまま、チェックアウトして先に帰るか?しかし、彼女を置き去りにはできないか?でも・・・顔を合わせたら、なんて言ったらいいのだろう?・・・昨日はごめん?・・・なんで誤るんだろう・・・何も覚えてないのに・・・)

ため息と一緒に煙を吐き出す。

 突然ベッドルームのドアが開いて、フードつきでベージュ色のニットワンピースを身に着けた未那が現れた。

「あ・・・お、おはよう」

藤崎が未那から視線をそらしながら言った。

「おはようございます、ちょっと、シャワー浴びてきます」

何事もなかったように微笑み、普通にそういうと、未那はバスルームに入っていった。

(彼女は昨夜のこと覚えているのかな?あんまり驚いていないようだけど・・・)

短くなった煙草を灰皿でもみ消し、立ち上がり窓の外を見た。蒼穹の青がとても綺麗に輝いていた。

 (ん・・・?!)

藤崎は足元にかすかな振動を感じた。振動は揺れに変わった。

(地震か?ちょっと大きいな・・・)

揺れが大きくなり、バスルームのほうから悲鳴が聞こえ、あわててバスルームに向かった。

「未那さん、大丈夫ですか?」

返事がない!バスルームのドアを開けようか迷っていると、揺れが止まった。

「未那さん、ドアあけますよ」

しかし、返事がない。彼はバスルームのドアを開けた。

「!?」

そこに未那の姿はなかった。


確かに、未那はバスルームに入り、そして悲鳴が・・・しかし未那は忽然と消えていた。

バスルームの洗面台の上には、未那が着ていた服が置いてあった。

 その時、部屋の入り口のドアが開いた。

黒いブレザーにエンジ色のネクタイ、黒いスカートそして黒いブーツに身を包んだ未那が立っていた。

「未那さん?・・・一体どこに行っていたのですか?」

そう言いながら彼は未那に近づいた。

「駿!茉那がさらわれたの、急いで支度して!」

そう言うと、左手に握られていた棒のようなものを差し出した。その棒は緩やかなカーブを描き、長さは90cm程あった。その端にはつばが付いてつかには細い革の紐が巻かれていた。

(見事な日本刀だ・・・?・・・って、彼女どうしてこんなもの持っているんだ)

彼は再び差し出された日本刀を受け取り未那に尋ねた。

「あの、これは・・・それに、まなって誰?」

すると、未那は彼の左手を掴み手の甲を見た後に瞳を見つめた。未那の真剣な眼差しに思わず目を反らす、藤崎。

「あいつらに、ストーンをとられたのね、でも大丈夫。とりあえず、この場所はあいつらに気付かれたから急いで出ましょう」

そう言うと、太腿に付けられていたホルスターから拳銃を取り出し、彼の腕をつかむとドアを開けた。

(えっ!!・・・未那さんって、何者?)

 ドアの外に街はなかった。砂丘のような所に、かつて建物の一部だったと思われるコンクリートの塊があたりに転がっていた。数名の武装した兵士が倒れている。未那が突然うずくまり何かを拾った。・・・と、突然銃撃が二人を襲う。

「駿!あの車まで走って!」

未那は、片膝をつき銃を撃つ。銃を撃ってきた敵がのけ反る。

未那の示した方向に一台のオフロード仕様の車が止まっていて、藤崎は助手席に乗り込んだ。敵を倒した未那が運転席に座ると、車を発進させた。


 「あの・・・未那さん?・・・」

ことの経緯を尋ねようとした藤崎の言葉は、未那の舌うちに遮られた。

「奴等が追ってきたわ、駿、これを持っていて」

そう言うと、グローブボックスからホルスターに入った銃を彼に渡した。

「あなたの銃よ」

(・・・俺の・・・銃・・・?)

 未那は右手で持っていたハンドルを左手に持ち替え、太腿の上に置いていた銃を右手で掴んだ。運転席の窓を全開にし、銃を握った手を出し、肘を曲げ逆さまに銃を後ろに向けた。

視線はドアミラーに向けられている。

 藤崎は後ろを振り返った。黒塗りのジープが追従していた。ジープの後ろには機関銃が据え付けられてあり、銃口はこちらに向けられていた。

銃声と同時に機関銃を構えていた男が倒れこむ。

藤崎は視線を未那に向けた。

未那の銃が火を噴く。

ジープの運転手がのけぞり、大きく左に曲がるとコンクリートの塊に激突した。

藤崎は、ただ驚き未那の顔を黙って見ていた。


 30分程走ると目の前に街が見えてきた。高層ビルが立ち並びかなり大きな街のようだ。

しかし、街中の道路には車が1台も走っていなかった。そして、歩く人もいない。まるで廃墟だ。

未那の運転する車は一つのビルの地下駐車場に入って行った。3フロア分くらい降りただろうか未那は一つの駐車スペースに車を止めた。車体に軽い振動があり、車が下がっていく。車1台分下がって床が止まった。すると正面の壁が左右に開いた。未那は車を前に走らせた。そこは駐車スペースのようだった。さまざまな車やオートバイ・・・装甲車まである。

 駐車スペースからエレベータでどのくらい降りたのだろう、エレベータの中には階数表示がなかったためわからなかった。未那はずっと無言のままだった。

藤崎は一つの部屋に通された。病院の診察室のような部屋に診察用のベッドと机が一つあり、一人の初老の男が白衣を着て座っていた。

「未那から話は聞きました。左手を見せてください」

藤崎は、彼の前に座った。彼は差し出された手をしばらく見た後、藤崎の目を覗き込んだ。

「やっぱり、ストーンが抜かれていますね。記憶が無くなっているのはその時のせいかもしれませんね」

彼は未那のほうを向いて言った。

「記憶喪失?俺が・・・無くしたのは昨夜の記憶だけですが・・・だいたい此処はどこなのですか?なぜ俺のいた街が無くなっているのですか?・・・疑問が多すぎて何を聞いていいのかわからない・・・」

未那が藤崎の手を握って見つめる。

「落ち着いて、駿・・・今は、あなたの力が必要なの、お願い力を貸して・・・」

そういった未那の唇が藤崎の唇に触れる。

茫然としている、藤崎をよそに未那は白衣を着た初老の男の横に立ち、

「先生、駿を連れてくる途中で見つけたストーンがあります。これは、駿のものだと思います。駿のいた部屋の前にいた組織の者を数名倒したのですが、その者達が持っていたのかもしれません」

未那はそう言うと、懐に手を入れ赤いものを取り出し先生と呼んだ男に手渡した。

それは、三角形で掌ほどの大きさがあり、赤い光を放ち輝いていた。

「これが・・・ストーン?・・・」

藤崎は尋ねた。

「そう、あなたのストーンはルビー。これを見て」

未那が右手の甲を自分の顔の脇に添えて藤崎に見せる。未那の手の甲に青く輝く丸い石が浮かびだす。そして、未那の瞳が同じ色に輝きだした。

「これが私のストーン、サファイヤよ。そして、黒川先生の石はターコイズ」

未那が先生と呼んでいた男の手の甲に不透明のスカイブルーの石が浮かび上がる。

「先生、そのストーンを駿に・・・お願いします」

未那の言葉に小さく頷くと、藤崎の左手をとり手の甲にルビーを乗せる。

黒川は、目を閉じ藤崎の手を両手で挟み込み、そして上下に手を開いていく。藤崎の手に乗ったルビーが手の中に沈み込んでいく。藤崎は驚きのあまり声も出せずそれを見ていた。

そして、ルビーは藤崎の手の中に消えた。

「どう?何か思い出した?」

未那に聞かれたが、何も変化はない。藤崎は自分の手の甲をじっと見ていた。

「どうしたの?大丈夫?」

未那が藤崎の顔を覗き込む。

「あ、はい・・・大丈夫です。でも、何も変化はないみたいです」

黒川が藤崎の肩に手を置き、

「普通だったらストーンを取り込んだ後は、かなり疲れるはずだが・・・大丈夫なのか?少し休んだほうがいいだろう」

そういって、未那を見た。未那は黙ってうなずく。

「先生、私は茉那の捜索に向かいます。仲間から連絡はありませんでしたか?」

黒川は首を横に振った。

「そうですか・・・」

二人の会話に割り込んで藤崎が尋ねた。

「あの・・・茉那って誰ですか?」

未那は少し驚いた後答えた。

「茉奈のことも覚えていないんだね・・・茉那は、あなたと私の娘よ」

「え!?・・・むすめ?・・・えっ・・・」


 藤崎は、用意された部屋のベッドで横になり考えていた。

(この世界は、何なんだ・・・昨夜知り合ったばかりの未那なのに、今日は未那との間に子供がいる・・・しかも14歳の子供って・・・どうなっているんだ。・・・そして彼女たちはどこかの組織と戦っているって・・・昨日までの世界はどこにいった・・・あ!!)

突然、藤崎の頭に一つの言葉が浮かんだ。

(タイムスリップ?!・・・俺は、何年か後の未来に飛ばされたのか?・・・でもそれなら、ここに何年か後の藤崎駿がいるはずだ。昨日まで、未那と一緒にいた藤崎駿が・・・)

答えの出ない疑問に藤崎は、頭を抱えた。

その時、部屋のドアがノックされた。

「私だけど、入っていい?」

未那の声だった。藤崎はベッドから立ち上がりドアを開けた。

「駿!・・・」

突然、未那が抱きつき・・・泣きだした。藤崎は黙ったまま、未那の頭を撫でていた。

 未那が落ち着き、話し始めた。

「駿、あなたが、ある日の組織との戦いから戻ってこなかったの。仲間と探したけど見つからなかった。茉那は、ずっとあなたを探し続けていた。そして、今日の朝、茉那から連絡が入ったの、あなたが見つかったって。それで、あの場所に向かったの・・・でも、茉那は見つからなかった。多分あいつらに・・・」

未那の頬を涙がつたう。藤崎はそれを指でそっと拭う。


・・・藤崎がこの世界に来る1日前・・・

駿は戦いで傷を負っていた。右肩の貫通銃創、そして左太腿は深く刀で切られていた。なんとか敵は倒したのだが、ストーンを装着した二人の戦士は逃がしてしまった。そして駿は5人の仲間を失った。

「すまない、俺の力が足りないばかりに・・・」

駿は、拳を地面に叩きつけた。

「お父さん!」

声のするほうを振り向くと、茉那が走ってくる。

その時、後ろで音がした。駿が振り向くと敵の兵士が銃を茉那に向けている。

「茉那!伏せろ!」

駿は叫ぶと同時にコンクリートの塊から飛び出す。

刀を抜き払い敵の兵士向かって走る。

駿の左手が赤く輝き、刀から赤い閃光が放たれる。

敵兵士の放った弾丸が駿に向かう。

1発・2発・・・5発の弾丸が駿を貫く。

と、同時に敵兵士は無残な姿で朽ち果てる。

片膝をつき崩れる駿・・・しかし、倒れない。

さらに、二人の兵士が現れる。

兵士は手りゅう弾を投げてきた。

駿は雄たけびを上げ立ち上がり、走り出す。

敵が投げた手りゅう弾をジャンプして掴むと、そのまま敵兵士のもとへ着地した。

その瞬間・・・その場所は爆音と共に炎に包まれる。

「!?・・・おとうさん!・・・」

泣き叫ぶ、茉那。

「おとうさ~~~ん!」

そしてその場に泣き崩れる茉那。


・・・どのくらい泣いていたのだろう、辺りはすっかり闇を纏い、耳が痛くなるほどの静寂に包まれていた。暗闇の中で何かを考え込む茉那。そして、小さく頷くと、膝をついて両手を合わせ目を閉じる。茉那の左手の甲が光り輝きだし・・・やがてピンクとブルーの光が茉那を包み込む。

茉那の祈りは、夜が明けても続いた。

突然、茉那の目の前の空間が歪みだす。これは、茉那の力なのだろうか。やがてその歪みは、物質に変わっていく。現れたのはコンクリートの箱のようなものだった。

そして、茉那を包んでいた光が消え、倒れ込む。かなりの力を使ったようで、茉那は衰弱していた。しかし、通信機を取り出すと、スイッチを入れた。

「茉那です・・・お父さんを見つけました。すぐに来てください」

茉那は、駿が死んでしまったことを告げなかった。茉那は、コンクリートの箱に向かって手を伸ばし、かすかな声で呟いた。

「・・・たすけて、おとうさん・・・おかあさんを・・・まもって・・・」

そして、茉那の意識は途切れた。


藤崎は、未那にそっと触れながら尋ねた。

「未那、君の言う組織っていうのは、いったい何者なんだい?」

「あっ、駿は記憶を無くしていたんだね、彼らは、パワーストーンという石の力を手に入れたらしくこの街を破壊し始めたの。囚われた者たちは、彼らの兵器を作る工場に送り込まれているみたい。私たちは身を隠し数人の者が集まった。そこに、黒川先生が現れたの。いくつかのストーンを手にして・・・

黒川先生は、その組織でパワーストーンの研究をしていた科学者だった。そして、ご自分の体で実験し一つのストーンを体に取り込むことに成功したの。しかし、あいつらの陰謀を知って研究所を抜け出したの、いくつかのストーンと共に。

その時、黒川先生を助けたのが、駿、あなたなの。黒川先生はとっさの判断であなたに、パワーストーンを埋め込んだ。誰にでも取り込むことが出来るものではないのだけれど、あなたは、適合者だったの。そして、黒川先生はここで、組織に対抗する仲間と、パワーストーンの適合者を探していたの」

未那の話は続いた。

「駿、覚えてる?あなたとはじめて話した時かな、酔っぱらちゃって、一晩一緒に過ごしたこと・・・あの時に茉那が・・・あなたになかなか言えなくて、っていうか、あなたに交際申し込んでくれるのかなと思っていたけど・・・でも、何にも言ってくれないから」

「!?・・・それって、昨日のこと?」

思わず藤崎は、声にしてしまった。

「昨日のわけないじゃない、あの時のあなたは何も言わずに云ってしまったけど・・・でも、此処で会って、茉那のことに気がついて、結婚しようって言ってくれた時は、とっても嬉しかったけどね・・・ん?・・・どうかしたの?具合悪い?」

心配そうに未那が覗き込む。

未那の話も聞かずに考え込んでいたようだ。

「いや、大丈夫だよ」

藤崎は、笑顔を作って誤魔化した。

(やっぱりそうだ、この世界は十数年後の世界なんだ・・・)

「未那さん、あなたもその、適合者だったのですか?」

藤崎は尋ねた。

「未那さん・・・って、どうして、『さん』つけるの?・・・って記憶にないから仕方ないか・・・でも、未那ってよんでよ」

「あ、ごめんなさい、未那さん・・・あ」

「ま、しかたないわね・・・私が適合者っていうより、茉那が適合者だったみたいなの。前に試した時はだめだったのに、茉那がおなかの中で動き出した頃にストーンに触れてしまって、そしたら2つのストーンが入ってしまったの。

黒川先生が言うには、茉那からのプレゼントかもって言っていたけどね。

茉那ね、かなり大きな力持っているかもしれないって黒川先生が言っていたの。だから、心配いらないって言うのだけれど・・・どこにいるのかな・・・」

再び、未那の頬を流れる涙を、藤崎は拭いながら言った。

「明日は、一緒に茉那を探しに行こう」

藤崎は、未那を抱きしめた。

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