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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
夏休み編(2年生8月)
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第二十八話 ぼっちな僕と真夜中の旧校舎④

 それから、僕は腰を抜かしてしまった祐介を図書室の椅子まで運んだ。……当然非力なもやしの僕1人の力では無理だったが、真昼が掃除用具を浮かせる要領で祐介を少しだけ浮かせてくれたため、何とか引きずってつれて来る事ができた。

 

 他の生徒達が落としていった懐中電灯を机の上に立てると真っ暗だった図書室が少し明るくなり、祐介の表情もぼんやりと見える。


 「落ち着いた?」

 宙に浮いた真昼が俯いた祐介の顔を覗きこむようにして聞いた。こくり、と神妙な顔で頷く祐介。ようやく落ち着いたようだ。

 「全く、真昼には驚かなかったくせに何で僕を見て腰抜かすんだよ」

 「本当にゴメンって!だって、彰があそこにいるなんて全然知らなかったからさぁ」

 「今までの人生であんなに叫ばれた事ないよ。これじゃあ、僕が幽霊みたいじゃないか」

 「彰が幽霊かぁ……。それもいいかもね」

 「いや、真昼も笑ってないでフォローして!」


 祐介はサッカー部の後輩の付き添いでやってきたらしい。先輩後輩を交えた何人かで友達の家に泊まっていた際に肝試しに誘われて、霊感の強い祐介は嫌な予感がして断ったのだけれど、どうしても来てくれと押し切られてしまったそうだ。


 僕もその後、4月に真昼と出会ってからの様々な出来事を祐介に話す事にした。顔の広い祐介の事だから、真昼の生前の事について何か知っているのではないかと思ったからだ。旧校舎の幽霊の噂、そして噂の幽霊である真昼との出会い……。本当に、作り話みたいだ。話していて自分でも信じられない。けれど、祐介は僕の話を絵本を読み聞かせてもらった子どもみたいに身を乗り出し、目をキラキラと輝かせて聞いていた。


 「これまでの出来事は大体こんな感じ。……なぁ、祐介」

 呼び掛けに応えるように小首をかしげる祐介に僕はこう尋ねた。

 「真昼が生きてた頃の事、何か知らないか?」

 「あ、彰!」

 

 慌てて止める真昼。そうだよな。こんな事、あったばかりの奴に話してごめん。でも、僕1人で調べる中で正直行き詰まりを感じていた。


 僕はそのまま言葉を続ける。

 「……真昼には生きていた頃の記憶が殆ど無いんだ。名前も、自分が何でここにいるかも分からない」

 「……!」

 驚きのあまり言葉が出ないという様子でハッと真昼の方を見つめる祐介に、真昼は空元気でこう言った。

 「そんな悲しそうな顔しないで!確かに彰の言ってる事は全部本当だよ?でもね、私、楽しいんだ。これも本当。……名前は忘れちゃったけど、彰がこんなに素敵な名前をくれた。今だって夏休みなのに毎日会いにきてくれるんだよ?」

 「ちょっ!それ言わないでよ!」

 「ふふっ。ごめんね」

 「はぁ……。でも、僕は真昼が生きていた頃の事、何とかして思い出させてあげたいんだ。図書委員の仕事の間に昔の卒業アルバムを探してるんだけど、何も分からなくて。顔の広い祐介なら何か知っているんじゃないかって思って……。でも、こんなの流石に困るよな。……ごめん」

 俯きながら言う僕からは、祐介の表情は全く見えなかった。彼が何も言わない事に徐々に不安が積もり、声はどんどん小さくなっていった。


 ちら、と目線だけを上げて祐介の様子を伺った時。祐介が急にこちらに手を伸ばし、僕の手をがっしりと両手で掴んだ。

 「うわっ!何だよ、急に」

 「…………そっちこそ」


 ボソリと呟かれた言葉の意味が理解できず、僕は手を握られたままその続きを待った。真昼も緊張した様子で事のなり行きを見守っている。


 「そっちこそ……何で、なんで、もっと早く言ってくれなかったんだよ!」

 「…………へ?」

 散々待った末に発された言葉を聞いて、僕はとんでもなく間の抜けた声を上げてしまった。

 「真昼さんの事は正直に言わなくたって、知り合いだの何だの言って誤魔化せば良かっただろ?聞いてくれたら、もっと早く力になれたのに……!」

 声が切羽(せっぱ)詰まって行くのと同時に、僕の手を握る力も強くなっていく。

 「祐介、ちょっと痛いよ……」

 そう伝えると、祐介は慌てて手を離した。どうやら自分が力を入れている事に気付いていなかったらしい。

 「ご、ごめん」

 「お前、サッカー部なのに握力強すぎだろ」

 茶化した様にそう言って笑ったけれど、内心、僕はかなり驚いていた。


 「誤魔化せば良かっただろ」だって……⁈まさか、嘘が嫌いな祐介がそんな事を言うなんて。


 「……言えなかったんだ」

 驚きのあまり、ぽろりと本音がこぼれた。

 「え……」

 「普段あんなに素っ気なくしておいて、いざ情報が必要になった時だけ頼りにする……なんてさ。虫が良すぎるだろ?」

 「そんな……!俺はそんな事思ってないよ」

 

 ああ。きっと、お前は()()言うと思っていたよ。


 目を閉じれば、小学生の頃の祐介の姿が浮かんだ。太陽のような笑みでこちらを見つめている。


 「ハハ……。そうだよな、ゴメン」

 口角を上げ、下手くそに微笑んでみた。胸がジリジリと陽の光に焼かれるように痛む。僕も昔は祐介みたいに笑えてたはずなのに、いつからこんなにぎこちなくなってしまったのだろう。いや、問いには僕の中で明確な答えが出ている。本当の問いは……。


 

 ……僕は()()時、一体どうすれば良かったのだろう。


 これまでに幾度(いくど)となく繰り返してきた問いだ。だが、いくら考えても明確な答えは出ない。



 「…………」

 僕が黙り込んでしまった事で、その場に沈黙が広がる。


 「あっ……!あのさ」

 重い沈黙から初めに脱したのは真昼だ。考えに(おぼ)れそうになっていた僕もハッとして彼女の方を見る。


 「時間……!」

 焦った口調の真昼が指差した先を見る。図書室のカウンターの上に置かれたデジタル時計の画面は「23:30」を表示していた。


 「「嘘でしょ⁈」」

 僕と祐介の声がほぼ同じタイミングで重なる。塾を出たのが22時頃だったから、あれから1時間以上もここにいた事になる。

 「彰、家族が心配して探し回ってるんじゃ……?」

 「いや、母さんは今日夜勤だから明日の昼前まで帰って来ないんだ。だから大丈夫だよ。……って言うか、祐介こそ、今部活の友達のとこに泊まってるって言ってたよな。いいのか?」

 僕がそう聞くと、祐介の顔色がサッと青くなった。薄暗い図書室の中でも分かるくらいだから明らかだ。……ダメなんだな。

 「……ん〜、まぁ、俺たちが会ってる所は見られてないから何とか。肝試しで驚き過ぎて気絶してた、とか言って誤魔化そうかな……」

 ハハ、と引きつった笑いが聞こえる。1時間近く気絶してた方が大問題だと思うけどな……。そう思ったけれど、空気を読んで口には出さないでおいた。


 「ほらほら、話してないで。2人とも、急いで帰らなきゃ!」

 真昼の言葉を皮切りに僕と祐介はハッとする。

 「そうだね。くれぐれも補導されないようにしないと」

 「ちょっ、それ冗談にならないから!」

 そんな事を言いながら、僕達は真昼にひとまずの別れを告げ、旧校舎を後にしたのだった。

 大変お久しぶりです。前回の投稿から半年以上も期間が空いてしまい、誠に申し訳ございません。私事ですが、4月から新社会人となりましてかなり忙しく過ごしておりました。休みはあっても、小説を書くまでの心の余裕がない、という感じでした。ただ、更新をお休みしている間も、彰と真昼の存在は常に頭の中にありました。今回で「真夜中の旧校舎」編が完結したと言う事で、2人を取り巻く環境も少しずつではありますが、変化していきます。今後も『ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊』を楽しみにして頂ければ幸いです。

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