85.今年も再び・・・
新世界歴1年12月31日、日本国 首都東京 総理官邸
地球より遥かに大きいこの惑星において1日24時間、1ヶ月31日、1年が372日と地球と殆ど変わらないのは政府としては有り難かった(カレンダーを多少組み替える必要はあったが)。
JAXAや国立天文台などによると惑星は大きくても地球より自転速度や公転速度が早い為トントンとなっているそうだ。
そんな事はさて置き激動の1年もあと数分で終わり、しかし日本も含めて世界各国の人々は外に出て空を指差しながら騒いでいた。
「何故、オーロラが出現している!」
総理官邸の総理執務室からふと窓の外を見た総理は慌てて正面玄関から外に飛び出しそう叫ぶと、補佐官達にJAXAや国立天文台などに原因を解明するように指示を出した。
そんな中、総理と同じく慌てて外に飛び出してきた為息が上がっている官房長官がこんな恐ろしい事を呟いた。
「・・・そう言えば1年前の今日もこんな空でしたよね?」
1年前の2029年12月31日、今日のようなオーロラが日本各地で観測され震度1〜2の地震が起きた後、地球各国はこの世界に転移した。
その後は苦難の連続だったものの、日本やその他各国はなんとか国を維持してきた。
またそれが起きるのかとその場にいた政府関係者達は青ざめた。
「また、0からのスタートなのか・・・」
1年前の異世界転移によりこれまでのパワーバランスは崩壊し、経済は大混乱に陥った。
体力の無い国は潰れる程の大惨事だ。
ただ、今に至るまで日本が生き残っているのは幸運が続いただけ。
そして、その幸運がこれからも続くとは限らなかった。
「・・・総理、2031年になりました。」
これまでの事を思い返しながら振り返っていると補佐官の1人がそう告げてきた。
「ん?今回は地震は起きなかったな。」
「そう言えばそうですね。また何か違う現象が起きたのでしょうか?」
去年は震度1〜2の地震が日本中、いや世界中で発生した。
震源地の無いこの地震は転移地震と呼ばれていたが、今回はそのような揺れは感じなかった。
「とりあえず危機管理センターに向かうぞ。国内の異常や海外との通信に関して早急に報告してくれ。」
「分かりました。」
去年の事があった為、今回は大臣や長官達などは本庁舎にあり、全国から呼び出すなんて事はしなくてよかった。
補佐官にそう伝えると総理は足早と総理官邸地下1階にある危機管理センターへと向かって行った。
新世界歴2年1月1日、日本国 埼玉県朝霞市 陸上自衛隊朝霞駐屯地
陸上自衛隊朝霞駐屯地は東京と埼玉に跨がる自衛隊の基地である。
関東及び甲信越の防衛を担う陸上自衛隊東部方面隊の総監部(本部)がある重要な基地であり、それなりに広い駐屯地である。
そんな朝霞駐屯地を二分する国道108号線の西側には朝霞訓練上があり、中央観閲式が開かれる滑走路がある(航空部隊は配備されてない)。
一方の東側には東部方面隊総監部や隊員達の庁舎があり、駐屯地の実質的な機能は東側にある。
そんな自衛隊駐屯地でもこの1年前と同じようなオーロラの出現は隊員達を不安にさせていた。
と言っても駐屯地司令は駐屯地司令室でオーロラなんて物はガン無視して日々の日報をひたすら書き上げていた。
ちなみに彼は東部方面隊総監部幕僚長も兼務している。
だが、そんな時間も慌ててやって来た部下の自衛官の報告で終わる事になった。
「失礼します!」
如何にも慌てていそうだが、そんな時も入室儀礼を忘れないのは日々の訓練の賜物だろうが、彼はそんな事よりサッサと報告したかった。
「ど、どうしたんだ?そんなに慌てて・・・」
普段は落ち着いた雰囲気の彼がこんなに慌てるとは何事かと司令は驚いた。
だが、彼はそんな事御構い無しに報告をした。
「朝霞訓練場に突如として洞窟が現れました!」
「はぁ、そうか。なら施設科に連絡して直ぐに埋めてもらえ。」
自衛隊の訓練場と言っても朝霞訓練上は大して広く無い。
射撃場やその他諸々の施設などが設置されているが、新しく洞窟が見つかるような場所では無い。
その為、司令は新しく地面が陥没などしてシンクホールでも出来たのかと考えたのだ。
ちなみに施設科は他国軍で言う工兵部隊である。
「ち、違います!滑走路の直ぐ隣のコンクリートで舗装された場所が突如として迫り上がって洞窟になったんです。」
「はぁ?どう言う事だ?」
「と、とりあえず来て下さい!」
そう言って司令は言われるがまま駐屯地庁舎の前に止められていた車に乗せられた。
ちなみに狭いと言っても数kmは軽くある為駐屯地内の移動は車を使うのだ。
そして国道を横断して訓練場に向かったのだが、その洞窟がある場所の周りらしき場所には隊員達が野次馬のように集まっていた。
「あぁ、司令。自分も今確認したらこのような事に・・・」
司令を見てそう言ったのは朝霞駐屯地に配備されている第31普通科連隊の連隊長である。
彼等第31普通科連隊隷下の第2普通科中隊はつい先程まで訓練場内にある射撃場で射撃訓練をしていた筈なので恐らく終わったばかりだろう。
「それで、その洞窟というやつは?」
「アレです。」
そう言って連隊長が指差した先にあったのは自然に出来た洞窟というより人の手が多少加えられていそうな洞窟だった。
更に自然に見えるのは外側だけで中は明らかに人の手が加えられていた。
更に・・・
「・・・これは、階段か?」
そうその階段は下にへと続いていたのだ。
更に壁もブラックを組み合わせたような模様をしており、明らかに危険な香りがした。
「入った人は?」
「いません。」
その言葉を聞いて一安心したが、問題は過ぎ去っていない。
先程からいろんな人がライトや懐中電灯を階段の先へと照らしているが全く見えない。
軍用の懐中電灯なのでかなり明るい筈だが、それでも階段の先は真っ暗だ。
「コレは今回のオーロラと関係があるかも知れん。防衛省に連絡を入れろ。それと武装した隊員第を警戒にあたらせろ。ただし、絶対に中には入るな。」
「り、了解致しました!」
司令がそう言うと流石、自衛隊。
先程まで野次馬の如く集まっていた隊員達が我先へと持ち場につき始めたのだ。
連隊長から警戒する様に命令された隊員は駆け足で武器庫に行き小銃を取って弾込めをしてフル装備で戻ってきた。
別の隊員は直ぐ様に市ヶ谷の防衛省に連絡を入れ今後の対応に関しての指示を仰ごうとした。
しかし、その頃市ヶ谷の防衛省では大混乱に陥っていた。
新世界歴2年1月1日、日本国 首都東京 防衛省 中央指揮所
11ヶ月程前のミレスティナーレ戦役で大活躍した防衛省地下にある中央指揮所は現在混乱していた。
何せ日本中の陸海空部隊から報告と指示が来たのだ。
流石に10年前のようにサーバーがパンクするような事は無いが、その報告がどれもこれも不可解過ぎたので指示を出す方も困惑していた。
「3佐、状況は?」
「日本中の部隊、北は北海道、南は沖縄の各部隊から正体不明の洞窟が現れたそうです。殆どは山間部などの人の少ない場所ですが、朝霞駐屯地にも現れています。極め付けは大阪城公園内にも正体不明の洞窟が出現したそうで第3師団と大阪府警の機動隊が現在警戒に当たっています。」
陸上幕僚長に現在の状況を聞かれた3佐は素早く纏めて報告する。
上の者からしたら有能な部下だ。
ちなみ陸上幕僚長は陸上自衛隊のトップである。
防衛大臣は現在、総理達と会議中だ。
「ふむ、大阪城公園か・・・厄介だな。」
「はい。警察や自衛隊に連絡が行くまでに数名の若者が洞窟内に入ったらしく、悲鳴の後姿を見せて無いそうです。」
「マジか・・・」
悲鳴の後に姿を見せて無いのなら死んだか気絶したかなどちらかだ。
陸上幕僚長は何かのトラップかダンジョンかと思ったのだが、片方に関しては当たっていた。
「それに関して大阪府の上の方にも話が進んでるらしく、大阪府知事が第3師団に対し治安維持での出動要請をしました。」
「なに?出動要請だと!?話が進み過ぎて無いか?」
「恐らく例のオーロラの事もあってその辺りの基準が緩くなってたのでしょう。」
「それにしたって出動要請とはな。公安委員会との協議があったんじゃ無いのか?」
「何かあっては遅いとの判断でしょう。北海道や沖縄、長野や岩手でも現在公安委員会との協議が予定されてます。」
「ちなみに先程の事態と同じ様な事が起きている都道府県になります。」と3佐は付け加えた。
確かに人命が失われている可能性もあるならば自衛隊の治安維持における出動も合理的にも思える。
と言っても周りの警戒などは大阪府警などの警察が行い、その洞窟周辺のみの派遣となるのだろうが、十分に歴史的な事である。
「それで?総理は何て?」
防衛出動に関しても治安出動に関しても、自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣の為、総理の命令が無いと自衛隊は派遣出来ないのだが、陸上幕僚長はその事を聞いた。
「その事に関しても現在会議中です。」
「そうか、結局去年と同じような正月になってしまったなぁ。」
陸上幕僚長はしみじみとそう呟いた。




