84.アメリカの後悔と日本の防衛力強化(軍拡と言ってはいけない)
新世界歴1年12月25日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス 大統領執務室
世間一般ではクリスマスと騒ぎまくっているこの日だが、国の舵取りをする大統領にクリスマスを楽しむ余裕などは無い。
現在進行形で、大統領はある事を嘆いていた。
「あぁ〜、なんで在日米軍を全撤退させてしまったんだぁ!」
国務長官と国防長官、商務長官達、財務長官がいる目の前で嘆く大統領はどう見ても世界の警察と呼ばれたアメリカ合衆国の面影など無いただのオッサンだった。
「今からでも横須賀基地の一部を借りては?日本も新大西洋航路の重要性はわかってるでしょう。」
「もう既に横須賀基地には海上自衛隊が移駐している。今更言ってみろ、さすがの日本も拒否するのは目に見えてるぞ。」
そもそも在日米軍は国防を放置して経済に国力を集中するという考え方の国防放置主義者達には受け入れられていたが、自国内に他国軍が駐留している事をよく思わない右派と軍隊をよく思わない左派とっては目の上のたんこぶだった。
更には既に日本は憲法9条を改正して自主国防を行う道を選択した為、今更アメリカ軍が戻っても歓迎する国は無いだろう。
「だが、もし新大西洋航路に何かあってみろ!テルネシアに対抗するどころじゃ無いぞ!」
日本にとってアメリカとの航路は食糧やその他工業製品を運ぶ上で非常に重要な航路なのだが、アメリカは日本以上にこの航路を重要視していた。
何せアメリカ軍の兵器には日本製の電子機器が必要不可欠でアメリカ国内で製造されていないのだ。
同じ理由でヨーロッパも困るかと思われるが、何故かその会社の工場がヨーロッパにはあるのだ。
「一応全ての船団護衛に海軍の駆逐艦を2隻配置してますので余程の事が無い限り問題ないでしょう。」
「この世界に転移して、その余程の事が起きなかった事があったのか?」
「・・・・・」
この世界に来てからアメリカは前途多難で(自身が起こした事も含めて)、よく今まで政権が崩壊しなかったなと思っていた。
ちなみに現在大統領の支持率は約60%程で、高くも低くも無い。
「経済はとりあえず持ち直したようだが、安全保障はWW2より混迷を極めているぞ!」
大統領の言っている事は事実だった。
当時はまだ敵対関係などの対外関係が非常に単純で分かりやすかった。
だが、現在は様々な利害が複雑に絡み合い単純な外交関係だけで見る事は出来ないのだ。
「大体、テルネシア対策は大丈夫なのか?」
「それに関してはまぁ、ソ連よりもマシとも驚異とも取れます。」
「どういう事だ?」
ある意味で2つの対義語が出て来たが、それを一気に使うと非常に矛盾している。
しかし国防長官はそんな事お構い無しに、説明に入った。
「当時のソ連は共産主義を世界中に輸出しており、我々には世界各地に敵が居ました。しかしテルネシアとの新冷戦では、我々が相手するのはテルネシア本国のみとなります。」
もはや熱いか冷たいかはともかく戦争をするのが決まってるような言い方だが、アメリカ世論の事を考えても政府としては何もしない訳にはいかなかった。
ある世論調査では「テルネシアとの和平合意を破棄するべきだ」との意見に60%もの国民が賛成しており、「和平合意を維持するべき」という意見は30%も居ない。
その為、政府としては国民の声を聞き国防予算を増額させて軍を増強しなければならないのだ。
「ですが、テルネシアはかなりの軍事大国です。装備も旧式では無く我々と引けを取らない程の最新装備を保有・運用しています。F-22やF-35が撃墜されたのがその証拠かと・・・」
「対応するのが1ヶ所で済む分、テルネシアの方がマシか。」
ちなみにコレに付け加えるならテルネシアの科学技術レベルは僅差と言えどもアメリカより高い。
更にアメリカ並みの人口とアメリカ並みの工業力、核兵器を持ってないのが唯一の救いだろう。
だが、逆に相手が核兵器を保有して無いとアメリカも核を使えないのでトントンだ。
「新冷戦ですか、またお金がかかりそうだ・・・」
部屋の隅で財務長官がポツリと言ったその言葉は他の人には聞こえていなかった。
新世界歴1年12月25日、日本国 神奈川県横須賀市 旧アメリカ海軍横須賀基地 現海上自衛隊横須賀基地
アメリカ海軍横須賀基地の全施設を受け継ぐ事になった海上自衛隊だが、横須賀基地には自衛隊にとって必要無い物が多過ぎた。
まず横須賀基地の3分の1を占める米軍兵士用の住居。
完全に基地から出ずに生活する為、地元貢献しないとして、これは殆どが取り壊される。
更に小学校に映画館にチャペル、キリスト教会等の不必要施設も真っ先に取り壊される予定だ。
更に自衛艦隊司令部やその他の補給処などの施設や設備などの移転もあって旧アメリカ海軍横須賀基地は現在、絶賛大工事中だった。
その為、海上自衛隊は工事が終わるまで引き継ぎ旧海上自衛隊横須賀基地にいる予定なのだが、アメリカ軍が撤退して必要無くなった施設。
池子住宅地区及び海軍補助施設や横浜ノースドックなどは早々に返還され、現在解体工事中である。
「全く相変わらず広い基地だな。」
「全くですね。工場が終わったら私達が使うんですがね。」
工場車両が出入りし、建物を解体したり建設している様子眺めながらそう話すのは自衛艦隊司令と第1護衛隊司令である。
横須賀米海軍施設群を海上自衛隊が受け継ぐ事に関しては少なくない反発があったものの、これまでの海上自衛隊施設群は返還される事もあり、更にはマスコミも大きくは取り上げなかった為、目立った反対なども無く順調に移駐は進んでいる。
「いつまでに移駐が完了する予定だ?」
「予定では来年の5月ですね。5月に移駐が完了して6月に返還する予定です。」
「と言っても横須賀地方総監部跡地辺りには海保の第三管区が入るんだろ?」
彼はそう言って今は横須賀地方総監部が入ってる建物を見た。
正確には横須賀地方総監部とその隣の横須賀造修補給所、そして逸見岸壁と吉倉桟橋を海上保安庁が使用する。
現在はバラバラに停泊している巡視船や巡視艇をある程度纏める為だ。
ちなみに燃料や弾薬などが保管されている吾妻倉庫地区やその対岸の海上自衛隊施設は引き継ぎ海上自衛隊が使用する為、実質返還されるのは自衛艦隊司令周辺の海上自衛隊施設群のみである。
ちなみに跡地の予定は全くの未定だ。
「思いっきり基地拡張してるが大丈夫なのか?」
「米海軍が居なくなりましたからね。世間体には縮小なのでしょう。」
何故か自衛隊はOKで在日米軍はOUTな人はそれなりに居るのだが、その逆は殆どいない。
まぁ、自国軍ならともかく他国軍が国内にいる状況を歓迎する人は自国軍に絶望している人くらいだろう。
「そう考えれば在日米軍の跡地って結構自衛隊が引き継いでるな。」
「そう言えばそうですね。」
彼の言う通り在日米軍の跡地はかなりの割合で自衛隊が引き継いでいる。
比較すると次のようになる。
・三沢飛行場施設→一部縮小し航空自衛隊が使用
・柿沼、車力通信施設→全域を防衛省情報本部が使用
・横田飛行場施設→大幅に縮小し陸空自衛隊が使用
・厚木飛行場施設→東側の海上自衛隊エリアを廃止し、西側の在日米軍エリアに移動
・横須賀海軍施設→隣接する横須賀基地を大幅に縮小し、海上自衛隊が使用
・経ヶ岬通信施設→全域を防衛省情報本部が使用
・岩国飛行場施設→一部縮小し海空自衛隊が使用
・佐世保海軍施設→海上自衛隊佐世保基地から移駐し、佐世保基地は維持
・嘉手納飛行場施設→一部縮小し航空自衛隊が使用
・普天間飛行場施設→廃止
・辺野古基地施設→陸海自衛隊が全域を引き継ぎ使用
・その他の沖縄米軍施設→大部分を廃止、一部を自衛隊が使用
となっている為、在日米軍施設の殆どを自衛隊が縮小して引き継いでいる。
「そう言えばその引き継いだ施設の維持で防衛予算が増額されて野党がまた文句言ってるそうですね。」
「中国の事が言えないくらいの増額だからな。1.2倍ぐらいだったろ?」
「8兆ぐらいじゃ無いですか?」
「GDP比1.3%の目標達成だな。」
10年ほど前に与党の民自党幹事長は防衛費のGDP比1.3%を目指すと言ってたのでようやく達成した事になる。
ちなみに去年はGDP比1.1%程度であった。
単純に今年だけで1兆円以上も防衛予算が増えてる計算になる。
オマケだが、日本だけでは無くイギリスや台湾、オーストラリアやついでにスフィアナも軍事予算は増額している。
一番の増額は前年比21%増の台湾民主国である。
日本に新型艦を発注したのが原因なのだが。
「来年もまた増えるんだろうなぁ。」
自分達の予算が増えるのは喜ばしい事なのだが、防衛予算が増えるイコール、危険が差し迫っている事なのであまり喜べない司令だった。
ただ、危険が差し迫っているのに予算が逆に減っていた20年前よりはマシかと思う事にした。
「仕事も増えるんだろうなぁ。」
この次の日、海上自衛隊初の航空機搭載型護衛艦の1番艦の配備場所が横須賀基地と防衛省より発表された。




