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ARK  作者: 涼城 co葯
10/10

10話 灯の中で

 遠距離に放っても脆くなりにくい弓射(きゅうしゃ)、体に触れているときに著しく野力が上がる鋼接(こうせつ)、ブライブのその粒子の大きさを原子レベルで自在に変えることができる秤燐(びんれん)、ブライブの特性は主にこの三つに分類される。多少の違いはあれども、それぞれ赤、緑、黄と色が決まっている。


 「たが、王家と一部の貴族はこの三つに分類されない、各々違った特性を持っている。能力も明かされていないことがほとんどだ。」


レイビットの作戦で山頂の裏手に回っていたアイリはふと教壇からとどく先生の掠れた声を思い出した。そのうちに、緩やかな斜面を蹴って彼の方に近づく足音が一つ。


「ごめん、思ったより手間取った。」


いつの間にやら日も完全に暮れて、遮蔽物のない山頂でさえほとんど何も見えなくなっていた。かなり急いできたのだろう、 彼女の荒い吐息だけがゴロゴロとした岩場に響いている。


ーーー


薄暗い空の下、3人に囲まれたレイビットは覚悟を決めた。


 数時間前、同じ船に搭乗していた顔見知りは5人。レイッビット含め誰と組もうと各々がそれぞれ相対さない限り破れるはずのない精鋭6人だった。最初に異変を感じたのは1回目の伝令、このときは「そういうこともあるか」と自己の抱いた最悪の事態をある種の”妄想”と一蹴した。


 だが、それが妄想から”懸念”そしてほとんど確定された”事実”へと回帰していくのにそう時間はかからなかった。それからずっと作戦を考えていた、「勝つため」ではなく「一泡吹かせてやろう」とそのために。


「この選抜は仕組まれている。おそらく、最初から1組、その中でも奢侈(しゃし)な貴族が選ばれるようになっているのだろう。そこで、」


ツンと切り裂く冷たい風。夕暮れの残り香が漂い紺色の訓練服の上から四人を包む。レイビットは途端にニッと大きな笑みを浮かべた。


学院の上層部(あのクソジジイ )どもをギャフンと言わせてやろうじゃないか」


ーーー

 「もうすぐ時間だ」


カナリアはコクっと頷く。つい三十秒前に激しく上下運動を始めた彼女の肩はもうすっかりおとなしくなっていた。


「(・・・3、2、1いまっ!)」


19時35分30秒、山頂中心から北西約75メートルの岩陰に別れを告げ、間抜けにも談笑を楽しんでいる標的に向かって駆け出す。今日一番の勝負のはずであって、


「はぁっあ!?」


固い足元を蹴り、揺れる視界が異変を感じ二人は動きを止めた。素っ頓狂な声を手で押さえるのは寸分間に合わない。


「お、ようやっと来た」


学院の演習場よりも少し狭い山頂に一人、場に似合わない気色の悪い笑顔で男が立っている。王国民とは思えないくすんだ青色の髪は眉毛の上でぱっつんと切られていて、それでも身なりだけは学院指定の訓練用服。両の手は腰の横、ポケットに収納され、まるで緊張感がない。


「待ってたんだよ!いや、本当に。最終番はさすがに強い奴が残ってるかなと思ったら、このざまだからさ、もう帰ろうかなって思ったらイシスが許してくれないから、こっちから迎えに行こうと思ったところでさ、」


アイリは彼の足元に視線を移した。まだ何かべらべらと喋っているようだが届かない。無惨に地面に這いつくばっている四人は、おそらくレイビットの言う”精鋭”四人。男女それぞれ二人ずつ、身ぐるみを剥がされ、また”奢侈”な彼らは整っているはずの髪もくしゃくしゃになっていて肌も擦り傷だらけだ。


「ちょっと、話聞いてる?」


ばちばちと火の粉を散らしながら炎が舞う。その下には灰色の布切れがちりじりになって重ねられていた。

砂埃に吹かれて、あたりを灯している火が消えかけた。手の平に少しの痛みを感じ、彼女は無意識に拳を作っていたことに気づく。流れた血には多分の憎悪と少しの怒り。ただ、一歩前に、もう一歩前に踏み出せない。


「ゴミカスがぁぁあ”あ”!!!」


馬鹿に大きい怒号が鳴り響く。カナリアがそれに気圧(けお)され横を見た時にはもうアイリは見えなかった。


「おいおい、あまり大きな声を出すなよ三流」


粉塵だけを残して駆け出したアイリはもう目と鼻の先に彼を捉えていた。


「ふんっ!」


蹴り上げた足は完全に奴の顎を捉える。その瞬間、


「っ!?」


深緑の光とともにバリンと音が聞こえ、紙一重のところで足は空を切る。着地と同時に後ろに二、三歩下がる。彼の両手はまだグレーの中に突っ込まれたままだ。


「へぇ、今のをブライブ無しで破るんだ。それに、さっきの声のわりに冷静。少しは楽しませてくれるかな。」


刹那、閃光が走る。


「い゛っ!?」


「いつまでも合図が来ないと思たら、どういうことだい、これは。」


そう言いながら、わずかに照らされたあたりを見渡す。暗くてほとんど見えない中、「おい、あれ」とカスパーが指している方に目を向ける。


「なっ、嘘だろ・・・」


連ねられたそれを見た時、怒りを覚え駆け出しそうになったが、一つの可能性が衝動を止めた。


「もしかして、君が最後の一人?」


男は当てられた後頭部をかきむしりながら、「あぁ、そうだよ!」と乱暴に答える。


「それで、君は学院生ではない?」


微かにコクっと頷く青色を捉え「それなら、」とレイビットは腰から何か金属を取り出す。左手をぴんと伸ばし、右手で耳を塞いだ。


重いものを木の床に落としたような音が聞こえ、煙が上がっていく。4・50メートル昇りつめたそれは最上部まで来たところで、ぱぁっと青色の光を放つ。アイリたちは何が起こったのかもわからないで唖然とそれを見ていた。


「こりゃ、まずいなぁ。」


アイリは思い出すように敵がいた方に視線を下げたが、見えるのは消えかかっている炎だけだった。

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