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第三話 黎明を言祝ぐ

 聖なる街を出ると、そこは広い草原だった。

 遥か先まで灯篭の様に据えられた松明に照らされた道が続いている。

 

 「……これが街道かぁ

 そういえば、他の人達がこのゲームに参加してから何時間たって………いるんだ?」


 敬語抜けねぇ……


 「何時間?三日です……

 三日だけど?」


 あ、アルスも抜けてな……い?


 「ーーーーーは?三日?」


 おかしいって!!

 だって、アイツらがメッセージを、交わしていたのって朝だよな?

 俺が参加したのは13時過ぎ……だから、大体5時間前だ。


 「なにか……?」

 

 「カルマ、リン、ハルがログインしたのは朝8時過ぎ。

 俺がログインしたのはその5時間後だ。」


 「なるほど、理解しまし……した。

 つまり、こっちの時間の進み方と現実の時間の進み方は違うってことだろう?」


 「ああ、そういうことになりそうだな。

 まぁ、正直、気になることは沢山あるけど、今はこの地を駆け抜けよう。」


 「うむ……そうだね。行こうか」


 俺達はこの街道を全速力で駆け抜けて行く。


 「そういえば、俺はまだレベル1なんだけど、アルスのレベルっていくつなんだ?」


 「え?あー……今は、29レベル。」


 「じゃあ、結構戦っているんだ」


 俺も戦わないといけない。のに、さっきから敵が出てこない。

 どうやら異常らしくてアルスも困惑している様だ。


 そして、その原因と遭遇する。


 空気が一変し、俺とアルスは立ち止まり、武器を構えた。


 松明だけでなく、今日は月が綺麗な夜で辺りは結構明るい。


 なのに、違和感を感じる。

 何かが見えないのにそこにいる感覚。


 何かが折れ、燃える音が聞こえ、後ろを向く。

 来た道に置かれた松明が勝手に倒れ、踏まれた様に砕かれていく。


 「ーーーー特典解放!!」


 アルスがそう叫ぶとその手に純白の盾が装備された。


 瞬間、松明を薙ぎ倒していたナニカがその盾とぶつかる。


 アルスが押され、今にも吹き飛びそうになる。


 「クソが!!」


 俺は鎌を握りしめて飛び上がる。

 アルスの目の前に居るはずのそれに全力で鎌を投げつける。

 そこにはしっかりと当たり判定があるようで、視覚的に言えば、空に鎌が突き刺さっているように見える。


 「ナイスッ!!」


 アルスが片手で盾を持ち、もう片手に剣を握りしめ、そのナニカに突き刺す。


 『Gaaaaaa!!!』


 ナニカは悲鳴の様なものをあげて暴れる。


 「一旦下がる!」


 アルスは盾を構えたままバックステップで距離をとり、俺はその隣にくっつく様にして太刀を構える。


 「アルス、アレはなんだ?」


 「情報でしか知らない存在だが、アレはレアエネミーに分類される存在だ。」


 「レア…エネミー……?」


 透明なソレは月光に照らされて姿を表す。

 

 結晶に侵食された様な見た目をした大きな獣……いや、狼が、その冷徹な捕食者の如き青き双眸をこちらに向けている。

 今にも突進してきそうに、前足で地面を掻きながら、低く唸る。


 「そうか、もう、夜明けに近い時間なのか……失念していました。

 アレは、"黎明を言祝ぐ獣エンデ"と呼ばれる、この地の頂点捕食者、レアエネミーです。」


 空を見ると、少し青みがかった黒になっている。これは、夜明けが訪れる証拠。


 なるほど、黎明を言祝ぐ獣……そりゃあ、この時間なら現れるよなぁ……


 「覚悟はいいですか?」


 アルスが俺の顔を覗き込んで言う。

 その表情には明確な焦りが浮かべられていた。

 そりゃあそうだ。

 レベル1を抱えてエアエネミーとノーデス縛りの戦い。

 アルス程のプレイヤーでも、死は怖いに決まっている。


 それでも俺の心配をする。

 なんで性格がいいんだ。

 なら、それに応える言葉は、


 「余裕だ。

 クランリーダー同士のドリームチーム、ここで負けてちゃゲームはクリアできねぇよ」


 「……ふぅ……そうですね。いや、そうだよな。

 やってやろうぜ!!」


 俺達が覚悟を決め、叫ぶ。


 その姿を見て、エンデは低く唸り、姿勢を落とす。


 「なんだ…?」


 その身体の結晶が淡く光り、電気の様なものを帯び始める。

 

 「……この攻撃は私が受け止める。

 そうすれば、救難信号もどきが送れるかもしれませんしね。」


 アルスがそう笑い、盾を構える。


 「アルスさん……大丈夫ですよね?」


 エンデの結晶が閃光を発し始め、攻撃が放たれる直前であることを物語る。

 そんな閃光に照らされてアルスは笑い続ける。


 「騎士として、全てを守る。

 騎士として、敵を屠る。

 教えてあげよう、エンデ。

 守りは最強の兵器なんだよ。」


 盾を握り締め、目を見開く。


 「ーーーー"クランスキル"!!!!

 "リフレクト"!!」


 盾から光が溢れ出し、大きな盾のように形を変える。

 

 雷が落ちたかの様な爆音が響き渡り、視界を白飛びさせるほどの閃光が迸る。


 『Gaaaaaa!!!』


 何本もの雷を紡ぎ合わせたかの様な一撃が放たれ、大いなる盾にぶつかる。


 「全てを受け止め、送り返してやるさ!!」


 放たれた攻撃は全て光に包まれ、粒子として盾に吸収された。


 『ruuuuuuu……』


 攻撃を吸収した盾は煌々と光り輝いている。


 「お返ししますよ、"オーバードライブ"!!」


 盾を投げる様に腕を振る。

 

 再び閃光が迸り、雷轟が響き渡り、エンデが放った一撃がアルスの盾から放たれた。


 『Gaaaaa!!』


 攻撃を突き返されたエンデは困惑している。


 「クランスキルってなんだ?」


 「クランで一つだけ作れる共有スキルです!!

 でも、今は、攻撃!!」


 そう言ってアルスは盾と剣を構えながら突撃していく。


 「了解だ!」


 太刀を握りしめ、俺も走っていく。


 『Gaaaaaaaa!!!!』


 咆哮が響き渡る。

 ゲームのキャラが咆哮でスタンする理由がわかった。

 これまではシステム的に痺れる感覚だけだったのが、鼓膜が裂ける様な痛みが頭を襲ったからだ。


 「だが!耐えられる!!」


 目を見開いて歯を食いしばって突き進む。


 俺はまだレベル1。スキルは何もない。


 だけど、この手のゲームはカルマとやり込んでんだよ、身体の動かし方はスキルのアシストが無くても分かっている!!


 エンデの前足が振り上げられ、振り下ろされる。


 「気合いの、見切り!!」


 バックステップでその攻撃を避け、攻撃後のわずかな隙の前足に刀身をぶつける。


 俺のレベルが低いせいで今の攻撃は効いていないだろう。

 

 だが、ヘイトを買った様だ。


 『Gurururururuuuu………』

 

 血走ったエンデの鋭い視線が物語っている。

 コイツは俺に首っ丈だ。

 だから、コイツは俺を噛み砕こうと大きな口を開いた。


 「でも、それでいいのか?」


 ガゴンッ!と大きな音を立ててエンデが首ごと吹き飛ばされる。


 咆哮の後、潜伏していたアルスがその盾でエンデを殴ったんだ。


 「良い身のこなしです。

 さすが、夜龍のリーダー!!」


 『Gaaaaaaa!!!!』

 

 吹き飛ばされたエンデは再び咆哮をするが、痛みが伴うさっきのモノと違う。

 結晶が淡く光る。


 またさっきのブレス……か?


 「また、受け止……いや、」

 「違う!!」

 

 結晶からいくつもの雷が飛び出し、矢のように弧を描いて降り注ぐ。


 こういう手合いの攻撃は止まらずに動き続ければ避けられると決まっている。


 だから走っているのだが、


 「嘘だろ!?こういう攻撃しながら動くのかよ!?」


 エンデは前方から距離を詰めながら、雷を降らせつつ前足で攻撃を繰り出してくる。

 

 「パリィをして隙を作りますので、攻撃を頼みます。」


 「俺の攻撃に期待するなよ?」


 おかしいな……なんで俺は死と隣り合わせの戦いを楽しめているんだ?

 

 「……サクラさんが考えていることがもし、この状況を楽しめていることへ疑問を持っているのなら、安心してください。」


 心を見透かしてきたかの様なアルスの発言に驚いてその顔を覗き込んでしまった。


 ああ、なるほどな。

 俺もそう言う顔してたか……


 覗き込んだアルスの表情には、汗が滲み、引き攣った笑みを浮かべ、顔を赤らめて楽しんでいる。

 酷く恍惚としたものだった。


 死と隣り合わせのこの状況を楽しんでいやがるんだ。


 「でも、目的は見失うな。

 俺の目的は皆んなの解放だ。」

 

 「……その心意気は大切です。

 でも、戦いは楽しまなければ勝てませんよ。

 我々ゲーマーのポテンシャルは、気分に左右されます。」


 「ああ……そうだよな。」


 どうやら俺は皆んなのためにって気負いすぎて、お母さんの言葉を忘れていたよ。


 生きて帰ってくれば大丈夫。

 

 終わり良ければすべて良し、死ななければ、楽しんでもいいんだ!!!


 「パリィを頼む!!」


 「任せろ!!」


 エンデが放った攻撃をアルスが受け止めながら、はね返す。


 火花が飛び散り、エンデが大きくのけ反り、姿勢が崩れる。


 「……攻撃力が低くいなら、狙う場所はただ一つ!!!」


 これは、現実なんだろ?

 なら、コイツは、コイツの弱点は!!


 「首だ!!」


 のけ反って顕になった首に太刀を突き立てる。

 「硬い……けどなぁ!!!」


 無理やり押し込む。


 『Gaaaaaa!!!』

 エンデは抵抗するために体を動かそうとするが、それは逆に自分の首を差し出す行為になる。


 「バカだなぁ!!」


 『Araaaaaaa!!!!』


 「あぁ!?」


 エンデが体を大きく振る。


 「あっ」


 太刀から手が抜け、宙に放り出される。

 地上から5mくらいの位置だろう。


 「あ、死んだ。だめだ、この高さ!余裕で死ぬ!!」


 追い討ちをかけるように、視界の端に見えるエンデが再び雷攻撃を始めようと身体の結晶が淡く光らせている。

 

 ーーーあぁ、こんな……序盤で……


 「死にませんよ!!」


 飛び上がってきたアルスに抱き抱えられ、俺は安全に地面に降り立った。


 「走れますよね!?走るよ!!」


 「お、おう!ありがとう!!」


 助けられたのも束の間、空から雷が降り注いできているため、走りまわる。

 ただし、今回は首に太刀が突き刺さっているため、エンデは激しく動けないだろう。


 『Gyuraaaaa!!』


 エンデが飛び上がり、空中で背中を地面に向ける。


 「アルス!質量攻撃だ!!全力で飛び避けろ!!!」

 「分かっています!!!」


 飛び込む様に転がり、落ちてくるエンデを避ける。

 

 「よしっ……あ?」


 エンデの結晶がまた光り出す。


 「アルス!飛び跳ねろ!」

 「はい!!」

 

 飛び跳ねたと同時にエンデの結晶から波の様に電流が放たれ、足元を通過する。


 地面に着地する。

 すると、同時にエンデは体を起こし、下半身を突き上げる様な姿勢をとる。


 「っ!!」


 『Garaaa!!』


 巨体を回転させ、その長い尻尾を鞭の様に振り回す。


 俺もアルスもギリギリ範囲外に来ていたため、その攻撃を運で避ける事ができた。


 『Gaaaaaaaaa!!!!!』


 また咆哮だ。

 そして、この咆哮は完全にスタンさせる咆哮で、俺はソレをモロに受けてしまった。

 

 ーーーー耳から血が流れ、唐突に訪れた無音の世界で、鼓膜が完全に破れたことを確認した。


 まず、い……アルスと連携が……


 更に、これまで味わったことのない痛みにより、膝をつく。


 くそっ!!


 痛みで細めた目をこじ開ける。

 膝が笑う。

 それでも、立つ。


 ーーーーー!!!!


 音は聞こえないが、エンデはアルスにヘイトを向けてアルスに猛攻を仕掛けているのが見えた。


 アルスは攻防一体の塊みたいなプレイスタイルだが、流石にエンデを一人で相手にするのは厳しいだろう、今にも鎧が砕けそうだ。

 ……それでも、盾だけは無傷なのは、特典だからか?


 そんなアルスの姿を見て、俺も今すぐに参戦したいのだが今、手元には武器が無い。

 

 あるのは、ストレージ内で

 "解放条件未達成"とされた"特典"だけ。


 ーー俺の武器は……


 太刀はエンデの喉元に、そして、さっきのダイブによってすぐそこに落ちていた。


 俺はすぐにその鎌を取り、走り出す。


 ーー俺が相手だ!!


 多分、うまく発音できていないが、そう叫び、エンデの無防備な横腹を斬る。


 案の定、大したダメージにはなっていない様子。


 ーーくそっ!!


 ーーーーーーー!!!


 ちょこまかと邪魔な俺に苛立ったのか分からないが、エンデは唐突に体を回転させ、前足で俺を、尻尾でアルスを吹き飛ばした。


 ーーっぐ……


 激痛が走る。

 これが骨の折れる痛みか……


 ーーああああああああああいってぇ、痛えよ……


 息が上手くできない、


 ーーはぁっ、はぁっ、ふぅ……ふぅ…


 痛む体を無理やり持ち上げる。

 遠くでアルスも痛みに悶えている。


 まったく動ける気がしないこの状況でも、エンデは追い打ちをかけてくる。


 ーーうそ……だろ?


 エンデの結晶が淡く光り出す。


 ーーダメだ!!避けれない!

 

 死ぬ、死ぬ、死ぬ。

 動け。

 動けよ、俺ーー!!


 ダメだ、動かねぇ、体に力が入らねぇ……


 閃光が迸り、視界が白飛びする。


 ーーーーあぁ、ここで……



 しかし、その結果は死ではなかった。


 俺に覆い被さり、アルスが盾で守ってくれている。

 その表情は悶絶に満ちていて、涙と汗と血が混ざり、頬を伝って落ちてくる。

 

 そして、俺の目に映るその腕は震えていた。それでも、盾は一切揺るがない。


 ーーなんで?


 その問いに対する返答は聞こえてこない。

 だが、アルスはその身だけでエンデの雷を防ぎ切った。


 幸いなことにエンデも疲弊していたようで、追撃を放ってはこなかった。


 ーーなら、"都合がいい"


 ステータスリングを使ってウィンドウを操作する。


 ストレージに入れられた"一つの武器"にカーソルを合わせ、確認する。


 ーー解放条件達成ーー


 ーーやっとか……


 その文字を見て俺は笑い、武器を取り出す。


 それは、様々な花があしらわれた美しい鞘に収まった太刀だ。


 それを握りしめ、声をだす。


 ーー俺を、あいつに投げてくれ


 上手く伝えられたか?鼓膜が破れているからマトモに発音できていないと思うが、顔を見上げるとアルスは驚いた表情を浮かべている。


 ーー特典を……使う


 そう言って太刀を見せるとアルスは苦虫を潰した様な顔をしながら頷き、俺の腰を掴む。


 ーーいけ!!


 そう叫ぶとアルスが俺を投げ、俺はエンデに迫りながらその太刀の柄を握り、鞘を抜く。


 ーーーー特典解放……!!


 空気が揺れ、エンデの視線が俺に向く。


 その視線に宿った感情は、さっきまでとは明らかに違う。


 捕食者のそれじゃない。


 そして、俺はそれを知っている。


 ーーーー死への恐怖だ。


 その恐怖により生じた隙を突いて、軋み痛む体を無理やり動かして斬りつける。


 俺は投げ飛ばされた勢いのままエンデを飛び越え、地面に衝突した。


 斬り裂いた。

 致命には程遠い一撃だった。


 それでも――エンデはふらついた。


 ソレと同時に、俺に付けられた致命傷は瞬く間に治っていった。


 ようやく痛みが引いた。


 「あぁ……やっと音が聞こえる様になった。

 死がそこまで来ている感覚、悪くなかった。

 でも、他のやつに今の感覚を味わって欲しくないからなぁ……」

 

 刀についた血を払い、太刀を構える。


 「ん?この太刀はなんだ?って顔だな。」


 一歩踏み出し、刀を構える。


 「教えてやるよ。

 お前を殺す太刀ーーー」


 「"万花万蕾の太刀"」


 朝日を受け、刀身が妖しく光る。

ご精読ありがとうございました


連投、最後の第三話です。

続きが気になってくれたら嬉しいですね。


次の話は怪異譚が出たら投稿されると思います。


これからもよろしくお願いします。


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