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第一話 ゲームスタート

 カーテンの外が明るくなっている。


 「……もう朝…」


 VRのヘッドギアを外し、ベットから体を起こす。


 「はぁ……」


 寝不足で痛む頭を抱えながら一点を見つめつつ息を深く吸って吐く。


 ゆっくりと立ち上がり、制服を取ってシャワーを浴びに行く。

 リビングに入るとお母さんが朝ごはんを作っていて、目が合った。


 「……ちゃんと寝た?」


 「まぁ、まぁ、まぁ……」


 煮え切らない態度で返事をすると、「はぁ」と、ため息をつかれた。


 「"サクラ"として戦うのは良いけど、"櫻木勇気"として日常生活はしっかりとこなしてね?」

 さえ箸を向けてそう言うお母さんの顔には心配の表情が浮かべられていた。

 

 「わかっ……た。風呂入ってくる。」

 分かってる。って言ったら「分かってない!」って怒られるのは知っているから、出そうになった言葉を飲み込んで当たり障りの無い返答をしつつリビングを後にする。


 「はーい」

 朝から元気なお母さんの声を煩わしく思いつつも平凡で退屈な日常を噛み締めて風呂に入る。


 シャワーを浴びながらさっきまでやっていた"ジェノサイド"と呼ばれるゲームのことを思い出して頭を抱える。


 「はぁ……」


 俺は"夜龍ナイトワイバーン"と言うクランに所属している"サクラ"って言うプレイヤーだ。

 別にプロって訳じゃないけど、様々なゲームで名を轟かせているから結構有名人……なのかな?


 さっきまで、"狂乱バーサーカー"というクランとクラン間の争いを繰り広げていたのだが、最後の最後で酷い漁夫の利を受けて結構良い物資をロストしてしまった。


 それが鬱すぎて無言で萎え落ちした訳なんだが、思い起こすとさっきのファイトでの反省点が多すぎて嫌になる。


 だからと言って「ゲームを辞めたい!」と思うことはないし、"狂乱"に対する復讐心がとめどなく溢れてくるから今すぐログインしたいし、漁夫の利をしてきたやつのキルログをスクショしてあるからこの後SNSをサーチしてソイツの情報を収集して、ゲーム跨いで粘着してやろうか。とかそう言うところまで考えているわけで……


 「ん?」

 

 防水のスマホケースに入れて音楽を流していたスマホが一瞬音を消した。

 通知が来たってことなんだが……


 「あー、"カル"さんか。」


 ーーーーー


 •カルマ

 俺、落ちるけど

 お前萎え落ちしたな?


 ーーーーー

 

 夜龍のメンバーであるカルマ君だ。

 俺が無言でログアウトしたから、心配のメッセージを送ってくれたのか。

 ヤサシイナァ……


 ーーーーー


 •サクラ

 落ちる了解。

 萎え落ちじゃないです。学校なだけですー


 •カルマ

 萎え落ちですね。

 ハルはもう落ちたけど、リンはまだやってるから。


 •サクラ

 流石です。

 ところで、あの漁夫どうなった?


 •カルマ

 お前が死んだ後にアリスさんがぶっ殺してた


 •サクラ

 狂乱のリーダー怖すぎー


 ーーーーー


 風呂から出てタオルで体を拭き、制服に着替えてからドライヤーで髪を乾かしつつスマホを見る。

 夜龍のグループチャットが動いている。


 「通知音ウルセェな……」


 通知ボタンを切ってショート動画を見ながら髪を乾かしていく。


 ショートではジェノサイドの最新アプデ情報だったり、ロストの最強クラン紹介だったりと、プレイしているゲームの動画ばっかり流れてくる。たまに見知った名前も出てくるから凄い面白い。


 「夜龍の情報は全然出てこないけどなぁ……」


 たまに要注意クランで狂乱と共に流れてくる気がするけど……


 「ヘアセ……」


 ふと、洗面台の上の方に置いてあるワックスを見ながら考える。

 

 「まぁ、いいや……学校でしよ。」


 ワックスを手に取ってリビングに戻る。


 「髪ボッサじゃん!整えないの?」


 朝食を配膳しながらお母さんがこっちを見てそう言う。


 「あー、学校でするよ」


 ワックスを見せてカバンに入れる。


 「怒られんなよー?」

 

 「ワックス如きで怒られませんよ〜……

 あー、ヘアアイロン?あれは流石に学校では使わないよワイヤレス持ってないし、女子が学校のコンセント使ってブチギレられてたし」


 「ならいいんじゃなーい?その癖毛をヘアアイロン無しでセットするのならね」


 「男子高校生のテク舐めんな。」


 多分、ヘアアイロン借りるけど。

 

 フルメイク、髪セット完了した妹と、寝起きの父さんが二階から降りてきてテレビをつけながら朝ごはんを食べ始める。


 「あれ、8時30分じゃん。やばくね?

 父さん、送って?」

 「あ!私も!」


 「えー、まぁいいけど」


 妹は同じ学校だからな。よく一緒に車に乗せてもらう。


 朝ごはんを完食して歯を磨いて弁当をもらって車に乗る。


 「ゆーちゃん、またゲームしてたの?」


 妹が車に乗りながら聞いてくる。


 「まぁ、うん。」

 

 「賞金は?」


 「今日は大会じゃねぇよ。」


 「なーんだ」


 この前出た大会の賞金で焼肉を家族に奢ったせいで俺のPN等がバレ、それ以降よく話に挙げられる。


 動画投稿サイトで小銭稼ぎしてるのがバレたらマズイな……

 

 スマホでさっきまでうるさかったグループを見る。


 「じゃあ出発するぞー」

 「お願いしまーす」「アザース」


 車が学校に向けて動き出す。


 ーーーーー


 •リン

 なんか、変なのきた。

 ースクショ添付ー


 •haru

 え、なにそれ


 •カルマ

 怪しいが


 •リン

 うん、怪しいよね


 •カルマ

 でも、そこで日和るリンさんじゃないですよね?


 •haru

 リンさんがここで日和るわけないじゃないですかー!!


 •リン

 えー、じゃあハルもカルマも来てよ。

 あ、サクラも


 •haru

 サクラは?


 •カルマ

 萎え落ちからの通知オフだろ?

 これは、俺らが先乗りしてやろうぜ


 •リン

 あり


 •haru

 ありー!

 だってサクラは今日学校でしょ?土曜日も学校なんて可哀想だよねー


 •カルマ

 まぁここには年中休日がいるからねーリン。


 •リン

 違いますー。ちゃんと勉強してます


 •haru

 勉強すると学校に行くは違うよ?


 •カルマ

 じゃあ、3人で行きますか?


 •haru

 行こう


 •リン

 行こう!


 ーーーーー


 は?なんだコイツら。


 会話の内容の節々にムカつきつつも、リンが添付したスクリーンショットに目が持っていかれる。


 「………エンペラー……ゲーム?」


 それはエンペラーゲームと言うゲームについて書かれたサイト?のスクショだった。


 「最も早く攻略したプレイヤーの願いが一つ叶う……

 リアル世界と同等のゲーム世界で行われる一度限りのゲームイベント……

 四体の龍を倒してラスボスである皇帝を倒せ……」


 怪しすぎる。


 なにが願いだよ……

 しかも、このゲームどこの会社が作ってんだ?


 てか、これにアイツらが参加したわけか……バカだろ……


 ん?でもおかしい。


 「誰もログインしていない…?」


 通話アプリはそのアプリを起動しているか、何かしらのゲームを起動しているならログインマークがつくのだが、誰一人としてそのマークがついていないのだ。


 「一旦、寝たのか?」


 ーーーーー


 •サクラ

 抜け駆けかよ。

 学校から帰ってきたらやりたいから先に攻略進めておけよ?


 ーーーーー


 ……返事がない…


 少なくともリンはこう言うのには秒で返すのに……寝たのか?いや、この会話の流れでアイツらが寝たとは思えない…


 あれかな、3人だけのグループを作ったのかな?


 にしては、誰もログインしてないが……


 「ログイン通知オフにしたのか?

 くそがよ……」


 でも何故だ?

 この胸騒ぎは、何が原因だ?


 ーーー


 学校につき、自分の机の上にカバンを投げるように置いて更衣室で駄弁ってる友達のところに行く。


 「おはよ」


 「うぃー」「また来たのかよ」「なんだーお前ー」

 

 そんなことを言ってくるが別にハブられてるわけじゃなくて、そう言うノリ。

 俺だけ別のクラスだからな。


 「また来ましたー」


 床に座り、スマホを取り出す。


 「またゲーム?」


 友達が一人寄ってきて隣に座る。


 「そー、対戦する?」

 「えー、いいかな。」

 「あっそ」


 次から次に友達が更衣室に入ってきてわちゃわちゃしだす。

 別にみんなで会話してるわけでもないし、黙々とネットサーフィンしてる奴もいる。

 この空間にみんながいるってのがデカい……


 「勇気さ、今日セットしてないの?」

 

 隣でゲームをしていた奴、しゅーとが俺の髪を見ながら聞いてきた。


 「あ、し忘れてた。」


 「貸す?」


 しゅーとがバッグからワックスを取り出す。が、持っているため、

 「あ、大丈夫。ある。」


 「そうなのね。まぁ、でも、りっさんがまだ来ないからヘアアイロンは使えないし、勇気君は今日、ノーセットで!!」

 「まぁ、アリかな?」


 めっちゃ良いヘアアイロンを持ってる友達がまだ登校して来ないからノーセットが確定した。


 「そろっと時間だぞー、ほら戻るぞー」

 

 誰かがそう言ってみんながそれぞれの教室に帰っていく。

 

 席に着くと前の席のヤツが振り向いて話しかけてくる。


 「なぁ勇気、エンペラーゲーム、見たか?」

 

 「み……たけど?」


 想定外のワードに一瞬ビビる。

 友達はSNSの画面を見せながら話し始める。


 「なんか、ヤバいみたいだぞ。

 起動した人が神隠しにあったらしくて、今、起動しないようにって声がかけられてるらしい。

 更に、そのゲームの出所がわからないんだって。」


 「ーーーーーは?」


 いや、出所が分からないのは知っている。それは気になっていた所だ。

 だが、神隠し……?

 人が消えたって事か?


 「え?どうしたの?」


 「ごめん、まって……」


 スマホを開く。

 

 やっぱり、誰もログインしていない。


 「本当に、起動……したのか?」


 「え?なに?」


 「フレンドが、エンペラーゲームを起動したみたいだ。」


 「ヤバくない?」


 「ヤバい。どうしよう……」


 その時、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。


 スマホ禁止の学校だから焦って机にスマホを隠して号令に合わせて立ち上がる。


 ーーどうしよう……


 まぁ幸いなことに今日は午前だけ。


 早退するよりも、波風立てずに家に帰ってゲームを起動した方が親からの足止めも喰らうことはないだろう。と考えて一旦冷静を装って授業を受けることにした。


 ーーー


 あぁダメだ。眠い。


 徹夜後の授業は……死……ぬ…

 意識を手放し、至高の眠りの中へ…


 ーーー


 気がつくと俺は、知らない、見覚えのない遊園地の中にいた。


 「……はい?」


 人っ子1人居ないのに勝手に動くメリーゴーランドに、観覧車、誰も乗っていないのに動き回るゴーカート……


 「なんだ、ここ……」


 辺りを見渡しながら歩くとメルヘンな城が目に入る。


 「………あそこか?」


 聞き覚えが無いのに懐かしい音楽が流れるなか引き寄せられるように、城に向かって歩き出す。


 誰かにみられているように感じるけど、誰もいない。

 なかなか怖い悪夢だな……


 「いや、夢にしては夢であることを認識しているし、妙に空気感がリアルだ。

 おかしい。」


 おかしいと思いつつも城の前に到着したオレは、城の扉を押し開けて中に入っていく。


 城の中は単純な構造で、レッドカーペットが続いていく長い通路だけがあった。


 「……これは?」


 ふと、その通路の先に、玉座の様なものが見え、そこに誰かが座っているのが分かった。


 「誰だ?」


 その者に近づく。


 「おーい、誰だー?」


 さらに近づく。


 すると、そこに座っているのが途轍もなく顔の整った麗しい少女であることが分かった。


 「えっと……君は?」


 「ーー私は闇神。」


 その少女は神を名乗る。


 「やはり、君の魂は規格外だ。

 君は有無を言わさずにゲームに参加してもらいたいのだが……」


 興奮気味に少女は立ち上がり、手を差し伸べる。


 「ゲーム?

 エンペラーゲームってやつか?」


 「すごい冷静さだね。これが夢であると分かっているから?それとも、そういう性格なのかな?」


 「いや、多分フルダイブ系のゲームのやりすぎだ。これを異常だと思えていないからな。

 それよりも、質問の返答が欲しい。」


 「ああ、すまないね。

 君の問いに対しての答えはイエスだ。

 僕は、エンペラーゲームを開催した神だ。」


 「だとしたら、神隠しってのはなんだ?」


 「転移だよ。

 僕のゲームは拡張現実(AR)や仮想現実(VR)で行われるまやかしのゲームじゃ無い。

 完全な異世界を作り出し、そこに転移させてゲームを行う。


 リアリティが追求された最高のゲームだよ。


 だって、本当にリアルだからね。」


 「リアル……つまり、リスポーンは無しなのか?

 死んだら一発ゲームオーバーなのか?」


 「まぁ、そうとも言えるね。

 蘇生はできないわけじゃないから、限りなくハードコアに近いゲームって感じだ。」


 「この身一つで、異世界を、ゲームの世界を生き残れ。と?」


 「まぁ、流石に僕は鬼畜じゃ無いからね。

 この退屈な世界の人間が剣も魔法も知らないのは知っている。

 だから、特典を一つ授けてあげているんだよ。

 その人の願いに沿ったオンリーワンのオーダーメイド武器や魔法を贈呈している。」


 「はっ、チートってやつか?」


 「そう。チートだ。」


 「なんとなく見えてきた。

 でも、分からないことがある。

 なんで、俺の夢に出てきてやがった?」


 「君がゲームに参加していなかったからね。」


 「まるで俺に参加して欲しいような言い方だな?なぜだ?」


 「君が必要だから。詳しくは言えないけど

 僕は君にこのゲームに参加して欲しい。

 他のNPCじゃダメなんだ。」


 「……ところで、リンと、ハルと、カルマは参加しているのか?」


 「してるよ。

 "ふれぐらんす"も、"アリス"も。君のフレンドとされる強者の多くはこれに参加している。」


 「……そうか」


 「さて、質問は終わりかな?

 さぁ、ゲームの参加を宣言してもらおうか」


 闇神が立ち上がり、片手を差し出しながら歩いてこっちに向かってくる。


 「……まだある。願いについてだ。」


 「なんだい?」

 

 「願い、それはーーーーーーーーと言ったら叶うのか?」


 「ふふっ……叶うさ。叶うとも

 すごい……よく"そこ"に気がついたね。」


 「なら、俺もそのゲームに参加する。」


 「じゃあ、特典はどうする?」


 「ーーーーーーーーーを頼む。」


 「……あはは、いいね、それ、じゃあ、行っておいで。

 僕は君を一番買っているんだ。期待通りの働きを頼むよ?」


 「あー、ただ、最後に家族に会いたいから、そうだな……VRヘッドギアを装着することをトリガーにしてほしい。」


 「そうだね、いいよ。

 死ぬかもしれないからね〜、まぁ、それがゲームでしょ?」


 不気味な表情だ……


 「あ、でも、君のフレンド達はすでに戦っているし、君が遅れたせいで誰かが死ぬ可能性もあるから、出来るだけ早くした方がいい。

 あとは、物資のリソース的にも。

 君なら、分かるよね?」


 「わかるよ。」


 「じゃあ、またね」


 そう言われると同時に意識が途絶えた。


 ーーー


 ビクッと音を立てて突っ伏していた机から転げ落ちるように眠りから覚めた。


 「……」

 

 何事もなかったかのように机の上を整えて教壇に立つ先生の目を見る。


 「寝てたね」


 「おはようございます」


 「じゃあ、この文章、読んで?」


 「はい。」


 そもそもどの文だよ……

 隣の奴に助けてもらってその場を潜り抜けた。


 授業も全て終わり、カバンに荷物を詰め込んで教室を出る。


 「あ、勇気のクラスやっと終わった」

 「帰るっしょ?ラーメンいこかー」


 廊下で駄弁っていた友達の顔を見て日常を噛み締めつつその隣に座る。


 「どした?」


 「うーん、今日は一旦いいかな。

 明後日、月曜なら行けるけど?」


 「月曜……まっ、そん時になったら考えるわ」


 頭に手を置かれ、それを払いのけ立ち上がる。


 「今日、車で来たから、親呼ぶわ」

 スマホを取り出し、ラインで親を探す。


 「いや、それは甘えでしょ。一緒に電車で帰るよ」

 

 同じクラスの連れが出てきてスマホを奪われた。


 「返せ〜」

 「覇気ねぇな。」


 ひょいとスマホを手渡された。


 「ほら、帰るぞ」

 「……なぁ、ハルト、りっさん、しゅーと、明日、遊ぼうぜ日曜だろ?」


 俺はよく分からないまま遊びに誘っていた。


 「んー?あー、いいけど、なにすんの?」

 「りっさんの家行くか。」

 

 立ち上がって隣にいたりっさんの顔を見る。

 

 「え?いいけど、片付けに時間かかるよ」

 「今日中にやっとけよ。

 なんで事前に行くよって伝えてるのにみんなが到着してから片付け始めんだよ毎回。」

 「いいじゃん」


 りっさんのアホヅラを見だ後に雨具掛けに肘を置いて窓の外を見る。


 「まぁ、そういうわけだからさ、他にも誘いたい奴いたら誘おう。

 そうだなぁ、みんなでなんか作って食おうぜ。ホットプレート持ってくからさ……」


 「おうよ」「了解」

 

 「わかったけどさ、何時なの?」


 しゅーとが俺の姿勢を真似をしながら聞いてきた。


 「んー、4時とか。」

 「あ、夜ご飯なの?」


 「んーいやー、てきとー。」

 「あ、はい。」


 「あとでラインすっからさ、まぁ、おいおい決めようぜ」

 

 そう言って俺は自分の荷物を持って廊下を歩き出した。

 

 「お?電車の時間やべぇな。」

 ハルトがそう言って走り出した。

 「ほら、勇気!行くぞ」


 「うん。行く」


 俺は久しぶりに電車に乗って家に帰った。


 ーーー


 「んじゃーなー」


 ハルトと別れ、俺は帰路に着く。


 静かな道を一人で歩く。たまに車が横を通るくらいの道だ。


 もし、俺がエンペラーゲームに参加したら、アイツらとの約束を守れなくなる。

 明日のご飯も、明後日のラーメンも。


 ゲームに参加する理由はあるのか?

 俺個人には無い。

 

 明日も、明後日にも、約束があるから。

 それに、


 「俺の叶えたい夢は……当たり障りのないものだしなぁ……」


 いや、それでもだ。


 夜龍のメンツは小学生の頃にシューティングゲームで出会ったメンツだ。

 思い入れは強い。


 そして、参加していると言われていた"ふれぐらんす"……

 そいつは、中森心香。

 俺の腐れ縁の野郎だ。


 エンペラーゲームに入って、その攻略を助けに行くには十分すぎる。


 「だけど……」


 家の前に立つ。


 呼吸が少し重くなる。

 もし、エンペラーゲームで死んだら、俺は、なんとも思えないだろう。

 この家に産まれなかったらな。


 この家に産まれたせいで、お母さんを、お父さんを、妹を……3人を置いて死ぬことがとても辛い。

 3人を悲しませたくない、心配させたくない。


 辛い、苦しい……

 いやだ。離れたくない……


 そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえた。


 「だーれだ!」

 「うちのバカ妹」 

 「ぶっぶー、最高可愛い妹ちゃんでしたー」


 あぁ……行きたくねぇよ…


 妹に連れられて家に入った。


 家に入ると母さんがお昼ご飯を作っていた。


 「おかえりーご飯食べるでしょ?」

 「うん!!」


 妹がスクバを放り投げて洗面台に走っていった。

 

 「……あれ?勇気は食べないの?」

 「食べるよ」

 「じゃあ、手、洗っておいで」

 「うん」


 手を洗うために洗面台の方に向かうと嵐のように妹が横切っていった。

 「ごはーん!肉かな?」


 お母さんと妹の会話が聞き取れないけど聞こえてくる。


 「………覚悟、決めろ。」

 

 震える指先を押さえながら、洗面台の鏡に映った赤く血走った自分の目を見つめて言い聞かせる。


 そして、手を洗ってリビングに向かう。


 「はい、お昼ご飯」


 お母さんがご飯を配膳してくれていた。


 「ーーーーありがとう」

 「うん!」


 お母さんも椅子に座り、俺と妹がご飯を食べているのを見ながらスマホをいじり出した。

 どうやら先に食べてしまっていたらしい。


 「ねぇ勇気、今日の夕ご飯何が良い?」


 よく聞かれる質問だ。

 ご飯の作れない妹よりも俺に聞いてくる。

 

 「そうだなぁ……魚がいい。煮物か、焼きか……」

 「あ!じゃあ、冷凍庫にあったホッケの一夜干し焼こうか!」

 「うん。それが最高だ」

 「でも、お母さんこの後用事があるから、うーん、5時ぐらいに解凍しておいてくれる?」

 「いいよ」


 ああ、また、約束を……


 「……ねぇ勇気、どうしたの?顔色悪いよ?具合悪い?」


 お母さんが俺の顔を覗き込んで聞いてきた。


 「いや……なんでもない。」


 いや、ちょっと聞いてみるか


 「けど、聞いてみたいことがある」

 「なぁに?」

 「もし、友達が命の危険に晒されていて、俺が命を賭けて助けに行くのはアリ……かな?」


 「うーん、命を賭けちゃだめだからなぁ……

 絶対に友達も勇気も、死なないで、みんな笑顔で帰ってきてくれたらそれでいいんだよ。

 私が帰ってこられる家に居る。

 みんなが帰ってきて、疲れた顔でも、幸せな顔でも悲しそうな顔でも……そこに生きて帰ってきてくれたなら私は胸を撫で下ろす。その後にどうしたの?って聞きたい……


 何が言いたいのかって?

 生きて帰ってきてくれるならなんだってアリなんだよ」


 ああ、うちの母さんは……


 「うん、わかったよ」

 俺は食器を台所に持って行き、洗う。


 「じゃあ、俺、ちょっとだけゲームしてくるね。5時には終わるようにするから。

 

 絶対に……帰ってくるからね」


 お母さんも妹もきょとんとした顔を浮かべながらも笑った。

 「うん、ほっけ、お願いね?」

 「ゆーちゃん!ゲームで勝ってきてね!」


 「任せておけ」


 そう言って俺は、部屋に入り、VRヘッドギアを起動した。


 「……ふぅ…」


 息を整える。


 「行くぞ、闇神。

 俺がエンペラーゲームを終わらせてやる。」

 

 「エンペラーゲームを終わらせて……」

 脳裏に浮かぶ友達と家族の顔……


 「約束を履行する。」


 VRヘッドギアを装着し、眠りにつく。


 ーーー

 

 目を閉じたまま、知らない街に放り出された気分だ……


 「……っぐ…」


 けっこう強い日差しに驚きながら目をゆっくりと開くとそこは知らない街、西洋風の街が広がっていた。


 「……これが、リアルのゲーム。」


 一歩目を踏み出す。


 「じゃあ始めようか。」


 手首を鳴らして、息を整える。


 「絶対に、死なない、死なせない、生きて帰る。

 ノーデスで、このゲームを終わらせる。」

ご精読ありがとうございました。


この作品について、言い訳と説明を


言い訳 怪異譚が終わっていないのに何をやっているんですか?となるでしょう。私もそう思います。ただ、筆が乗ったので、三話まで出させてください。そしたら、一瞬、怪異譚に帰り、交互に投稿していきます。許してください( ; ; )


説明 このエンペラーゲームはVRやってたらデスゲーム始まった系とか、VRゲームしてたらそのゲームの世界に酷似した世界に転移した系ではなく、神がゲームに憧れて、そのシステムを踏襲した異世界に転移させる異世界転移系です。


 死と隣り合わせのゲームでサクラがどんなプレイをかますのか、見届けてください。

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