05 女子会IN異世界
「その、なんだかんだが気になるんですが」
「なりゆき?」
「えー、そんなのでいいんですか?」
「地元にいたときは、私は嫁の貰い手もない女だったし、嫁に来いっていうなら、それでもいいかなーって」
カラカラ楽しそうに笑ったあと、ふと表情をゆるめて成美を見る。
「あなたも、むずかしく考えなくていいと思うわ。私もさ、山の上の田舎者だから、下界の常識に疎いし、よく嫌みったらしく笑われたりするんだけど、そういうときはお義母さまがグサっとやってくれるのよ」
「グサ?」
「そう。グサっと。嫌いなひとは遠慮なくぶった切るの。地位は使ってなんぼよーって」
「た、たくましい」
モルヴァーリは王都に本店を構える商家の娘だったらしい。
聖堂を要する領主は、一年に一回は参内する必要があり、マーベルとモルヴァーリはそのときに出会った。容姿端麗のわりに見合った服を着ていなかったマーベルに憤り、私がプロデュースしたる、とばかりにあれこれアドバイス。
時は社交シーズン。
婚約者を求める貴族が蠢く王都で、マーベルは「冴えない僕がそれなりに声をかけられるほどになったのは、君のおかげだ、ありがとう」と言って、モルヴァーリに交際を申し込んだ。
昔の栄光虚しく、寂れたスラン聖堂を要するマーベルは、肩書きだけはたいしたものだが、実際にそこで暮らすのはちょっと無理案件の貴族男子。親御さんは娘を斡旋するけれど、娘のほうは「あんなとこで暮らせないわ」と拒否るため、縁談は不成立。連戦連敗、敗退記録更新中。
モルヴァーリはマーベルの実直さを気に入っており、社交シーズンの最中、毎日のように通ってきては口説いてくる相手にほだされてしまい、シーズンが終わるころには婚約が成立。そのまま一緒にスランへやって来たというのだから、たいした度胸である。
だが、なんとなくわかった。
デュランがああいう性格であるのは、血筋なのだとわかってしまった。
「デュランくんが貴女に決めたのなら、もう断るのは無理だと思うのよ。結婚しないならしないで、ずっと傍に居続けて、生涯独身を貫くんだろうし」
重い重い重い。
重い、想い、重い。
変な汗をかく成美に対し、サラーナは達観したようすだ。
「ここへ来るまででわかったと思うけど、母屋からは離れているし、お隣さん、ぐらいの感覚でいいと思うのよ」
「どんな家にするか、希望があれば言ってね。調度品の類は、私の実家を通して融通するから格安で購入できるわよー」
大商会に伝手があるモルヴァーリがホホホと笑う。さすが元社長令嬢、格がちがった。
サラーナは族長の娘だというし、日本の感覚でいえば、市長や議員の娘、みたいなものだろうか。
どちらにせよ、飲んだくれのパチンカスを親に持つ成美とは、生まれ育ちに隔たりがある。同じに考えてはならないと思う。
思う――のだが、彼女たちは豪快で強引だ。これがブルジョア思考というのだろうか。成美がデュランと結婚することは決定事項として話をしていて、ちょっと付いていけていない。
成美が混乱していることに気づいたのだろう。モルヴァーリが言った。
「なにが不安かしら?」
「なにが――、なにもかも、でしょうか」
引きこもって自堕落に過ごしていればいいよ。
そんな契約で聖女になった。
会社都合とはいえ、いきなり無職になって、転職なんてどうすればいいのか皆目見当もつかず。もともとなにか目的意識を持って仕事をしていたわけではなく、ただ内定が出たところに勤めていただけ。
我ながら主体性がなく、いざとなると、どうすればいいのかわからず、ふらふらするのだ。
相談とか頼りにするとか、そんな相手は成美にいなかった。
親族は軒並み頼りにならなかったし、なんだったら社会人になった成美に寄りかかってきた。
育ててやったんだから恩を返せと言われ、それが間違っていておかしい気がしつつ、だけど正解がわからない。助けはどこにもない。従っておけば楽チンで、成美はそうやって逃げて、逃げて。
そうして異世界に来た。
「あらあ、そんなの当たり前じゃないの。新生活に不安のないひとなんていないわよ。だからこそ気分をあげるために、好きなものを買って身につけたり部屋に飾ったりするんじゃない」
「そうよね。族長の娘なんてやってると、やっかみもあったりするわけ。あーんなちいさな集落で暮らしてて、生活水準に差なんてないのわかりきってるでしょうに。だからハッタリかますのよ。だからなに? って顔してればいいのよ」
「……平気なふりなら得意です」
「見込みあるわね。それができたら充分よ。あとはこうして、こういう場所で愚痴ればいいの」
「同じ家ではなく近くに住むのは、そういう理由よ」
「なるほど、女子会というやつですね」
「ジョシカイ? なにかしら、それ」
モルヴァーリが首を傾げるので、成美は説明する。世代を問わず女性が集まって喋ったり食べたりして、同じ空間を共有する会合が『女子会』である、と。
「気の合う仲間だけのお茶会というやつね」
「あら、いいじゃない。お茶会はどうしても貴族層の集まり、という印象が強いのだけれど、それなら平民だって実施できるわよね。さっそく実家に話を通してみるわ。聖女さまが発起人とわかれば、これはウケるわよ」
モルヴァーリの目が光る。
金になるものを見つけた商売人の目だ。
たぶん。知らんけど。
根掘り葉掘り確認され、気づけばとっくに陽は傾き。
遠慮がちにノックをして、オルターが様子伺いに来たころには、夕食の時間になっていた。
男性陣の愛は重くて直球だけど、女性陣もそれはそれでキャラが濃い。




