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四畳半聖女の楽しい引きこもり生活 ※たまに鎧騎士が訪問します  作者: 彩瀬あいり
後日談

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12/19

01 お散歩に行こう

後日談です。20,000字ぐらいになりました(本編と大差ない文字数の後日談とは)


【完了のご連絡】日本とスラン地区の異空間接続について


いつもお世話になっております。

異世界カンパニー システムサポートセンターです。


このたびはご申請ありがとうございました。

聖上成美様の居室とスラン聖堂の接続が完了いたしましたので、ご連絡いたします。

詳細は添付資料にてご確認ください。


なお初回外出時は稀に体調に影響をきたす可能性がございます。

聖獣を帯同いただくことで、歪みを緩和させることが可能です。

まだ聖獣を使役されていない場合は、手続きいただくことを推奨しております。

聖獣とのマッチングに関しましてもサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。


ご不明点ございましたら、お問い合わせください。


今後ともよろしくお願いいたします。



     ◇



 毎朝の神さまポイント確認の際、メールが届いていたので開いてみると、接続完了のお知らせだった。

 成美はカーテンを開ける。


「……おお」


 白いもやもやの謎空間が広がっていた窓の向こう側には、景色があった。

 といっても、成美がいつも見ていたアパートの塀と月極駐車場ではなく、樹木が並んでいる。木々の隙間から見えるのは青い空。


「空だ……」


 なんの変哲もない青い空。うっすらと浮かぶ白い雲。

 ただそれだけのものが、なんだかとても尊いものだと思えて、成美は胸が熱くなる。涙すら滲んできて驚いた。

 四畳半生活を続けてそろそろ半年。

 訪ねてきたデュランと一緒に過ごすことも増えていたので、外界と完全に遮断されていたわけではなかったけれど、それでも目に映る景色に変化がないことは、じつは精神的な負担があったらしいと自覚する。


 窓を開けようとして、メールの文面を思い出し、手を止める。

 初回は体調に影響があるかも、とかなんとか書いてあった。窓を開けてこちらの世界の空気に触れたとき、なんらかの問題が起こる可能性があるということ。

 たとえばここが宇宙船内部だと仮定して。目的の星に到着したからといって、すぐに外へ出られるわけではない。

 SF作品の受け売りでしかないけれど、専用の服を着て、別の部屋に入って気圧の調整をして、そうしてようやく第一歩を踏み出せる。準備が必要なはずだ。


 聖獣を伴えば緩和されるとあったので、銀太郎を連れていけばいい、ということだろう。

 ならばやることはひとつ。


 成美は犬用クッションで寝ている銀太郎に声をかける。


「銀太郎、お散歩行こ」



     ◇



 まずは腹ごしらえ。

 ツナマヨトーストとコーンスープ、ヨーグルトを食べたあと、成美はまず着替える。

 なにを着るべきか銀太郎に相談したところ、聖女用の装束があることを教えられた。決まりはないので自由な服装でいいが、スタンダードな衣装も用意されているらしい。

 既製服があるのならそれを着ておけば、聖女のイメージを逸脱することもないだろう。


 タブレットのほうで申請を出すと、届くまですこし時間がかかるということだったので朝ごはんを食べることにして。そうして届いた装束を広げてみる。

 見た目は、白いマキシ丈ワンピース。下はたっぷりと布を使ったドレープのおかげでスカートに見えるが、キュロットになっているのが地味に嬉しい仕様だ。しかし。


「なんかこれ、めっちゃ目立つよね。いかにも『聖女さまでございます』ってかんじ」

「それはそうだよー。聖女の装束だもん」

「もっと普通のやつないの? その辺歩いてても、こっちの世界に溶け込める普段着的なやつ」


 日本で着ていたジーンズと長袖シャツというわけにはいかないだろうことはわかるけれど、一般人がどんな服を着ているのかがわからない。なにしろ成美がいままで見てきたのは、白装束の神殿職員さんと、鎧騎士のデュランである。特殊すぎて参考にならない。


 押し入れに入れてある衣装ケースから、なにかないか引っ張り出す。

 ベージュのスカーチョと、うぐいす色のシャツ。頭髪を隠すためグレーのパーカーを羽織る。

 原色、柄物を避けた結果、全体的にぼんやりとした色合いになったけれど、それぐらいでちょうどいいだろう。たぶん。きっと。


 いつかに備えて通販で買っておいた小型犬用の首輪とリードを銀太郎に装着し、成美はサンダルを履いた。

 いざ、参る。


 ドアノブを握り、ゆっくりとまわして、ドアを押し開く。

 まず感じたのは、金木犀のような香りだ。風とも呼べない、ほんのわずかな空気の対流が、成美の頬をかすめる。


「――外だ」

「うん、お外だよー」


 足下で銀太郎がしっぽを振りながら答えた。

 目許がじんわりと熱くなって、鼻をずずっとすすり上げた。

 なんだか眩暈がして、その場にしゃがみ込む。

 白い砂利が敷かれていて、ところどころに土が見える。雑草がある。手を出して小石のひとつに指で触れると、冷たくつるりとした感触が伝わってきた。石だ。


 確かめるように何度か押していると、もふもふの毛が視界に入り込んで、成美の指をぺろりと舐める。


「どしたの成美ー、具合悪い? ぼく、おさんぽ行かなくてもいいよ?」

「具合が悪いわけ、じゃ、ない、と、思う。うん」

「うん?」

「たださー、なんか、感極まったっていうか、なんていうかさ」

「うん」


 不思議だ。もうこのまま閉じこもって、どこにも行かない生活でいいや。なんて、体だけではなく、心まで内側にこもっていたはずなのに。こうして『外』に出ると、自分は『生きている』のだと実感する。

 惰性で息をしているだけだったはずなのに、おかしなものだ。


「空気がおいしいねえ、銀太郎」

「そうなの?」

「うん、おいしいよ」


 成美がそう言うと、銀太郎は不思議そうに首を傾げ、ペロペロと舌を出して動かしはじめる。


「あじ、しないよー?」

「犬と人間の味覚はちがうからねー」

「そうなんだー。よくわかんないけど、成美がおいしかったら、よかったねー」


 パタパタとしっぽを振る銀太郎の頭を撫でると、成美は立ち上がる。


「よし、お散歩に行こう」

「うんー」


 成美は異世界へ、はじめの一歩を踏み出した。




1話のハイライトは、空気をペロペロして「あじしないよー」っていう犬です。

かわいい。

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