第14話 地域と身体
「おーい。そろそろ起きた方がいいんじゃないですかぁーー?」
その言葉を聞き取った瞬間、意識が急浮上した。
焦って上半身を起こし、周りを見渡す。
「ん?夜?」
目をパチパチさせながら頭を整理する。まだ日は明けてない。けれど、皆歩きまわっている。
「寝すぎじゃないですか?もう日が出ちゃいますよ?」
「いやいやいや。え?早すぎじゃないですか?相場は日が出てから起きるものでは?」
すると、手をポンと叩いて、何か解決した顔で訊いてきた。
「もしかして、ポラリスのときの時間感覚がここでも同じだと思ってたりします?」
「そりゃあ、まぁ…あの移動時間で時差ボケが起きるほど移動したとは考えれないし……」
「それですね。地域によって変わるんですよ。日の出の時間とか、1日の長さとか。ちゃんと日が出ている時間になるべく移動したいので、時々睡眠時間を短くしたり、長くできたりします。知っておいてください。」
「なるほど?ちなみに今回は短くなったんですか?」
「いえ、今回は長くなりましたよ。ポラリスの感覚で大体今は…日が昇って昼になるちょっと前ぐらいですね。」
「なるほど…確かに寝すぎたかも…」
「これから何回か地域が変わるのでそのつもりで。あと、出発まで時間があると思うので朝食を食べましょう。」
昨夜の焚き火跡に炭や灰が残っている。全体的に青みがかっていて、炭には繊維に緑の結晶が付いている。
また火を分けてもらって火を灯す。自分達のランタンの火は既に消えて使い物にならなかった。よく見るとランタンのフレームの中央に、蛇腹状の火袋があり、蛇腹を下げて煤を捨てている。
何をすれば良いか分からなかったので焚き火の近くで座っていると
「これが今日の朝食ですね〜」
とモネーレが葉に包まれたモノを持ってきた。中身はどうやらパンのようだ……パッサパサのカチカチそうな見た目の。しかも青黒い焦げ跡みたいなのが言葉にしづらい食欲低下を引き起こしている。ポラリスのパンはもっと自分が知っているパンと似ていたのだが…
「え、何か知ってるパンと違うんですけど。これも長距離移動用の?」
「確かそうだったはずです。えーっと、表面を強めに焼き焦がしてナンチャラカンチャラ──まぁ、ちゃんと美味しいですよコレ。」
手に持ってみると非常に硬く、それなりの重さがあることも分かる。嗅ぐと葉っぱ系のニオイがする。包まれていた葉のニオイだろう。
「で、コレを焼いて載せます。」
そこで出てきたのは、見たことのあるベーコンだった。ちゃんと緑である。焼き始めたタイミングでパンの外側も剥き始めた。どうやらパンの外側は食べないらしい。中身は淡いオレンジ色が広がっていた。
焼き上がった頃にあの水色の牛乳がコップに注がれた。緑のベーコンは初めて食べた後も食べていたが、牛乳は単体ではあまり飲まなかった。謎の違和感が飲む気持ちを阻害していた。
「そろそろですね。じゃ食べましょ!」
ベーコンを半分に切ったパンに載せて食べる。味は悪くはないが、何とも言えない質素な味である。
「朝食はいつもコレを?」
「まぁポラリスに寄ったときは大体この朝食ですね〜」
「あ、かなり現地調達なんですね?」
「そうです!色んな地域で買って、余った食べ物は次の移動にまわす。みたいな事をするので色んな地域の食べ物が混ざるんですよね〜」
短時間で食べ終わると焚き火を消し、荷物を客室に積み込む。モネーレは手慣れた手つきで荷物を全て積み、馬をとりに行った。
朝日が顔を出しはじめ、辺りが段々と明るくなってくる。客室の天井に腰かけ、日の出を眺める。青々しいやら何とも表現が難しい陽を放ちながら昇ってくる──
モネーレが戻って来てから少しして、どうやら集団が動き出したようだ。カタカタと歩く速度で動いている。そこから段々と速度を増していき、振動も激しくなっていく。と思ったらモネーレが客室に入ってきた。
「え~と、ちょっといいですか?」
「もちろん」と答えると、「説明が難しいんですけど…」と前置きして
「これからデカくなります」
「??どこがですか??」
「その〜体全体が」
「あ、なるほど」
「呑み込み早っ」
どうやらポラリス周辺地域は重力が強くなる、というのは適切ではないかもしれないが、全てが強く押さえつけられていて、非常に特殊な地域らしい。この小さめな体も異世界のトレードマークだと思っていたが、どうやらそうでは無いようだ。
「地域が変わるときは知らせますけど、なるべく中で立っておかないほうが良いですよ!頭ぶつけたり、倒れたりするので!」
そこから客室内を少し整理してモネーレはまた外に出た。緊張で、前に身体が縮んだときの事を思い出す。またあんな事になるのだろうか?
考えすぎないように窓から外を眺める。窓を開けるのには苦労したが、スムーズに開けるにはコツが必要なようだ。あまり変わらない植生や周りの馬車を眺めているとモネーレが入ってきた
「そろそろ変わりますよ!」
心の準備をして座って待っていると、その時は来た。身体が軽くなり、骨や筋肉がこの時を待っていたかのように伸び始める。痛みや熱も出ていない、全身が不思議な感じだ。そうしているうちに元の身体に戻り、服がピチピチになった。着ていた服の伸縮性が良く、そこまでキツイ感じはしない。
不思議な感覚が取れないので、話を訊こうとしてモネーレを見た……見てしまった。ピチピチでナイスバディのモネーレを。本人は何とも思って無いようだ。恐らく旅では気にする人はいなかったのだろう。焦って立ち上がってしまい、角に頭をぶつけた……
(はぁ~どうしよ。もうちょっと気にしてくれないかな~)
すぐに外を眺める事で意識を逸らし、事なきを得た




