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第13話 休息の時間

 「趣味は…紋様集めです。こんな感じの」


 手帳を手渡してくれた。年季は入っているけれど破れているところはなく、大切に扱われていることが分かる。様々な紋様が描かれていて、その周りに説明書きのような文字が書かれている。ハリル語ではなさそうだ。

 どうやら国や地域によって紋様が全く異なっていて、書いてある文字は分からないが地域が変わったのだろうことは分かる。よく見るとポラリスで見たことがある紋様も描かれていて面白い。そこにはハリル語で何か書いてあるが、断片的にしかわからず断念。


 「凄い詳細に描かれてますね!ちなみにこれは何語で書かれてるんです?見たところ地域によって言語を書き分けてるように思うんですけど…」


 「それは…その、言葉の勉強は苦手なので好きな物から覚えようと思って……あんまり上手く行ってないんですけどね…」


 「言葉の勉強?もしかしてここにある言語全部ですか?ど、どうしてそこまで?」


 その問いを投げかけると、不思議そうな顔でこちらを見てくる。


 「本当に聞いたことがないんですか?もしかして、私達が誰かなのかも分かってないんですか?」


 その問いにハッキリと頷く。また「本当に?」と訊かれたが、どの記憶を行き当たっても該当するものがない。この世界のモノは新鮮で、見聞きしたものは殆ど印象に残っているハズなのだが…


 「『アルケンポリア』って聞いたことないですか?本当に?その、私が言うのもおかしいですけど、…知らない人はいないぐらいの知名度はあると思ってました…」


 まさにトホホという表情だ。脳をフル回転させてアルケンポリアを検索するが、本当にない。


 「いや、あの、その…この前来たばかりなんですよね。この世界に。だからその、知らないことがいっぱいあってですね…」


 「──え?!──その話って本当だったんですね!なるほどなるほど、だからその年齢になっていても聞いたことがない訳です!」


 どこか自信を取り戻し、夜とは思えないほど指導熱心そうな目をしている。


 「では説明しましょう!アルケンポリアとは──」


 要約すると、飛行船を使った商業をしている移動国家らしい。各国を季節ごとに飛び回り、殆ど地上に降りることなく過ごしているのだそう。ただ交易をするときや地上に用事がある時はその時間を使って地上で一休みしたりするらしい。基本的に母船は降りず、子船を使って地面と行き来する。


 「──で、各国家と話すために言語を学んでいるという訳です!もれなく全員が!」


 「なるほど!……あれ?そういえば日本語ペラペラですよね?交易的にはハリル語の方さえ覚えておけば良いのに、どうしてごく一部の人しか使わないな言語を?」


 「なんだか……その、他の場所でも聞いたことがあるような言葉だったし……なんだか、その、重要な気がしたんですよね──」


 夜空を見上げながらポツポツと言葉を発している。まるで星に答えが書いてあるかのように。

 「そういえば」と前置きして、今朝不思議に思った疑問を訊いてみる。


 「……今日は突然あなた達が現れたように見えたんですけど、何があったんです?」


 突然魂が戻って来たかのように目線が下に戻ってきた。


 「──そーですよ!大変でしたよ!元々の移住を繰り上げただけではなく、用意が全然出来てないのに……偶然ポラリスの近くに居たら伝令の人が来て、恐る恐る向かったら死体の山が出来てるし、荷物も全然まとめられてなかったから夜に頑張って積まないといけなかったし。そうそう、「すぐにこの街から離れたほうが良いかもしれない。」って言われるから急ぎましたよ〜」


 「というか、商業の国家なのに引っ越しの手伝いもするんですね?」


 「まぁ多くの土地に行ってますしね。移動手段も各地で揃えてありますし、何より多くの人と繋がれる機会が多くなりますよね。確か偉い人との接点も引っ越し関係で作ったことがあるらしくて、そこから続けてるっていう話です。働いてる側としては大変なだけですけどね…」


 疲れ切って溶けたような表情で訴えている。どうやらブラックな労働環境のようだ。まぁ訪れた日の夜に明日出ることを告げられて、それを実現したという出来事を目の当たりにしたので、幾らか労働環境が伺えるが。

 食べ終わった皿は焚き火で燃やすのが慣例となり始めているようだ。理由を訊くと「汚くてまた使えないし、場所をとるから」だそうだ。だけど大量生産をする設備がこの世界にあるのだろうか?


 「──結局ポラリスって何があったんですか?」


 「ポラリスはほぼ全ての国のなかで、1番工業が進んでいた街でした。あれほど先進的な街は他には無いでしょうね〜。だからこそ狙われちゃったんでしょうけど。重要な設備が完全になくなってたし、多分もう更地になってるんじゃないですかね?勘ですけど、凄くしつこそうです。」


 今まで照らしてくれた火は皿を燃やしてから段々と弱まっている。どうやらあの皿の木には鎮火する作用があるらしい。


 「──そろそろ寝まひょうか」


 欠伸をしながら言ってきた。その欠伸がこちらにまで移って欠伸をした。

 小さくなった火をランタンか提灯のような道具に入れて照明にしたようだ。地面の火は土を被せて簡単に消して馬車の客室の中へと戻った。


 「寝る場所どうします?」


 客室の後ろには棺が3個。客室前方の出入り口に照明を掛けてひとまず一緒に考える。


 「そうだ。天井で寝ますか?」


 「なるほど?」


 「ちょっと確認してみましょ!」


 天井の上に登って備え付けの簡易的な寝具を置いてみる。スペース的にはいけないことはない感じはする。ただ


 「これ落ちたりしませんかね?」


 「……その時はしょうがないですよ。という訳でお先に〜」


 するりと布団の中へと入り込み、寝始めた。モネーレにならって布団に入る。寝心地は悪いし、寝返りをすこし間違えれば落下する恐怖はあれど、満天の星空がそれを打ち消す。

 なんだろうか?羽衣が舞っているように見えるとでも表せばいいのだろうか?分からない。だが、こんな夜空は見たことがない。ポラリスで見上げても見れなかった、同じ世界とは思えぬ夜空だ。

 気合いで瞼を閉じ、全身を脱力して眠りにつくのを待つのであった

 

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