男だとか女だとか
リリアンヌの能力は、ルイスの想像の遥か上をいっていた。遊びながら文字を教え、苦戦している子にもすぐに気が付き、手助けに行く。
理想的な教師であった。
(ほう。これは、評価を改めないとな。こんな身近に人材がいたとは……)
ルイスも剣術の時とは違い、きちんと教えながらも悪い笑みを浮かべる。
リリアンヌは能力を適切に評価されたことで時給がアップした。だが、これからのルイスの政策に巻き込まれていくことが決定した瞬間であった。
さて、ローゼンのところに行ったイザベルはというと──。
「手の振り上げが足りませんわよ!!」
「あら、切っ先が曲がっていますわ」
「重心をもっと下げてくださいまし」
などと、ご令嬢とは思えないほど的確な指導をしていた。文字を教えることよりも上手いくらいである。
「ねぇ、ベルは何で女の子なのに剣術ができるの?変だよねー」
「変だよねー」
この世界では剣術等の武術は男性が嗜むものとして認知されている。そのため、騎士になる女性は騎士の名門に生まれた子女を除く他、全てが男性なのだ。
剣術を希望した女の子はいない。当たり前のように男の子だけである。
だから、この子達の疑問は極一般的なものなのだ。けれど、イザベルは首を傾げて二人を見た。
「何も変じゃないわよ」
「「えー!!変だよー!!」
「剣術じゃなくても、自分を、大切な人を守る力はあるに越したことないわ」
イザベルは、記憶が戻る前から剣術と体術をかなり熱心に学んでいた。自身が習っていると知られれば、令嬢としての欠点になるにも関わらず。
ゆくゆくは、ルイスの一番傍にいられるようになる。そうなった時に、ルイスを守れるようにと。
その頃の気持ちを思い出して、イザベルは笑う。
(ただの性悪だけではなかった。守る力を本気で手にしようとしておった)
記憶が戻ってからは、剣術ではなく体術に重きをおいてきたが、剣を振るうことも必ず毎日行ってきた。
専用の手袋とメイド達の努力により、イザベルの手は美しく滑らかで、剣だこは一つもない。そのため、学園でも気が付かれることはなかった。一人を除いては。
「守る手段は多い方がいい。男だから、女だから、なんて関係ないわ。守りたいという気持ちは一緒なのだから」
何かを感じ取れたのだろう。子供達は顔を見合わせてニヒヒと笑う。
「一緒だってー」
「うん、一緒だね」
「「いっしょ!!いっしょ!!いっしょ!!」」
ピョコピョコ跳ねながら言い合った後、イザベルに二人は大きく頭を下げる。
「「変って言って、ごめんなさい」」
悪いと思ったら、すぐに謝る。当たり前どけれど、当たり前ではない。
素直にそれをできる子供達にイザベルは微笑んだ。




