容疑者イザベル
「キャッッ!!」
べしゃりとイザベルは前のめりに転んだ。
「いたたた……。カシュー、大丈夫?」
イザベルがカシューの方を見れば、見事にひっくり返っている。
「カシュー!!」
慌ててカシューにイザベルがかけよった時、孤児院の扉が開かれ、中から眉間にシワを寄せた少年が出てきた。
「何?暴力?僕は今、虐待現場の目撃者になったのだろうか。これは大変だ。すぐにエルリさんを呼ばないと。
エルリさん、大変です。美女が暴力をーーー!!」
嵐のように一瞬でいなくなった少年に気を取られたイザベルだったが、すぐにカシューに怪我がないかの確認を始める。
「頭はぶつけなかったかしら?痛いところは?」
イザベルの質問に、地面に転がったままカシューは首を振る。だが、その表情はどこか暗い。
「やっぱり痛いところがあるのではなくて?」
「ううん。大丈夫。ベル、ごめんね」
カシューは起き上がり、イザベルの汚れたワンピースを見た。
「シュー、洋服の汚れは洗えば落ちるわ」
(われは洗ったことがないが、ここでそこにふれるのは野暮じゃろう)
カシューはこくりと頷くと、気まずそうに何かを言おうとしだが、バタバタと数人の足音が聞こえてきたことで、それはイザベルへと伝わらない。
「こっちだ。早く!!」
「シュー、無事か!!」
「今、助けるからね。すぐにシューから離れなさい!!」
白髪のおじいさんは手に鍬を、小柄な女性はなんと包丁を持って、先程の少年に連れられて走ってくる。
(えっ?えぇっ!?なぜにこうなったのじゃー!?)
(ポールお兄ちゃんのバカ!!なんでこうなるの!?)
少年、ポールが虐待だと騒いでいたが、こんなことになるとは思いもしなかったイザベルとカシューは呆気に取られてしまう。
まさかのイザベル大ピンチである。
「早くその子から離れて!!」
女性の切羽つまったような声に、イザベルが弁明するよりも早く、カシューはイザベルへと抱きついた。
「「「シューーー!!」」」
悲鳴のような声が上がり、フロリア孤児院から何事かとどんどん人が集まってくる。
「シュー、離れなさい!!危険よ!!」
「そうだ。早くこっちに」
すっかり大事になってしまい、イザベルは目を白黒させた。
「私は怪しいものじゃありませんわ!!」
「そうだよ。ベルはシューが見つけたお姫様なんだからー!!」
一瞬の静寂の後、ざわりと集まっていた子供達が話し出す。
「確かに、見たこともないくらいキレイな人だわ」
「話し方もお姫様みたいだった」
「今まで来た貴族の女の人よりオーラがある感じするよな」
「あれだけ美人なら貴族の人も一目惚れするわよね」
「王子様だって好きになっちゃうよ」
「「「「「お姫様だ!!!」」」」」
一部の子供達がわらわらとイザベルに近付いていく。
「お姫様、どこから来たの?」
「どうやったら貴族の男性と知り合えるか一緒に考えましょう」
「お姫様のメイドさんやりたいな」
「俺は執事!!」
「じゃあ、お茶会ごっこしようよ!!」
「「「「「「賛成!!」」」」」」
カシューまで一緒になり、イザベルとのお茶会ごっこが今にも始まりそうだ。
「少し待ちなさい」
「そうよ。誰かも分からないでしょ。それに、勘違いしたお詫びが先よ」
鍬と包丁を構えていた手は下ろされ、申し訳なさそうにしゃがんだままのイザベルに小柄な女性の方をが手を伸ばした。
「私はエルリ、こっちはザボンよ。勘違いしてごめんなさい」
伸ばされた手を取り立ち上がったイザベルは、ゆるりと首を振る。
「ベルと申します。こちらこそ、勘違いをさせるようなことをして申しわーーー」
「お姫様、血が出てる!!」
頭を下げかけていたイザベルの声は集まっていた子供の声でかき消された。
そして、あれよあれよという間にイザベルはフロリア孤児院のなかで手当てをしてもらっている。
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