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フロリア孤児院



「さて。今日から3日間、イザベルにはあそこに見える孤児院で働いてもらう」


 イザベルが最初に来たのは、フロリア孤児院。ここは、元子爵令嬢のフロリア・ユユシクルが創設して2年経過したばかりだ。


「あそこに、私が社交界を追放した方がいらっしゃるのですわね」

「そうだ。ここで3日間、イザベルが逃げ出さずにやりきれれば会うとのことだ」

「分かりましたわ。私、頑張りますわ!!」


「ということで、ここから私達とイザベルは別行動になる。イザベルは手伝いとして紹介され、私は慰問(いもん)に来たことになる。

 毎日、少しずつは来るが長居(ながい)はできない」

「ルイス様はどうなさるのですか?」


 皆から視線を集めたルイスは、無言でダークブラウンのかつらを被った。そして、前髪で目元を隠す。



「これでユナイの護衛として着いていこうと思う」


 驚きの表情でイザベル、ユナイ、ミーアの3人から見られたルイスは苦笑をもらす。


流石(さすが)にイザベルの邪魔はしない。いつでも助けられるところにはいたいけどな。

 イザベル、頑張れ」


 そっとイザベルの頭に触れようとした手をユナイが掴み、自身の頭へと持っていく。


「私の頭でしたら、お好きなだけどうぞ」

「やめろ。気持ち悪い」


 腕をさすりながらユナイから離れるルイスを見ながら、イザベルは首を傾げる。


 (なんじゃ。このモヤっとした気持ちは。われは、まだ先程のことをルイス様に怒っておるのじゃろうか)


 余程、ルイスのセクハラが嫌だったのだろうとイザベルは結論付けた。



 もし、ここにリリアンヌがいれば「仮にも婚約者なんだから、それくらい許してあげれば?実際にやられてないし、愛されてると思うわよ。まぁ、逃げられなさそうなのは気の毒だけど……」などと少しはルイスのフォローをしてくれたかもしれない。


 だが、ここにはイザベルを異様に大好きな3人しかいない。つまり、ルイスの味方は誰一人としていないのだ。



「イザベル様、今のうちに参りましょう。ここに着替えやエプロンなど必要そうなものは入っていますのでお持ちください」

「分かったわ。ねぇ、ミーア。そんなに押さなくても自分で行けるわ」


 ユナイがルイスの足止めをしている間に、孤児院までの一本道を歩き始めるよう急かされたイザベルは、ユナイとミーア、そしてルイスへと視線を向ける。


「それでは、いってまいりますわ」


 足取り軽く歩き始めたイザベルの服装は簡素なワンピースにブーツといった町娘風だ。


「どう見たって歩き方がいいところのお嬢様ですね」

「フロリア婦人もそれを分かった上で言ってるのだろうから、問題ないさ」


「そもそも、イザベルからあふれ出る高貴なオーラを隠すこと自体(じたい)が無理だな」


 ルイスの言葉にユナイとミーアは頷いた。イザベルに関しては贔屓(ひいき)が過ぎる3人なのである。




 さて、フロリア孤児院に到着したイザベルはというと、扉の前で困り果てていた。


「呼び鈴がないわ……」


 今世では、貴族の家にはインターホンののようなものがある。前世の平安姫だった頃は、ほとんど屋敷から出たことがなく、出たとしても多くの従者が何でもやってれていた。

 一般的な家に訪れたことのないイザベルは、ドアノッカーの存在を知らない。だから、扉を勝手に開けていいものか……と頭を悩ませた。



「お姉ちゃん、何してるの?」

「このドアは勝手に開けてもいいものかしら……」

「ここに住んでないならダメだよ」

「そうよねぇ……」


 幼い声と会話をしていたイザベルは、声の方へと視線を向ければ、可愛い子が瞬きを繰り返した。


「お姉ちゃん、お姫様?」

「……いいえ。違うわ」

「そうなの?お姫様みたいにキレイだね!!シューは、こんなにキレイな人間、はじめて見た!!」


 手を大げさなほど動かしながら、驚きをシューと名乗る子は全身で表現する。そして、居心地の悪さを感じるほどキラキラした瞳でイザベルを見詰めた。


「お姫様がいるってことは、王子様もどっかにいるかも!!ねぇ、王子様を探しに行こう?」


 そう言いながら繋がれた手は小さいのにガサガサしていて、イザベルはその手にそっと視線を落とした後、シューと視線を合わせるためにしゃがんだ。



「私はベルって言うんだけど、ここへは3日間だけだけどお手伝いに来たの。マリーが休んでるでしょう?その代わりよ。

 だから、王子様を探しに行けるのはお手伝いが終わってからなの」


 目線を合わせて言えば、シューは頷いた。その様子に安堵(あんど)しつつ、イザベルは名前を聞く。


「カシューだよ。ここで暮らしてるんだ。昨日ね、5歳になったんだよ!!

 ねぇ、ベル!!一緒に遊んで!!」


 先程とは違い、ぐいぐいと遠慮なく引っ張られる。5歳といえど、本気で引っ張る子供の力は強い。


「カシュー!?ちょっと待って!!」


 イザベルが止めても引っ張り続けるカシュー。そして、イザベルはバランスを崩した。






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