オカメ一行と涙
一人で職員室へ向かいながら、リリアンヌは怒っていた。
(上履きだって無料じゃないんだからね。鞄を隠された時は探せたし、体操服を汚された時は洗えたから良かったけど、切り刻まれたら戻せないじゃない!!
教科書を破られた上に池に捨てられて再起不能になって買い直したのに。これじゃあ、いくらあっても足りないわよ!!
フォーカス家って貴族の割りに貧乏なんだからね!!壊す系は本当にやめて!!
あーぁ。夏休みにバイトするかな。って言うか、校則的にバイトOKだっけ?
まぁ、ダメなら殿下に何とかしてもらおう)
下を向きながらズンズン歩くリリアンヌの姿に反リリアンヌ派の令嬢達はクスクスと笑った。
そんな彼女等をリリアンヌはバカだなぁ……と横目に見る。
(わざわざ外靴を持ってきたから、ベルリンは下駄箱の中を見てる頃かな)
自身が何か行動するよりも、ルイスやイザベルに気付いてもらうことが何よりも反撃になることをリリアンヌは知っていた。
だから敢えて一人で職員室へ向かったのだ。
(私が何か言ったところで解決なんかしないもの。
大袈裟に騒いでも良かったけど、泣き寝入りをしたように見せかけた方が犯人を探しやすくなると思うのよね。
今までやられた分は慰謝料もつけてきっちり払ってもらわないとね)
「私に手を出したこと、後悔させてやるんだから」
ヒロインらしからぬ悪い顔をしたリリアンヌは、これがキミコイのイベントであるとは全く気が付いていないのであった。
その頃、イザベル達はというと、リリアンヌの予想通り下駄箱を開けていた。
勝手に人の下駄箱を開けてもいいのか、悩むイザベルのわきからローゼンが迷い無く開けたのだ。そして、中を見た面々は息をのんだ。
「酷いな」
ボロボロに切られた上履きを見て呟かれたローゼンの言葉にイザベルは弾かれたように走り出した。
イザベルが走り出せば、当然ルイスが追いかけ、
ルイスが走り出せば、護衛の役割のあるローゼンが追いかけ、
イザベル、ルイス、ローゼンの3人が走り出せば、いつも一緒にいるシュナイが追いかけ、
イザベル軍団が走り出せば、先に行かれまいと取り巻きーズが追いかけた。
オカメを先頭に走ってくるその姿に、他の生徒達は一様に恐怖して、皆が避けるものだから、まさにモーセの十戒のように道が開けていく。
バタバタと複数の足音と共に人垣が割れ、オカメ御一行が走ってくる姿にリリアンヌは怒っていたことも忘れ、大粒の涙を流した。
「リリー!!」
息を乱すこと無くイザベルはリリアンヌの元へとたどり着いた。
そして、下を向き、ぶるぶると震えるリリアンヌの背をイザベルは優しく撫でる。
「リリー、大丈夫?ううん、大丈夫なわけないわよね」
優しく労る声にリリアンヌは答えなければと思うものの、上手く声が出せない。
「ベ……ヒッ……ベル………ヒック…………、くっ苦し……」
「リリーっ、しっかりして!!」
呼吸が荒く、崩れ落ちるリリアンヌをすかさずローゼンが支えた。そして、リリアンヌの顔を覗き込むなり一言。
「笑いすぎでは?」
「えっ?」
「イザベル様、ご安心ください。フォーカス嬢は笑い過ぎて声も出せないだけです」
「えっ!?」
混乱するイザベルをよそに、ローゼンはリリアンヌを抱き上げた。世に言うお姫様抱っこな訳だが、今のリリアンヌにときめく余裕も慌てる余力もない。
「ゼン、どうした?」
「笑い過ぎて過呼吸を起こしたようなので、医務室に連れていきます。お側を離れることをお許しください」
ルイスが頷くのを確認し、ローゼンは歩き出す。
「ローゼン様、私も一緒に……」
「いえ、終業式に向かわれてください」
「ですが……」
「イザベル、ここはゼンに任せよう。ゼンが適任だ」
リリアンヌに息を吸うのではなく、吐くように声をかけているローゼンを見て、イザベルは小さく頷いた。
「ローゼン様、リリーをお願いしますわ」
深く頭を下げるイザベルにローゼンはしっかりと頷くと、医務室へと速足で向かっていった。
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