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空気の読めない男 メイス



 感動的な雰囲気を見ていたリリアンヌは下を向いて唇を噛み締めた。


 (何で、何で、何で!?何でこうなるのよ!!私が主役の、私のための世界でしょ?

 それなのに、何で私がこんな目に遭うわけっ!!

 これも全部イザベルのせいなんだから)


 本当は今すぐにでも口を開きたい。だが、流石(さすが)のリリアンヌも今の状況で軽々しく口を開けるほど馬鹿ではなかった。


 そう、リリアンヌ()馬鹿ではなかったのだ。



「シュナイが全ての罰を受けると言って、罰は無かったんだからオレ達も処罰はなしだよな?ってことは、今まで通りルイスの側近候補ってことだろ?

 まったく、冗談が過ぎる。驚かせないでくれよ」


 ホッとした表情でメイスはルイスへと話しかける。彼等は従兄弟であり、幼い頃から親しくしてきた。

 だから、自身を本当に側近候補から外そうとルイスがしているなんて信じたくなかった。


 たちの悪い冗談として、処理したメイスはルイスからの冷めた視線にすら気が付かない。


 

「なぁ、ルイス。オレずっと思ってたんだけど、その面の下って実はイザベルじゃないんじゃないか?

 イザベルならルイスが婚約した頃からよく顔を会わせてたが、性悪だっただろ。こんなに国を想ったり、真面目なことを言うはずがない。

 影武者ってことはないか?外してみた方がいいって」


 メイスの提案にイザベルは無理矢理取られないようにとオカメを押さえた。


「ほら。顔を守るって絶対に怪しいって」


 そう言いながらイザベルへとメイスが手を伸ばすと、ルイスとシュナイが守るようにイザベルの前へと立ちはだかり


「メイス、いけません!!」

「ダメだよぉ」


と、ヒューラックとカミンの制止の声が響く。


 そして、リリアンヌがメイスの腕にしがみついた。


 (シャクだけど、挽回のチャンスが来たってわけね。

 本当は顔をみんなの前で(さら)させたかったけど、今じゃない。万が一、本物のイザベルで無傷だった場合、開始直後のバッドエンドっていう最悪な展開じゃない)


「メイス、嫌がる女の子にそんなことしちゃダメだよ。イザベル様、嫌がってるじゃない」


 流石のメイスも自身の状況を理解したようだ。手を引っ込め、視線をさ迷わせた。


「冗談だよ、冗談。イザベル、悪かったな」


 その言葉にイザベルは何も返さなかった。そして、オカメはヒューラックとカミン、リリアンヌに向かって頭を下げた。


「庇ってくださって、ありがとうございました」


 今まで、ルイスにしか礼をしたことがないイザベルに頭を下げられたことで、ヒューラックとカミンは顔を見合わせた。


「イザベル嬢、どこか悪いのではありませんか?」

「そうだよ。ベルベルがオレらに礼を言うなんて、絶対に変だよぉ?」


 失礼な物言いにルイスの機嫌が急降下していくのを感じ、リリアンヌは慌てて口を開いた。


「そんなことないよ。だって、イザベル様は下級貴族の私にも謝ってくださったのよ。

 きっと、変わろうと努力されているんだわ。そうですよね?イザベル様」


 小首を傾げたイザベルからの返事がくる前に決して大きくはない冷たいルイスの声がリリアンヌの鼓膜を震わせた。



「変わっても変わらなくても、イザベルが言うことが絶対だ。お前らがイザベルをとやかく言うな。……死にたいのか?」




イザベル主義でイザベル以外はどうでもいい男、ルイス。

イザベル信者になったシュナイ。

頭の悪いメイス。


何だか、残念な人が増加中?

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