57話.二人の関係性
「ちょっとでいいからさ……ぎゅーってしていい?」
リズは恥ずかしそうにしながらも、
子供みたいに甘えてくる。
少し周りの目が気にはなったが、
ちょっとでも彼女が満たされるならと思い、
「あぁ」
俺はその要望に応える事にした。
ガバッと勢いよく抱き付いてくるリズ。
「…えへへ、カトーさんの匂い落ち着く」
完全に甘えん坊スキルがまたパワーアップしたみたいだ。
それに、匂いフェチのスキルもいつの間にか習得してたようだった。
そんなくだらない事を考えながら、
この時間を何とか堪える。
案の定周囲の奴等の視線が凄く、
正直めちゃくちゃ恥ずかしい。
「あのさ…ボクも一ついい?」
リズは俺に抱き付いたまま呟く。
「なんだ?」
「……前に、カトーさんも誰かとキスした事あるって言ってたけどさ」
「…………あぁ」
何かと思ったら、あの時の話題だった。
「……誰としたの?前に話してた付き合ってた人?」
「は?」
「……ねぇ、どうなの?」
胸元に顔をうずめていたリズが、
顔を上げて真下から俺の顔をまじまじと見つめてくる。
何でそんな事を詳しく話さないといけないんだ?とも思ったのが、
リズの表情や声が真剣だった為、
また、いじけられたら困ると思い、
ちゃんと答える事にした。
「あぁ、そうだよ。…それが、どうかしたのか?」
しかし、ちゃんと答えたものの、
「……………………」
リズからの返事は全くなかった。
「おい?」
軽くペシペシとリズの頭を叩く、
そこで、ようやくリズが口を開いた。
「まださ……その人の事好きなんでしょ?」
俺が?未だに元カノの事を引きずってるって?
「んな訳ねーだろ。つか、もう蟻よりもどうでもいい存在だよ」
「………………本当?」
俺の顔を下から見上げてくるリズは、
今の言葉が信じられないと言った様子だった。
「何でわざわざ、嘘を付かないといけねーんだよ」
今度は何なんだ?まさか、父子家庭の父親に彼女が出来たらやきもちを焼く的な子供の心境なのか?今のコイツの心境はそんな感じなのか?
「……じゃ、じゃあさ?」
少し恥ずかしそうにしながらも、
リズは次の質問をしてきた。
「……………その人とさ?……ボクの事、どっちが好き?」
「…………………………」
めっちゃストレートな奴じゃねーかよ。
リズは質問を投げ掛けたものの自分で言ってて恥ずかしくなったのだろう、
彼女の顔は見る見るうちに赤くなり、
それを隠すように再び俺の胸元に顔をうずめた。
「……………………」
「……………………」
いやいや、これ何て答えればいい奴なんだ?
普通に側から見たら恋人同士の会話じゃねーかよ。
あまりの気まずさに周囲を見渡すと、
先程のボケ老人の姿があった。
その爺さんと一瞬目が合うと、
爺さんは小声で『はよ、キスせい!!』と確かに言ったような気がした。
俺はそのまま爺さんに向かい口パクで『帰れ』とメッセージを送り、手で払い除けるように、帰れアピールをする。
中々返事を返さず、余所見していた俺の肩をリズがバシッと強めに叩いてくる。
早く返事しろって、事なんだろう。
未だに顔をうずめ隠しているリズを見つめ、
何て答えようか考える。
やはり、俺の思った通り父親を取られたくない子供心って奴なんだろう。
別れた元カノに嫉妬するとかちょっと行き過ぎてる気もするが、
裏を返せばそれだけ俺に執着してるって証拠にもなる。
コイツは親からの愛に飢えているんだろう。
まだまだ甘えたい時期に父親を亡くし、
その後にクロードという好きな人を見つけたが、
彼との関係性もうまくいかず、
最後は酷い扱いをされて、
求めても、尽くしても、報われない想いに心がボロボロになって、
きっとコイツには、
コイツが求めているような、
どんな時でもコイツを愛してくれる父親のような愛が本当に必要なのかも知れない。
俺は一度、軽く深呼吸をした後、
「元カノの、クソ女の事は蟻よりどうでもいいって言っただろ?」
なるべく優しい口調で、
彼女の頭を撫でながら答えた。
「お前の方が好きだし、大事だよ」




