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天戯さんは何処へ!?  作者: 雨時雨、時雨時。
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第13世界 B.ボクばっかり

第13世界 モンスターパニックの世界

9話ルートB ボクばっかり




ある日学校に怪物モンスターが襲撃しましたなんて、ラノベの世界だけでいい。

昨日まではこんなボクに優しくない世界なんて滅んでしまえばいいと本気で思っていたけど、実際に滅びゆく世界の住人にされたら堪ったもんじゃない。


ボク田中たなか吉彦よしひこは心底そう思う。



モンスターの跋扈する学校からやっとの思いで駅まで逃げてきたのに、今度は駅で怪物モンスターに襲われている。

きっとあいつのせいだ。

確か生徒会副会長の佐々木だったか?

あいつが駅が安全だなんて言って連れてくるからこうなるんだ、ちっとも安全じゃないじゃないか!


天井を突き破って侵入してきた虫の怪物モンスターは6匹。

その怪物たちから逃げるためボクは駅に直結している商業ビル内を走り回っていた。



僕と一緒に逃げていた人たちは足の遅いボクを見捨てて先に行ってしまい、ボクは今一人でいる。

今日は午後の体育やその後の怪物の襲撃から逃げ続けるために走りっぱなしで体力のないボクは汗だくで立ち止まる。



ゼェゼェと肩で息をして呼吸を整える。

後ろを確認するが怪物の姿はないようで、どうやらうまく撒けたみたいだ。

滝のように流れる汗を拭い、状況を判断しようと周囲を見渡す。


窓がないから外の様子はわからないけど、時刻は午後7時になろうとしている。

バスから見た町は大変なことになっていたけど不思議と駅や商業ビルの照明はついており、発電所や電線は無事なんだろうか?

それとも駅に非常用の発電機でもあるのか?

詳しくは知らないけど、とりあえず暗くて周囲が確認できない状況ではない。


ここは確か駅の南側に併設しているビルで服屋や雑貨屋のテナントが多い場所だった気がする。

ファッションやオシャレに興味がないボクはあまり来たことがない場所だ。


周囲に人の気配はないが他の奴らはどこに行ったんだ?



下手に動き回るのは得策じゃないと思うけど、だれか助けてくれる人を探さないと…

追ってきた怪物モンスターの事を考えると来た道を引き返す気にはなれない。


ボクは誰もいない通路を一人歩き始める。







それからしばらく歩いてみたけど、怪物モンスターはもちろん人にも遭わないままボクは今南ビルの5階に来ていた。


もしかして他の奴ら全員ボクを置いてどこかに避難したんじゃないだろうか?

そんな不安がよぎった。


学校でもそうだ、他の奴等はみんなボクを見下してバカにして除者にする。

ボクは悪いことなんかしていないのに、いつもそうだ。

ボクばっかりが悲惨な目に遭うんだ。



泣き言言っている場合じゃないぞ、吉彦。

そう自分に言い聞かせ、6階を目指す。



階段を上がり少し進むと人の声が聴こえた。

この声は男性だろう。

足早にボクは進み、声の聞こえたほうに向かう。

曲がり角を曲がるとそこには今まさに怪物モンスターに襲われている男が命乞いをしていた。



「や、やめて、た、たすけて、誰か助けでぁぁあっぁああああ」



ボクと同じ高校の学生だった。

顔に見覚えはないが制服が同じだ。

悲痛な断末魔を上げて男は無残にも怪物モンスターに身体を引き裂かれる。



怪物モンスターは男の死体にかぶり付きその血肉を喰らい始めた。



逃げなきゃ…

今ならヤツはまだこちらに気づいていない、今のうちに早く逃げなきゃ…



頭ではそうわかっているのに恐怖で体が動かない。

落ち着け落ち着け


ゆっくり、物音を立てないようにゆっくり後ずさる。


が、床に転がってあったモノに気づかずに蹴飛ばしてしまう。


チャリンチャリンと音を立てて転がったそれは店先の棚から落ちた何かのキャラクターのストラップだった。

付いてあった小さな鈴の音が響く。



怪物モンスターはこちらを向き、ボクを見据えると血で真っ赤に濡れたその顔を不気味に歪ませた。


次の獲物は……ボクだ!!



「うわぁぁあぁああああ!!!!!」



死にたくない死にたくない死にたくない…

狂ったように叫び反対方向へ駆けだす。



「嫌だ嫌だ!死にたくない!誰か!誰か助けて!!!!」



見てはいないが怪物モンスターがボクを追ってくるのがわかる。

来た道を引き返し、階段を駆け下りる。


怖くて後ろは振り返れない。

振り返ったらその瞬間にさっきの男のように真っ二つに切り裂かれそうでとてもじゃないが背後は確認できない。



がむしゃらに階段を駆け下りるけど、途中で足がもつれて階段を半分ぐらいの高さから転げ落ちた。

泣きたいほど痛いけど必死に立ち上がって店々の間を駆け抜ける。

今ボクが何階にいるのかもわからない。



頭の中は先ほどの男の最期の光景が繰り返されていた。

追いつかれたらボクもああなる。

死にたくない!!



怪物モンスターは5mほどの大きさで店先の商品をなぎ倒しながらボクを殺そうと追ってくる。

けど、店先の服が怪物モンスターの足に絡まりよろけてガラスのショウウィンドウに激突する。


その隙に角を曲がり、筆記体で書かれた読み方もわからない婦人服屋のカウンターの下に潜り込み、息を潜める。



怪物モンスターがこちらに近づいてくるのがわかる。

カツカツと床を鳴らし、周囲を探るようにこちらに近づいてくる。



恐怖に目眩がし、バクバクと心臓が激しく打ち付け、キーンと耳鳴りがする。




こっちに来ないでくれ!どっかに行け!

ボクじゃない他の、他の誰かを狙ってくれ!!

そういえば足を怪我した女子がいたはずだ、怪物から逃げる際にボクとは別の階段を下りて逃げて行ったけど、ボクもあの女子と一緒に逃げておけばよかった。

そうすれば足止めぐらいにはなっていたかもしれない。

いまさらそんなこと考えても仕方がないけど、少しでも他のことを考えないと恐怖で今にも泣き叫びそうだった。



ふと誰かの視線を感じ、顔を上げるとボクが隠れているカウンターの反対側に誰かがいた。



1人は男。

真っ赤に染められた赤髪が目に鮮やかな男子生徒、百瀬篤史。

もう1人は見るまでもないが、百瀬の彼女の西城彩菜だ。

百瀬の髪と同じ真っ赤な爪を口に当てて必死に息を殺している。

いままで散々僕をイジメてきた奴らだ。

どこかで死んでいてくれたらと願っていたけど、まだ生きていたみたいだ。



百瀬はボクを睨みつけ、顎で怪物モンスターがうろついている通路を指す。

出て行けという事だろう、もしくはあの怪物モンスターを引き付けろということかもしれない。



でもそんなこと出来やしない。

今出ていったら間違いなくあの怪物モンスターに見つかり、あの鎌でさっきの男みたいに一瞬で殺されるだろう。


ボクは首を振って目をつぶり、頭を抱えてうずくまる。

こうすると少しだけ恐怖心が薄らいだ気がした。



怪物の足音が少しずつこちらに近づいてくる。

やばいこのままじゃ見つかる。


ちらっと西城と百瀬の様子を伺う。

2人も怪物モンスターが近づいてきたのを感じ取ったようで、身を強張らせて抱き合っている。



……手を伸ばせば届く距離だ。



こいつらとここで死ぬなんてまっぴらごめんだ。

こいつらを突き飛してその間に逃げよう…


今まで散々ボクをイジメてきたんだ、その報いを受けさせてやる。




そっと手を伸ばす、まだこっちには気づかれていない。


突き飛ばす寸前、照明が一斉に消え、真っ暗になる。

突然のことに動きを止め、様子を伺う。



何も見えない。

まだ怪物モンスターは近くにいるのか?

どうすればいい!?



暗闇で身動き一つせず、じっと息を潜める。



すると遠くで何かの缶が転がるような甲高い音がした。


その音に反応し、近くまで来ていた怪物モンスターは音の方へ突進していく。



そのまま動かずに耳を澄ませると、怪物モンスターの足音も少しずつ小さくなり、やがて聞こえなくなる。



……行ったか?



音が聞こえなくなってしばらくしてもそのまま身をひそめたままでしばらく様子を伺っていた。



5分ほどだろうか。

周囲が少し明るくなったような気がした。

顔を上げると非常用のオレンジ色のライトが点灯していた。

ようたく顔を上げたボクが薄暗く周囲を照らす非常灯に照らされて見たものはものすごい速度で近づく百瀬の足だった。


顔を上げた瞬間百瀬がボクの顔面を蹴り上げた。

凄まじい激痛に一瞬意識が飛びそうになる。


鼻の奥が熱くなり、痛みで目が開かない。

生暖かいものが鼻から口を伝ってぽたぽたを流れ出るのがわかる。



「吉田てめぇ、なんのつもりだ?今何しようとしてやがった?」



涙目で見上げると百瀬がボクの襟首を掴み、ものすごい形相で睨みつける。

いつもなら大声に任せて喚き散らすんだが、まだ近くに怪物モンスターがいるかもしれないので、声の大きさは抑えられていたが、その声に含まれているのは明らかな殺気だった。


襟首を締め付けられ息ができなくなる。

ボクは必死に百瀬の手をつかんで外そうとするがびくともしない。


「お前さっき俺と彩菜のこと突き飛ばそうとしてたよな?おい?」


「ち、ちが、ボクはそんなこと…」


「嘘ついてんじゃねぇぞ?」


凄みのあるその声でボクは何も言えなくなる。

駄目だ、誤魔化せない。


「い、今はこんなことしてる場合じゃないだろ?あ、あの怪物モンスターが戻ってくるかもしれないし…」

「……。」


百瀬は答えないが、締め上げる襟首が緩くなった。


ふぅ、なんとかなったようだな。


そう安堵したのもつかの間、すぐに右頬に鋭い痛みが走った。

続いて左頬、左目、顎……


百瀬が何も言わずにボクを殴り続けた。

必死に頭を守ろうとするがお構いなしに百瀬は殴り続ける。


こ、殺される!!!

このままじゃ本当に殺されてしまう!!



「今ここで俺がてめぇを殺してやろうか!?あぁ!?」



そう怒鳴りつける。

痛みで目を開けることもできずにボクはひたすらに謝っていた。


「ず、ずみまぜん、ずみまえんでじだぁ、も、もうゆるじでぇ……」



「もういいよ篤史、こんなやつ放っておいて、アイツが戻ってくる前に早く逃げよ!」



西城に止められて、ようやく殴るのをやめた百瀬は肩で息をしながら立ち上がり、最後にボクの腹を思い切り蹴りつけると西城と怪物とは反対方向に立ち去って行った。



ボクも早く逃げなきゃ…


痛む体に鞭をうち、ふらつきながらも立ち上がる。

立ち上がった拍子に鼻からドバドバと血の塊がぼれ落ちた。


気づけば足元にはボクの血溜まりができていた。

殴られたときに頭も切っているらしい。


口の中にまで溜まっていた血反吐を吐き出すと白い塊が含まれていた。

下で歯をなぞると右上の奥歯が折れていた。




……どうしてボクばっかりこんな目に遭うんだ。

……どうしてボクがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。



蹴られた左わき腹がひどく痛む、折れているのかもしれない。

痛くて歩けない。



「……誰か助けて」



助けを求めるボクの声に答える人は誰もいない。



そうだ、生徒会長。

生徒会長は今までも何度かボクを助けてくれた。

生徒会長ならボクを助けてくれるかもしれない。



生徒会長は何処に行ったんだっけ?

確かあの偉そうなスーツの男と一緒にいたような。

そういえば駅の中心部に避難者が集まっているんだっけ?

そこに行けば、ボクを助けてくれるかもしれない。



痛むわき腹を抑えながら、必死に駅の中心部へと歩き始めた。




「殺してやる、あいつら次会ったら絶対に殺してやる。」




そんな独り言を繰り返し呟きながらながら、一人歩き続けた。







ご来訪ありがとうございます。


どーも皆様、雨時雨あめしぐれ時雨時しぐれどき。と申します。



今回は田中吉彦たなかよしひこ視点での物語でした。


……え?誰!?


と思った人も多いのではないでしょうか。

初登場は6話「骨と足と筋肉」で天戯さんが注目した4人の生徒の一人です。

実は9話ルートAで石田守が生徒をかき分けて異変の様子を確認した隣の太った男子生徒とは田中のことでした。

チビデブメガネの男子生徒で西城と百瀬によくからかわれており、友達も少なくクラスでも浮いた存在の生徒です。


今回はそんな田中吉彦について、もう一つ物語を紹介します。


これは人面カマキリが学校へ襲撃するその日のお話。


『0話ルートB ボクの願い』


ボクはついていない。

いつだってそうだ。


その日もボクにとってはいつもと変わらない最悪の一日だった。

朝からボクを見つけわざわざ駆け寄ってはバカにしてくるクラスメイト。

反論も反抗もできず、この体に染みついた愛想笑いでやり過ごす。

いつもの光景だ。


学校へ向かう足取りは重く、視線は足元へと落ちる。

2学年へと進級し、ひと月が経とうとしているが相変わらずクラスに馴染めず、友達すらいない。

教室では息を殺し、空気になりきる。


こんな世界いっそのこと滅んでしまえばいい。

ラノベのようにテロリストでもやってきて嫌いなアイツもアイツもアイツもアイツらも全員殺してくれないだろうか。


でも、こんな願いは叶わないんだろう。

今日も最悪の一日であることに変わりはないんだろう。



昼休み。

ボクはこの時間が嫌いだった。

なぜならあいつらがくるから。


午前の授業の終了のチャイムがなるとボクはそそくさとお弁当を持って教室を後にする。

誰にも見つからない場所に行こう。




「あれ、田中どこ行く気??」



教室を出ようとしたところいつものように最悪の奴に見つかる。

西城彩菜、ボクのクラスメイトでボクの天敵。

明るい茶髪は光の加減では金髪に見えるほどで、ウェーブがかった髪は派手なリボンでまとめ上げられている。

短いスカート、はだけた制服、匂いのきつい香水、少しは鼻にかかった声、そのすべてがボクをどん底へと貶める悪意。



「アタシ、イチゴミルクとチョココロネ、あと篤史の分もいつも通りね~」


西城はこちらを見ることもなく、妙に長い真っ赤な爪を弄りながらいつものように言う。

こいつはボクを奴隷のように扱う。

ボクが何言わなかったからだろう、西城は眉を顰め睨むと「おい、早くいけよ」と威圧的な声を出す。

情けないことにそれだけでボクの心臓は委縮し、バクバクと拍動を速める。


「わ、わかったよ、すぐに行ってくる。」


そのまま購買へと走った。





昼の後の午後の授業は体育だった。

ボクはどんくさく運動が苦手だ。


まだ肌寒い風が吹く中、ボクはグラウンドでサッカーをしていた。


「おい、田中、そっち行ったぞ!」


チームメイトが叫ぶ。

ボールをドリブルしながら敵チームが攻めてくる。

必死に走るボクを軽々と追い越し、ゴールを決める。


「チィ、使えねぇなー」

「あー、田中がいるからこっちチーム不利じゃねーか!!」


ボクを罵り、それをみんなが笑う。

大丈夫、いつも通り。



……大丈夫。



………………

この数十分後、学校に人面カマキリが襲撃を開始しました。

奇しくも、田中吉彦の願いは自分も巻き込むという最悪の形で叶ってしまうのです。




感想や評価を頂けると私が喜びます。

お暇な方はお一つどうぞ。


それでは次話でお会いいたしましょう。




雨時雨、時雨時。






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