第13世界 A.無茶する幼馴染とガキ大将の幼馴染
第13世界 モンスターパニックの世界
9話ルートA 無茶する幼馴染とガキ大将の幼馴染
駅へと逃れた俺たちは物騒な一団に取り囲まれ人間であることの証明をさせられていた。
血の色で人間か化け物かを判別するらしく、渡されたカッターナイフで指先を切り血を見せる。
早々に証明を終わらせた俺と一は生徒会長の手当てが済んでから一団を取り仕切っているスーツ姿の男性に声を掛ける。
「ちょっといいか?」
俺が声を掛けるとその男は振り向き、俺たちを見つめる。
その眼には先ほどまでの敵意はなくなっていた。
「君達は……先ほどは威圧的な対応をしてしまい申し訳なかったね。そちらのお嬢さんも手は大丈夫かい?」
豪快に手のひらを切り裂いた会長。
生徒会長の右手に巻かれている包帯は少し血が滲んで赤くなっている。
手当てを受けている際も一にお説教をされていた。
生徒会長とはあまり面識がないが、一が生徒会に所属していることもあり何度か話をしたことがある。
その時には堅苦しい口調と同様に完璧超人で近寄りがたい印象を持っていたが、どうやら少し抜けている所もあるらしい。
「問題はない、心配感謝するがそれよりも状況が確認したい。話を聞かせてもらってもいいか?」
「あぁ、そうだね、僕は野村です。」
そう言いスーツの懐からカードケースを取り出し、名刺を渡す。
サラリーマンの性なのか手慣れた所作で名刺を差し出す男性。
受け取った名刺には野村隆幸と書かれており、駅近くにある商社に勤める会社員のようだ。
「うむ、私は南高校生徒会長の双河鬼龍院 司だ。」
会長の苗字を聞いた途端、野村さんは目を見開く。
「あ、わ、双河鬼龍院家の娘さんかい!?」
日頃より大変お世話になっておりますと野村さんが深々頭を下げる。
名刺を見ると会社名の横にひし形の線を交差するように2本の線があり、龍がSの字で描かれている。
確か、双河鬼龍院家の紋章だったか?
野村さんの会社は双河鬼龍院グループの傘下らしい。
「ここまでくる最中、街の様子を見てきたがどこも酷い有様だった。そちらの生存者はどのどのくらいいるのだ?」
会長の質問に野村さんは少し考えた後
「正確には確認していませんが、200人くらいだと思われます、もっと少ないかもしれません。」
あ、野村さん敬語だ。
「200人ですか、随分と少ないですね。ほかの場所に避難している人もいるでしょうが……」
一は顎に指を当てて考える。
まるで推理小説の探偵のように顎に手を当てるこのポーズは考え事をするときの一の癖だ。
「野村さん、さっき言っていた人に成りすました怪物の事だが……」
言いかけて俺は咄嗟に後ろを振り向く。
どうやら様子がおかしい。
人間の証明は数名の生徒を残すだけだが、今まさに証明をしている女子生徒を取り囲むように一団が武器を構えていた。
ざわざわと生徒たちが騒ぎ出す。
「おい、どうしたんだ?」
生徒たちをかき分け前に出て隣の生徒に確認する。
隣の太った男子生徒は青白い顔をして震える指で取り囲まれた女子生徒を指さす。
「ち、血の色が……」
血の色?
…まさか!!
俺が確認するよりも早く状況は悲惨なものへと変わった。
女子生徒は片腕を瞬く間にカマキリのような異形の腕へを変化させ、取り囲む男性たちを切り裂いた。
「きゃあああああああああああ」
悲鳴が上がる。
一瞬の出来事であった。
いとも容易く人間を切り裂いたその怪物はあのカマキリの化け物たちと同じような不気味な白目のにやけ顔で後ろに並んでいた生徒に鎌をふりかざす。
「おい!!逃げろ!!!」
叫ぶがそれよりも早く振り下ろされた鎌によってその生徒も血をまき散らし崩れ落ちる。
武装した一団がすぐさま取り囲み鉄パイプやバッドで殴りかかるが怪物の一振りで胴体を切り裂かれ息絶える。
まずい!まずい!まずい!
本当に混じっていやがった!!
一瞬にして十数名の命を奪った人型の怪物は白い眼で次の獲物を定めたのか金切声を上げて飛び掛かる。
飛び掛かる先には城崎朱音、俺の幼馴染がいた。
「朱音ちゃん!!!」
一が叫ぶ。
くっそ、動け俺!ビビってる場合じゃねーぞ!!
あの時の二の前はごめんだ!!
「どぅるっらあぁぁあ!!」
気合で走り出した俺は滑り込みで朱音を抱き上げて怪物の鎌を回避する。
ギリギリだった。
あと少し、ほんの一瞬でも走り出すのが遅かったら間に合わなかった。
心臓がバクバクと激しく打ち付け、冷や汗が全身からあふれ出す。
朱音は何が起こったのかわかっていないのか俺の腕の中で呆然としている。
「ま、守くん!?」
「ふぅ~、どんくさいな朱音。」
朱音をお姫様抱っこしたまま怪物と睨みあう。
怪物に動きはない。
怪物を睨みつけたまま朱音を下ろし後ろに庇う。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
鼓膜が破れるんじゃないかというような声量で怪物が叫ぶ。
堪らず耳を塞ぐ。
音が空気を伝わり全身がびりびりと振動する。
…う、うるせぇ
威嚇のつもりかと思ったがどうやら違ったようだ。
叫び声に呼応するように天井が崩れ落ち上から6匹のカマキリの怪物が降ってくる。
おいおいおい、本当に勘弁してくれって…
周囲は既にパニックで生徒たちは叫び散り散りに逃げていく。
足元にあった金属バットを拾い構える。
これでどうにかなるとは思えないが、無いよりましだろう。
6匹のカマキリの怪物はそれぞれ散り散りに逃げていく生徒たちを別々に追い始める。
女子生徒の怪物に動きはまだないが、いつまでも睨みあっているわけにもいかない。
だが、目線を外した隙にあの鎌で切り裂かれそうで、身動きが取れない。
「朱音、走れそうか?」
「だ、大丈夫走れる!」
「よし、バッド投げるからその隙に右後ろの階段を上がって逃げるぞ。」
怪物は再び鎌を後ろに携え体勢を低く構え、片腕を地面につく。
こちらに突っ込んでくる気だろう。
やるなら今!
バッドを投げようと振りかぶった瞬間、横から突っ込んできた塊に怪物が吹き飛ばされる。
あの肉達磨、いや筋肉達磨は!!
「大丈夫かい?石田くんと城崎さん?」
「細川先生!?」
筋肉をこれでもかと膨らませてムキムキに変身した物理教師細川先生がタックルで怪物を吹き飛ばす。
「ほら、逃げるよ?」
白い歯を見せて笑いかける。
そうだ、見ている場合じゃない。
細川先生が作ってくれた絶好の隙だ!!
走り出そうとした刹那、目の前の細川先生が消えた。
「え?」
通路に並ぶショウウィンドウを突き破り、店の中へと吹き飛ばされる。
細川先生に吹き飛ばされた怪物は同様に細川先生を吹き飛ばした。
それも人間離れした怪物の力で……
「細川先生!!」
朱音が叫ぶが先生は答えない。
怪物は俺たちをにやけ顔で見つめ、再び突っ込む姿勢をとる。
こうなったら朱音だけでも逃がす!
バッドを構え迎えうつ体勢をとる。
こう見えても俺は小中と野球部だったんだ、練習が嫌いでサボってばっかいたから万年補欠だがな!
「うっしゃぁあ、こいおらぁぁぁぁぁ!場外まで吹き飛ばしてやるよ!!!」
一触即発の雰囲気の中、聞きなれた声が聞こえた。
この声の主は……
「こっちだよ!化け物!!」
……一!!
血に濡れた鉄パイプを壁に叩きつけ、ガンガンと鳴らしながら一が怪物を呼ぶ。
「僕が引き付けるから2人はそのうちに逃げて!!」
「待て、一!!」
怪物は一へと向きを変える。
狙いを変え、俺たちと反対方向へ走り出した一を追いかける。
相変わらず無茶ばっかりしやがる。
小さいときからそうだった。
その光景が小さい頃の光景と重なる。
小学4年生のとき近所の公園で下級生をいじめていた上級生に対し、俺たち3人は食って掛かった。
当然喧嘩になり、俺たちはその上級生たちを返り討ちにした。
怒った上級生は仲間を呼び、俺たち3人は逃げることにした。
公園の遊具に息を潜め上級生をやり過ごそうとしている際にも今のように一は「僕が引き付けるから」と一人飛び出していった。
その時からなんも変わっていない。
ひ弱で運動が苦手で、本の虫だったけど、人一倍責任感と正義感が強くて、自分の身を犠牲にしてでも他人を助けようとする。
直向きで真っ直ぐな性格のため、曲がったことが大嫌いなそんな俺の幼馴染だ。
「朱音、俺は一を追う。お前は…」
「私も行くよ」
お前はこのまま逃げろと言うより早く朱音はまくしたてる。
「いや、お前は逃げろ」
「いやだね、私も行くもん」
真剣な眼差しで俺を見つめる朱音。
「もうお荷物扱いはごめんだよ、私も一くんを助けたい」
そういって笑う彼女の顔は久しく見ていなかった昔のような雰囲気を纏っていた。
高校に入ってからは随分しおらしくなったと思っていたが、こいつも昔と変わっていないようだ。
昔はよく俺に突っかかって何かと張り合っていた。
俺と一はお転婆なこいつによく泣かされていたのを思い出す。
ちなみに先の小学4年の時の公園での喧嘩で一番上級生をボコしていたのは朱音だ。
飛び蹴り、回し蹴り、踵落とし、終いにはものの見事なジャーマンスープレックスを上級生のたっちゃん相手に決めていた。
あれにはさすがに俺と一もたっちゃんに同情した。
まさにガキ大将だったのだ。
「久々にそのガキ大将の顔見たな。」
「が、ガキ大将の顔って何よ!!」
朱音が顔を赤くして怒る。
「遅れんなよ?」
「ふん、女子陸上部舐めないでよね!!」
そう言い、俺たちは反対通路に駆けていった一を追いかけた。
ご来訪ありがとうございます。
どーも皆様、雨時雨、時雨時。と申します。
気が付くとブックマークが増えております。なんと6件です!!(R2.4.26現在)
ありがとうございます!!
天戯さんが眠りについたため、しばらくは別の登場人物の視点での物語が続きます。
今回はルートA 石田 守の視点での話でした。
今までの天戯さん視点では関わり合いが少なく、空気同然となっていた石田守と城崎朱音について少し判明しました。
今後の2人の活躍にも注目です。
人型カマキリと佐々木を追う石田と城崎、無事佐々木を助けることができるのでしょうか?
感想や評価を頂けると私が喜びます。
お暇な方はお一つどうぞ。
それでは次回ルートBでお会いいたしましょう。
雨時雨、時雨時。




