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天戯さんは何処へ!?  作者: 雨時雨、時雨時。
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第13世界 最悪のタイミング

第13世界 モンスターパニックの世界

8話 最悪のタイミング



目尻に涙を溜め、斬られた指先を咥える。

俺の指から流れ出た血の色は赤く人間であることが証明された。


人間であると証明された人は手当てしてやるとかなんとか言っていたのに、絆創膏をもらいに行くと


「え、いるの?その傷で?」

「…え、あの…」

「舐めときゃなおるよ、次の人~」


若干軽蔑を含んだ視線で見られた上に結局絆創膏も貰えなかった。

殺菌が入ったらどうするんだと俺は指を咥える。


俺の後ろに並んでいた姉妹も証明が済んだようで隅っこの段差に腰掛ける俺の隣に腰を下ろす。


「あの怪物をぶっ飛ばした奴とは思えないほど随分と情けないわね。」

「…うるせぇ、ほっとけ」


姉は挑発的な笑みを浮かべて俺の隣に腰かける。

妹の方はおろおろと周りを気にしながら、誰にも聞かれていないことを確認し、姉と挟むように俺の隣に座る。

妹、大丈夫だ。

姉も周囲に聴かれない声量で言っているし、もし聞かれそうだったら俺が先に口をふさいでいる。


そのまま3人で特に会話もなく、次々と人間であることを証明する生徒たちを呆然と見つめる。


あ、細川先生も通過してんのかよ。

俺といい細川先生といい、この証明ザルじゃねーか。

いや、細川先生が人じゃないかは知らんがな?



「……花子よ。」


隣の姉が小さく呟く。

なんの話か、少しだけ思考が停止する。

その沈黙の間に姉は話を続ける。


「山田花子、私の名前……さっきは教えられなかったから。」

「あ、わ、私は月子です!先ほどは助けていただきありがとうございました!」


名前か、確かにさっきは聞きそびれたな。

山田姉妹は姉が花子、妹が月子か。

勝気で少し生意気ともとれるような妹思いの姉と、内気で気弱だがいざとなると覚悟を決める姉思いの妹。


「たまたまその場に居合わせただけだよ、ここまで来られたのは佐々木君と高橋君のおかげだ。」


本来彼女たちを助けるのは佐々木君の役目だったのかもしれない。

俺は役割を交換して校内の生存者の探索を買って出たが、本当ならばあれは佐々木君がやっており、この姉妹と出会うのも佐々木君であったのだろう。

佐々木君にあの硬い個体が倒せたかはわからないが、どうにか撒いて逃げるくらいはできそうだ。

いや、もしかすると石田君の方かもしれない。

図書室に避難してきた生徒のほとんどが同じく体育館倉庫に避難していた生徒会長と石田君が先導して連れてきたと言っていた。

俺の探索経路と石田君一行の避難経路は違うようで偶然にも会わなかったが、もしかするとこの姉妹と居合わせて助けていたのは石田君かもしれない。

今となってはどちらかわからないが、感謝されるというのは悪い気分じゃないな。


「足の調子はどうだ?大丈夫そうか?」


姉…花子を見ている分には足を引きずったりしていないが、痛むのだろうか。

包帯をまかれた右足は少し腫れているようにも見えた。


「歩くだけなら大丈夫みたい、走ったりすればちょっと痛むけど。」

「そうか。」



捻挫程度のケガならば俺の魔力で治せるだろうか?

回復魔法はあまり得意じゃなかったし…

ま、でもさすがに捻挫くらいは治せるだろう。



「花子、少し動くなよ。」



そっと花子の足首に触れる。

触れた瞬間、苦痛に少しだけ花子は顔を歪ませる。

ちょっと痛む…か、まったく無茶をする。

患部は熱く、はっきりとわかるくらいに腫れている。

これじゃ歩くだけでも痛いはずなのに、こんな状況だから身体が痛みを誤魔化しているのか、妹を気遣って我慢しているのか。


患部を包むように魔力を流し込む。

炎症を抑え、痛んだ筋肉を治していく。

時間にしては1分くらいであろうか。

手を放すと足の腫れは完全に引いていた。


「え?あれ痛くなくなった!」


姉は立ち上がり足首を回したりして具合を確かめている。



「天戯、あんたこんなこともできるのって、天戯!?」

「天戯さん!?」


倒れかけた俺を月子が支えてくれる。

どうやら問題なく治せたようだ。

月子の肩を借りながら俺は座りなおす。

酷い貧血の症状のように目が回り、激しい頭痛がする。

内在魔力が極端に減少した時に起こる「魔力切れ」の症状だ。

原因は言わずもがな、不得手な回復魔法を発動したためだ。


これも異世界転移先での能力だ。

8回目の転移は集団転移で剣と魔法のいかにもなファンタジー世界へと転移させられた。

正確に言うと、どこかの世界の高校のクラスの生徒に転移させられた俺はその数分後、異世界召喚によりそのクラスの生徒として異世界転移する。

つまり転移先で転移させられたわけだ。

うん、ややこしい。


召喚された世界で生徒たちが次々能力に覚醒していく中、俺の能力は平凡なものであった。

特に俺は魔法適正が著しく低く、俺の内在魔力は魔法使いになれる人の最低量の魔力しか有していなかった。

主人公の魔力量の数百分の1ほどの魔力量だった。

これだけでも主人公がどれほどの化け物かわかるだろう。

そしていかに俺がしょっぼいかもわかるだろう。


だがその世界ではそれでも問題なかった。

魔法使いの内在魔力は魔法の発動の際に少し使うだけで、他の魔力は外在魔力といって大気や大地に宿る魔力を使って魔法を発動していたためだ。

しかし、この世界のように外在魔力が少ない世界では内在魔力だけで魔法を発現しなければいけない。

当然雀の涙ほどしか魔力を持ち合わせていない俺はすぐに魔力切れを起こし、発動できる魔法も威力、規模、効果、すべてにおいて制限される。

今の俺には捻挫を治すだけで、精一杯だ。

不得手な回復魔法は効率化ができていないため、消費する魔力量も大きい。

言い訳じゃないが得意な魔法だともう少しすごいことができるぞ?


くそ、8番目の世界の主人公は数十万の瀕死の兵士を即座に完全回復させていたというのに…捻挫を治しただけで魔力切れってショボすぎて泣ける。



「天戯さん、大丈夫ですか?」

「天戯、大丈夫?」



めまいで視点ははっきりしないが2人が心配しているのはわかる。

幸い、俺は内在魔力量が少ないため、魔力切れを起こしても少し休むと大体は回復する。


「ちょっと目眩がしただけ、大丈夫だ。」


大きく深く呼吸をして、体を落ち着かせる。

しばらく休めば回復するはずだ。



「水、貰ってきますか?」

「横になった方がよくない?」



両隣で心配をしてくれる2人、その向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。



おいおい、勘弁してくれ、こんな状況で今度はなんだ?



目眩で酷く揺れる視界を無理矢理合わせて悲鳴の先を確認する。

そこには左手から緑色の血液を流しながら不気味に笑う女子生徒が立っていた。

右手は巨大な亜鋏状の鎌に変形しており、そのひと振りで周囲の数名の身体が引き裂かれた。

血飛沫を浴びながらその女子生徒は耳障りな金切声で嗤う。




「う、うわああああぁぁああ」


生徒たちは逃げるように駅構内の奥へと走り出す。


「だめだ、そっちには避難者がいる!!」

「皆、落ち着くんだ!」


スーツの男や生徒会長が叫ぶが人々の叫び声にかき消されてしまう。


武装した男たちが人型カマキリを取り囲み、殴りかかるが鎌で防がれ、次の瞬間には肉片へと化す。

血肉をまき散らしながら崩れ落ちた遺体の先で、人型カマキリは次の標的を見つけたのか鎌を振り上げ飛び掛かる。


飛び込んだ先の人物、あれは……



「朱音ちゃん!!!!!」



佐々木君が叫ぶ。

城崎さん目掛けて一直線に飛び掛かる人型カマキリ。

佐々木君も走り出すが間に合う距離ではない。

俺も結晶を生成しようとするが頭痛が邪魔して形成がうまくいかない。

下手に生成すると周辺の人間も巻き添えになりかねない。


くそ、回復魔法を発動したのは安直だったか。

魔力切れを起こすことはわかっていたことだし、せめて未来視で確認してからにすべきだった。



……間に合わないっ!



人型カマキリの鎌が城崎さんを捕える刹那、石田君が身体を滑り込ませ、城崎さんを抱えて避ける。

間一髪で間に合ったようだ。


まったく、流石ヒロイン、ひやひやさせる。



城崎さんをお姫様抱っこで抱える石田君は人型カマキリと睨みあう。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


耳を覆いたくなるほどの凄まじい声量で人型カマキリが叫ぶ。

その声に空気が振動し、びりびりと肌に響く。


その声に呼応するように天井が崩れ、6匹の人面カマキリが現れた。




おいおいおい、本当に勘弁してくれ




未だ目眩でふらつく俺を左右で山田姉妹が支えてくれる。


「天戯さん、逃げましょう!」

「天戯、歩ける?」



いくら2人掛かりとはいえ、女性が男性を抱えて移動するのは難しいだろう。

足に力が入らない俺は2人もろともその場に倒れこんでしまう。



「俺は大丈夫だ、先に2人で逃げろ。」

「天戯、あんたそんな状態で大丈夫なわけないでしょ!?」



まずいな、このままじゃ3人とも逃げ遅れる。

今の俺にこの2人を守りながら戦うだけの余裕はないぞ。

というか戦う余裕すらない。



「おい、どうした?大丈夫か?」



いかにして2人を先に行かせるかを考えていると後ろから声を掛けられる。

その声の主は俺を抱え上げると背中に背負い走り出す。



目にも鮮やかに染められた金髪を揺らし階段を駆け下りるその人物。



「……高橋君。」


高橋君の背中に背負われ、俺たち4人は駅の地下へと潜る。



「おう、天戯大丈夫か?」

「……俺すぐ酔うからなるべく揺らさないように運んでくれ」

「おま、この状況で余裕だな!?降ろすぞ?」



病人に対して随分な対応だ、ちょっとしたお茶目なのに!?

相変わらず手を出すとすぐに噛みつかれてしまう。

だがまぁ、助かった。

ここはひとつ素直に褒めよう。



「よくやった、褒めてつかわす!」

「てめぇ、天戯お前、随分偉そうだなおい!?」


こめかみに血管を浮き出させながらも律義に俺を運んでくれる高橋君。



「……それじゃ、ちょっとの間頼むな?」

「おう」



そう言い残し俺は瞼を閉じ、意識を深く沈めた。


ご来訪ありがとうございます。



どーも、皆様、雨時雨あめしぐれ時雨時しぐれどき。と申します。


嬉しいことにブックマークが4件に増えました!!(R2年4月19日現在)

それに感想も頂きまして、大変ありがたいことです。

これからもあっと驚くような面白い話を書いていきたいですね。


今回は頂いた質問に答えていこうと思います。

Q.天戯さんに対する周囲の認識はどうなっているのですか、転移前の記憶はあるのですか?

A.ちゃんと読んでくださっている!!!そして質問ありがとうございます!!!

天戯さんへの周囲の認識ですが、天戯さんは全く認識しておりませんが、周囲の人間は天戯さんを知っています。

これは転移先の世界の状況によっても違うようです。

今回のように高校の生徒として転移した場合は、その場所に存在しているのが不自然ではないように周囲の学生や教師は天戯さんの存在を記憶しています。

しかし、この記憶は天戯さんが転移してきて初めて誕生する記憶で、世界3秒前仮説のようにその世界の住人の記憶に天戯さんが昨日までもいたという記憶が発生します。

そのため机や椅子も用意され、名前も認知されています。

一方、2回目の転移先のように身柄も立場も全くの不明の状態で転移させられることもあります。

その世界でどのような存在として転移させられたかによって周囲の認識は違うようです。


また、転移先の世界での家族や親族についても世界によってまちまちです。

まったく知らない家族がいたり、天涯孤独の孤児であったり、出生不明の存在であったりと様々です。

さて今回の世界ではどうなのでしょうか?



感想や評価を頂けると私が喜びます。

お暇な方はお一つどうぞ。



それでは次回もよろしくお願い致します。





雨時雨あめしぐれ時雨時しぐれどき


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