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アダムとイブのその先に  作者: まある
9/20

9.不良品

「てめぇは死にてぇのかっ!!」


「ち、ちがうんだ!!」


その日、炎天(えんてん)の訓練場に劉牙(りゅうが)の怒号と、幸太郎の悲痛な叫びが響いた。


(何でこんな事に……)


目の前に、いつも以上に不機嫌の劉牙がいる。幸太郎は、泣きたい気持ちでいっぱいだった。


何故こうなったかは、事は三日前に戻る。


初期指導が終わり、それぞれに所属する班が割り当てられた。幸太郎は温谷(ぬくたに)の班だった。しかし、不運な事に、劉牙と同じだった。


(あ、やばい。死ぬ)


名前を呼ばれた辺りから、劉牙に睨まれ、幸太郎は小さく縮こまっていた。


「ははは!君達と一緒か!よろしくな!!」


不穏な空気の中、炎天だけが元気だった。


それから、炎天の監視の元、ハードな稽古(けいこ)が始まり、二日経った。


劉牙はコツを掴み、黙々と腕を上げていた。対して幸太郎は、全く上達しなかった。


「全然上手くならないな!」


炎天は、土を(えぐ)る程の威力で素振りをしつつ、上達具合を見た上でコメントした。


「そんな難しいことじゃねぇだろ」


「いや、そうだけど……!」


劉牙は最初こそ馬鹿にしていたが、いつしか呆れに変わっていた。


「うむ。ならば君が教えてあげるといい」


「あ?そんなめんどくせー事、したくねぇよ」


「教えられてこそ、一人前と言うのだ」


劉牙は炎天の言葉に反応し、舌打ちした。それは、炎天に承諾の意思と見られた。


劉牙の指導の元、少しはマシになったが、コツは掴めずにいた。


遠く離れた缶に、弾丸を当てるだけだが、反動で腕が左右に揺れた。劉牙は、幾度と制御の仕方を教えたが、上手くできないままだった。


そして冒頭に戻る。


何度目かの弾丸は木に当たり、幸太郎の方に跳ね返って来た。


咄嗟(とっさ)の判断が出来ず、フリーズする幸太郎を、劉牙が腕を引っ張り倒れさせ、事なきを得た。


「あ、ありがとう」


「……もしかして」


微かに口を動かした後、劉牙は砂を払い、幸太郎の銃を拾い、そのまま三発撃った。


弾丸は全て外れ、(かす)る事すらしなかった。


(は?当たらない……?)


「む!それは不良品だな」


いつの間にか素振りから、スクワットになった炎天はそう言った。


「試しにこっちの銃で撃ってみろ」


劉牙は自分の銃を差し出した。しかし、劉牙が選んだ武器は銃ではなく、横幅の広い大剣だった。


「……どうして銃を」


「どうでも良いから早くやれ」


幸太郎が質問する前に、劉牙は遮った。


言われた通りに撃つと、三発全て当たった。


「あ……当たった!」


幸太郎は目の前の光景に息を呑んだ。


「今すぐ取り替えだな」


「私の方から言っておく!これはすまん事をしたな」


炎天は、劉牙が持っていた不良品の銃を取り上げた。


「だけど直してる間は、どうすれば……」


困惑した幸太郎に、劉牙は自分の銃を指差した。


「それでも使ってろ。別にてめぇが使っても困らねぇよ。」


「それは名案だな!」


劉牙の案に炎天は乗った。しかし、幸太郎だけ落ち着かないままだった。


(これ、相当大事な物じゃあないのかな?)


劉牙の銃は、腰のポシェットに常に入っていた。それを離す時は少なく、寝る時も厳重に保管していた。


その事を幸太郎は思い出し、急に銃が重く感じた。


「あ?不満でもあんのか?」


幸太郎は黙考していたためか、劉牙を見詰めていた。


「あ、いや……これ、大事な物なんじゃ……」


「そんな大層な(もん)じゃねぇよ」


そのまま振り返ることなく、どこかへ消えていった。


「……」


その背中にかける言葉が見つからず、幸太郎はただ見送るしか出来なかった。

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