第8話
「ここが生徒会室だよ」
私はやっと生徒会室に到着した。生徒会室は3階奥の校舎にあった。つまり私が迷っていたのは教室棟の方で、生徒会室や職員室があるのが職員棟だそうだ。
どうりでどこにもないわけだ。
ちなみにこの情報はゲームから思い出したわけではなく、先程出会った生徒会の見た目チャラそうな人から学校案内のパンフレットを貰ったのだ。
パンフレットがあるのには驚いたが、有難く貰って読ませて貰った。歩きながら必死の強壮でパンフレットの地図を読んで私を彼は不思議そうな顔で見つめていたが私はもう無視を決め込むことにした。
生徒会室の中に入ると、中には3人の男性が待ち構えていた。まず一番目立ってて偉そうに奥の社長机に座っているこれまた美少年と、その横で厳しい睨みを効かせている美少年、そして我関せずと椅子に座って読書に勤しんでいる私の弟がいた。
弟のことは後で突っ込むことにするので今は何も反応しないことにする。
他2人と、さっき私を案内してくれたチャラ男さんは恐らく攻略対象だろう。名前がいまいち出てこないでいる。
私は周りをゆっくり見回した。
生徒会室の中はとても広くゆったりとしたモダンな雰囲気の場所だった。お金持ち学校なだけに豪華な作りをしている。前世に通ってた中学校はこの部屋の半分もなかった気がする。
そしてさっきから奥と後の3人の視線が私に集中していて、とても居心地が悪い。
「なにか御用ですか?」
取り敢えず生徒会長であろう奥に座っている人に向かって話しかけた。
この部屋の顔面偏差値が異常なレベルに達してるが、一番狂気レベルでキラキラしてるのが生徒会長だ。
純黒髪に碧眼の幼さの残る美少年だ。大人の女性が好きそうなカワイイ系男子にも見て取れる。だだ、にじみ出る腹黒さがあった。今だって、口は笑ってるのに目が怒ってる。
「雪織嬢、君は問題を起こすのが好きなのかい?」
「......はぁ?」
大変失礼に値する返答だが、唐突すぎてこれ以上ないくらい変な顔になっているだろう。
なんでここのイケメンはみんな話の序盤に意味のわからない事を言い出すんだ!と、内心私は突っ込みを入れた。
「どういうことでしょうか」
さっきのはぁ?を無かったことにしてTake2で聞き開始を行う。
「まだしらを切るのか」
今度は隣の真面目そうな眼鏡の人がこちらを軽蔑しきった目で見ていた。
生徒会長のドスいオーラで結構空気になりがちだったが、彼もそうとう顔がいいな。
こちらは純黒髪に黒目の眼鏡でいかにも真面目さが伝わってくる。高身長で、少年というよりは青年に近い。眼鏡の奥のつり目がいっそうつり上がって怖い顔になってる。実際怒ってるのだが。
「状況がまったく理解できないのですが。私はいったいなぜ呼ばれたのですか?」
「ここまで頭が回らないなんて、とぼけているのか?それとも単なる馬鹿か?」
メガネの人はため息をつきながらあきれた表情で言ってきた。
ひどい言われようである。
紫苑がいったいこの人に何をしたのかは知らないけど、ここまで言われるとさすがの私でも腹がたつ。
「すいませんね...馬鹿で」
「なんだって?」
「なんでもありません!」
つい発してしまった小言を運悪く聞かれてしまった。最近は予想外な展開が続いていて、心の声が外に漏れがちだから気をつけねばならない。
「お前は本当に自分がしでかしたことに自覚がないようだな。お前は、懲りずにまた女子生徒の靴を隠したそうじゃないか!」
「え?!」
「更には、会長に告白した女子生徒の鞄を川に投げ捨てたそうじゃないか。会長に婚約を破棄されてもまだ懲りないのか!」
「ええっ?!」
「なぜお前が驚く!」
すいません、まったく見覚えが無いからです。
私はあくまで、ゲーム上の紫苑の設定と行動を知っているだけで紫苑の記憶は持ってない。ましてやゲームの舞台は高校に上がってからだ。中学校時代の話なんてまったく知らない。
さらに言えば、紫苑が攻略対象から婚約破棄されるのは高校に上がってからだ。高校の舞台で主人公と一悶着あってやっと紫苑との婚約破棄を決意するのだ。
私の知らぬ間にゲームの設定から大幅にズレが生じているらしい。
確認しよう、私は何もやっていない。
「よって雪織嬢、お前は明日から2週間の自宅謹慎を言い渡す。それまでは自宅でゆっくり頭を冷やしながら受験勉強に勤しむことだ。」
「ちょっと!」
「雪織さん、大人しく帰った方がいいよ。
僕が校門まで案内するから。」
私が反抗の色を見せると、今まで私の横の壁に寄りかかっていたチャラ男さんがいきなり私の前まで来て、私をドアの方に向かせた。
どうやら帰らせたいらしい。
このまま言いたいことだけ言いたい放言われて、帰れだなんて理不尽極まりない。でも、今の話からするとこの問題は紫苑に非があるのだろう。私に紫苑のやったことを把握出来ない以上、今何を言っても言い訳にしかならないはず。黙って従うしかないのかもしれない。
「分かりました...送り迎えはいいです。一人で帰れますから。」
チャラ男さんは心底ホットしたような表情を見せたあと、すぐに私から離れていった。
「待ってください。姉さん」
私が生徒会室から出ようとドアに手をかけた瞬間、後ろから優希に呼び止められた。
「僕も姉さんと帰ります。迎えを呼んでいるので。会長、今日は僕も先に帰らせて貰いますね。」
「ああ、分かったよ。」
「ありがとうございます。では失礼します。」
優希は生徒会長にそう伝えると、私の腕を引いて生徒会室を出た。
「え、なんで...。」
「俺もちょうど帰りたいと思っただけ。それに、前みたいに勝手に帰って行方不明になっても困るからって母さんに言われてるから。」
学校を出ると校門前には朝乗ってきた黒いリムジンが止まっており、運転席に穂澄の姿が見えた。
「さっきはありがとね。」
車の中で、私は優希の方に向きながら感謝の言葉をいった。
「なにが?」
「......なんでもない。」
とぼけている彼に無駄な詮索は辞めた方がいいかなと、話はそこですぐに終わった。
しばらくずっと沈黙が続いた。まだまだ見慣れない自宅の長い長い塀が見え始めて、もう少しで着きそうだ。家の門を潜り、車がようやく止まると、早くこの空気から抜け出したいとばかりに車から即座に出ようとした。
「ねぇ」
今度は本当に聞こえるか聞こえないかの小さな声で優希は私に話しかけてきた。
「なに?」
「俺のピアノの練習に付き合ってくれない?」