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僕等が求めたモノ  作者: 那泉織
第6章ー覚悟すること
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⑥決意


「で、結局のところ聖司はボクらの味方してくれるの?」


 はっきりとした答えが欲しいのか紫希が訊く。聖司さんはそれに困ったような微笑みを返した。


「そうだね……。混血の天使の為に僕が出来ることはしたい、とは思ってる。──けど、反乱軍に力を貸すかどうかはもう少し考えさせて」

「何で?」

「あんた馬鹿なの? さっきそのひとは“ただ争いを起こしたいとは思わない”って言ったでしょ。あんたらかやろうとしてることは神に喧嘩売るって事なんだから下手すりゃ大きな戦いになるんだよ? そうなれば多くの犠牲者が出るかもしれない。……このひとはそれが嫌なんじゃないの?」

「あ……」


 疑問符を頭に浮かべる露華に白兎が呆れたように言う。露華はばつが悪そうに頬をかいた。聖司さんは白兎の言葉に苦笑しながら頷いた。


「混血の天使に対する差別を無くしたいとは思う。でも、だからと言って純血の天使をたくさん巻き込んで傷付けかねないやり方はちょっと、ね。僕にとって紫希は大切な幼馴染みで助けたい存在。同じように純血の天使の中にも大切なひと達はいる。どっちかの為に片方を傷付けたりとか、そういうのは出来ないよ」


 聖司さんの言葉に紫希の表情は曇った。


「そっか……」

「でも、紫希がどうするかは紫希次第だよ。紫希がやろうとしてること、貴方達がやろうとしてることに僕が口を出す権利は有りません。反対に僕は僕で自分のこれからを決めます」

「だが、お前は暫くオレらのところにいてもらうぞ?」

「構いませんよ。例え身動きを封じられようが頭の中で色々考えることは出来ますから」


 黒波さんに聖司さんは笑って答えた。聖司さんの態度には悲観的な様子は無く、むしろ何か悪戯を思い付いたかのようなそんな感じだ。


「……ねえ、取り敢えずもう話に区切りついたよね?」


 話がひとまず落ち着いたところで白兎が切り出した。その白兎の眉間には深い皺が寄っている。


「そろそろさ、今日の一番の目的に行きたいんだけど」

「一番の目的……?」

「……おい、こいつ、忘れているぞ」

「馬鹿……。六花さんのお墓参りだろ」

「……あ」

「この近くなんだよね? 俺達が一緒に行っても邪魔だろうし二人で行きなよ。ここで待ってるから」

「うん。ありがとう、雪吹」

「何かあったらすぐに呼んでね」

「行くよ。ついてきて」


 言われるまで気付かなかった露華にアストと雪吹の冷たい視線が突き刺さる。露華は気まずそうに顔を逸らし、雪吹はそんな露華に溜息を吐いて僕達を送り出す言葉を口にした。僕は素直にそれを受け取り、先に歩き出した白兎を追う。


 改めて周りの景色を見渡した。

 まだあれから一年と数ヶ月しか経っていない。ここは六花と共によく過ごした場所。──六花に出会って、恋をして、告白をして、幸せな時間を育み──彼女を失った場所。

 自然の豊かなその場所の奥。なだらかな丘の階段を上る。


「──着いたよ」


 白兎の声で足下に落としていた目線を上げた。

 上ってきた階段の反対側に位置するそこに一つだけ、小さなお墓がポツンとあった。

 白兎はお墓に歩いて行き、ずっと手にしていた白い花の花束をそっと置いた。そして腰を低くおろすと顔の前で手を合わせる。


「──姉さん。あんたの好きなひと、連れてきたよ」


 穏やかな声音で、白兎はここに眠る六花に告げた。僕は宙から取り出すように用意して家に置いてきた花束を瞬間移動で取り寄せて両手で抱えると、ゆっくりとお墓に向かった。


「何も持ってないと思ったら……」

「いつ、襲撃を受けるか分からないから……。せっかく用意したお花を散らせちゃったりしたら嫌だからね」


 僕は白兎の隣に立つと花束を備え、しゃがんで目を閉じ、手を合わせた。


(……六花)


 色んな思いがこみ上げてくる。

 それは彼女を守れずこの手で殺めてしまった悔しさだったり、彼女を失った悲しみだったり。

 本当はこんな風にお墓参りに来る資格なんて僕には無いんじゃないかとか、多くの命を奪った僕がこのまま生き続けてもいいのかとか。

 ────でも。


(僕は、今、目の前にあることからはもう、逃げない……!)


 閉じていた瞳を開けて、僕は立ち上がった。そして隣の白兎の方を向くと意を決して言葉を発した。


「……白兎。僕は今の神を審判する。その為の力を──“神殺しの魔法”を僕に渡して欲しい」


 白兎は無言で立つと僕へと身体を向けた。そして数秒くらい僕の顔をじっと見ると小さく頷いた。


「約束したからね。……僕の中にある力を十六夜癒既、あんたに返す」


 白兎は両手を自分の前に持ってきて目を閉じた。


「イニジェイナ・ノワラキトニ・アズィーナ・ヅモシヒニ・マガワ」


 凜とした声で呪文詠唱をした白兎の手に月色の光が集まる。僕はその光に右手を伸ばし、躊躇いなく触れた。──瞬間、白兎の掌に集まった光は触れた僕の指先から身体の中に流れ込んでいく。そして僕は膝をついた。

 感じるのは身を焦がすような熱さと、凍てつくような冷たさ。相反する熱の奔流は激しく体内を駆け巡る。目をつむり歯を食いしばってそれを耐える。


 感覚としては身体の中で小さな爆発が起こっているような、そんな感じ。痛みとか苦しみとかそういうものは無いけれども、何かが弾けて、壊れて、塞き止められて固まっていた力が融けて、身体全体に流れて、満ちる。

 蘇っていく昔の記憶。父さんから学んだ十六夜家に伝わる様々な歴史や役目、それに関わる多くの術の使い方。

 自分で意識していないのに僕の背中で翼が広がる感覚がした。真っ白い羽──その数は六枚。

 翼が広がったのと共に僕の体内を暴れ回っていた力の奔流は落ち着いていく。僕はゆっくりと目蓋を開けて立ち上がった。


「……大丈夫? 羽、六枚になってるし既望さんに封印されてたあんたの力は取り戻せたんだよね。記憶の方は?」

「大丈夫。……天界で消された記憶は前に紫希が思い出させてくれたから多分、失ってた記憶は全部取り戻せたと思う。例の力についてもちゃんと僕の中に有るのが感じられるし、使い方とかも頭の中に入ってる」

「そう……」


 珍しく僕を心配してくれている白兎を安心させようと笑って応えると、白兎は安堵の表情を浮かべた。そしてハッとしたような顔をして勢いよく首を左右に何度か振ると、いつものような不機嫌そうな表情をする。


「よ、良かったね。これで準備が一つは終わったわけだ?」

「うん。でも、これで最低限の準備が出来ただけで神と戦うにはもっと色々準備しないとね。その辺りは黒波さんとも話し合わないと」

「……あんたは神だけじゃなくて、また天使を殺すの?」


 落とされた白兎の質問に、僕は羽をしまいつつ苦笑を零した。


「……正直、分からない、かな」

「はっきりしないね」

「出来るならもう、罪の無いひと達を誰も殺めたくないよ。でも……僕らがこれからやろうとしていることは天界では絶対の存在である神に対する反逆行為。神の下に仕える天使達は僕らを反逆者として敵対してくる。……だから、どうしても必要があるなら立ちはだかるひと達を倒す覚悟はしてる」

「……そう」


 白兎は僕の答えに一度、目を伏せたかと思えばすぐに上げる。その瞳は揺れていた。


「……十六夜癒既。僕が“神になりたくない”って言えば、どうする?」


 その問い掛けに息を詰める。

 白兎は次の神になる資格を持つ者。露華や黒波さん達の反乱グループは次代の神の候補者である白兎を捜していた。……新しい神になって貰う為に。だけど。


「……白兎がどうしても嫌なら、神にならなくてもいいよ」

「でも、困るだろ?」

「困るかもしれないけど……僕は白兎に無理強いはさせたくないな。自分勝手で申し訳ないけど、白兎が神になるのがどうしても嫌で、もしもみんながそれでも白兎を神にするって言うなら僕は白兎をみんなから守る。……雪吹や露華より白兎の方が付き合いは長いしね」

「……本当に、自分勝手だね、あんた」


 白兎の不安げな表情が和らぐ。そして彼はゆっくり深呼吸をすると僕の目に視線を合わせた。


「……今までだったら“神になるのは全力でお断り”って思ってたけど……仕方ないからもう少しちゃんと考えるよ。うん、ちゃんと考える」

「……白兎」

「あんたのことは嫌いだし許せないことも沢山あるけど、姉さんの大切なひとだし、それなりに僕も認めてはいるから。あんたに関わることなら少しくらいは首を突っ込んでやってもいいよ。だから真剣に考えてあげる。……でも過度な期待はするなよ」


 白兎はそう言うと僕に背を向けた。そして来た道を戻り出す。

 僕はなんとも言えない白兎への心配を口に出来ないまま、後を追ってみんなが待つ場所に帰ることにしたのだった。



一応これで第6章は終了です。

次章は物語の都合上、今までより残酷描写が増えるかもしれないです。


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