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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第五話 プロローグ2「人ヲ殺ス死体 ― Murder of the Dead ―」
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3.事件


「あのな、昔、この辺りの村なんだが、墓場から死体が出て来て、自分を殺した人間に復讐をして回ったっていう伝説があるんだ。だから、気をつけろよ。死人が歩いてるかも知れないぞ」


 日は沈み、両脇には暗い林が広がっていた。空はまだほんのりと明るい。

 男の運転する黒のセダンは、コネティカット川沿いのハイウェイから、田舎道に入った所だった。車のラジオからは、マイケル・ジャクソンの「スリラー」が流れていた。


「ばかばかしい」


 助手席の早乙女さおとめ弥生やよいが、呆れた顔で「そういう話は、ガールフレンドとしなさい」と言うと、男は話を変えた。


「じゃあな、早乙女。自殺の方法で、何がベストか知ってるか」

「なによ?」


 彼女は窓の外の風景を見ていた。鬱蒼とした林が広がっている。昼間なら新緑が美しいだろうと思った。


「爆弾だ。俺には、首吊りをやるヤツの気が知れないな。あれはな、ちゃんとやらなきゃ駄目だ。上手くやらないと、糞尿をだらだらと垂れ流して、いつまでも苦しむ。もし助けられでもしたら、一生、後遺症に苦しむこともある。毒物も確実じゃない。硫化水素なんて最悪だ。家庭でも手軽に作れるが、即死するほど高濃度にするのは、実験室でもないかぎり無理な話だぜ。そんなんで自殺でもはかった日にゃ、目・鼻・呼吸器系が焼けただれて、死んだ方がましだっていう激痛に襲われる。そんでもって窒息するまで長時間苦しみ、皮膚は腐った緑色に変色し、全身から腐敗臭をまき散らす。結局、死ぬに死ねずに植物状態になるって訳だ。その点、爆弾なら、ボンッ! 一瞬にして終わる。確実だ。レンジでチンみたいだろ」


 彼女は外を見たまま言った。


「あんまりじゃない」

「あんまりだって? 何が」

「自殺した人に悪いって意味よ」

「何が悪い」


 彼は、彼女の言っている意味がよく分からないようだった。


「それに、一番いい方法が爆弾? 死んだあとグチャグチャだなんて、私は絶対にイヤ」


「おいおい、あのな、俺は自殺する方法について言ってるんだ。後片づけの話じゃない。いいか。爆発物に関しては、どこの大学だって学べない。MITだってそうだっただろ。主席卒業だか生命工学のドクターだか知らないが、俺は、お前に、いろいろ教えてやるように課長から頼まれてんだ。とにかく俺が言ったことは、全部おぼえとけ」


 早乙女は、ため息を飲み込み、「オーケー」と言った。




 車は住宅地に入り、パトカーや消防車がたむろする家の前に停まった。


 この辺りは、家の前に広い芝生の庭がある。野次馬が集まっていた。ふたりは、州警察や消防士の間をかきわけ、立入禁止のテープをくぐった。


 壊された玄関から家に入ると、焦げた臭いが立ち込めていたが、リビングもキッチンも綺麗なものだった。燃えたのは北西の一室と外壁や屋根、廊下や隣の部屋の一部だけだった。


 聞く所によると、爆発があったとき、偶然、消防車が近くにいたらしい。駆けつけた時には、北西の部屋の窓から激しい炎が上がっていた。鎮火後、火元と考えられる部屋で、男女が倒れているのが発見された。



挿絵(By みてみん)



 早乙女とフィリップスは、小さな部屋に入った。早乙女は黒く焼けただれた人を見て、ハンカチで口を押さえた。フィリップスは周りに指示を出しながら、爆発物の痕跡を写真に収めさせ、丁寧にサンプルを回収していった。


 女は、手足胴体を椅子にダクトテープで固定され、横に転んだ状態で死んでいた。彼女の顔は第二次爆傷と、その後の火災により、原形が分からなくなっていた。胸で何とか女だと判別できる。男の方は、椅子に座ったような姿勢で床に横になっていたが、彼の背後、少し離れた所に、椅子が倒れていた。


 壁面の棚にある、段ボール箱は焼けくずれ、中から、がらくたが溢れ落ちていた。どれも炭のように黒くなっている。また、変形してボロボロになったポリタンクがあり、その周りには、ガラス瓶の破片が散乱していた。


 床は荒いフローリングだったが、放水されたため、水浸しだった。燃えて黒くなった所と、まったく焦げていない箇所があった。


「早乙女、これを見てみろ」


 フィリップスは死んだ女の傍にしゃがんでいた。早乙女が彼の指し示すものを見ると、女の左手にアーミーナイフが握られていた。刃には焦げた血痕らしきものがある。彼はナイフによる損傷がないか、女と男の死体をじっくりと見たが、爆発と火災による損傷が激しい。


「こうボロボロだと、よく分からんな。たぶん、ここの住人夫婦だろうが」

「検視の結果待ちね」


 早乙女が死んだ男性を見ていると、床に光る、コンタクトレンズのように薄い物を見つけた。ガラスの破片かと思って顔を近づけると、それはみるみる融けて消えてしまった。他にもあるかと思って辺りを見たが、他にはなかった。


「フィリップス。氷が落ちてたわ」

「どこに。何もないじゃないか」


 彼は一瞬だけ確認したが、またすぐに煤のサンプル採集をする。


「たった今、融けてなくなったのよ」

「おいおい、まさか、火事の現場だぞ。見間違いだろ」


 彼がそう言うのも尤もだと思い、早乙女は他の部屋を検分することにした。


 リビングやキッチンは整理されてもいないが、特に荒らされた感じもない。リビングには鍵が落ちていたので確認すると、玄関の鍵だった。


 薄暗い地下室に下りると、そこには電動のこぎりや、大型冷蔵庫、洗濯機などが置かれていた。その一角に、金網で仕切られた武器庫があった。壁一面は有孔ボードになっており、拳銃やショットガン、ライフルなど、さまざまな銃火器が陳列されていた。また棚には、弾薬や手榴弾、火炎瓶などが並べられていた。





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