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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第三話 「鬼島の三密獄門」
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8.早乙女の推理

「沼袋さん」

 早乙女はワイングラスを置いた。


「お兄さんとお姉さんを殺したのは、あなたですね」


 葉三は慌てふためく。


「な、何を突然、あ、いや、早乙女さん、ひょっとして、冗談ですか?」


 彼女は真剣な顔つきで、「いいえ」と言った。


「だ、だって、私のわけありませんよ。ほら、兄たちが殺された時、私は、あの島にいなかったんですから。それとも、死亡した時刻が間違ってたんですか」


「いいえ、死亡推定時刻に誤りはありません」

「だったらなぜ」

「沼袋さん、あなたは、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンをご存じですね」


 葉三はぎくりと一瞬だけ固まった。


「知らない訳ありませんね。機械製作のお仕事をしてるのですから。様々な、からくりを連鎖させて、最終的に一つの作業をさせる機械で、映画では『モダン・タイムス』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『グーニーズ』、『ホーム・アローン』でも登場します。最近では、ピタゴラ装置という名前で、テレビでもやってます」


「そ、それが何です」

「あなたは、殺害現場にそれを作ったのではありませんか」


「冗談言わないでください、確かに倉庫の中には色んな資材がありましたが、そんな機械はなかったでしょう」


「いいえ、あなたは殺人マシーンを作りました」


「無理です、作れません。聞いたところによると、日本刀が部屋の中に残されていたんですよね。たとえ、どんな精巧なロボットを作ったとしても、刀で人間の首を切り落とすことなんて、出来るわけありませんよ。ましてや、ガラクタで組み立てたような機械でなんて……」


 早乙女は悲しい顔をした。


「そうですね。とても動き回る人の首を、一刀両断するなんて、機械には無理ですし、もし人間だったら剣の達人でしょう」


「動き回る?」

「ええ、どうかしましたか?」

「寝ていたんじゃなく?」


「ご存じありませんでしたか。お兄さんもお姉さんも起きていました。だから、あの部屋から脱出しようと必死に暴れたのです。刀や鉄パイプを使って、何度も何度も強化ガラスを割ろうとしたのです」


 葉三はそれを聞いて、顔色を変えた。


「三人に睡眠薬を飲ませたのは、あなたですね。血中薬物濃度や死亡推定時刻などから、だいたい何時ごろ服用させたかが推定できます。服用したのは、九日の夜から、十日の朝にかけて、つまり、その機会があったのは、あなたしかいません」


「ち、ちょっと、待ってください。兄たちが自分たちで飲んだかもしれないじゃないですか、どうして、私が飲ませたなどと」


「それでは沼袋さん、お聞きしますが、あなたは、なぜ、お兄さん方が殺害時に寝ていたと思われたのです」


「そ、それは……」


「寝ている間に、苦しまないように殺そうと思われたからじゃありませんか?」

「ち、違います! そんなこと思ってません!」


「あなたは、殺害現場に装置がなかった、と言いましたね。どうして現場の状況をご存じなんです? それは、あなたが、その現場にいたからです」

「違います! じゃあ、どうやって、刀で首を切ったと言うんです! 私には不可能です!」


「ええ、誰にとっても不可能なんです」


 早乙女が静かに言うと、葉三は「えっ?」と固まった。



「あの日本刀で首を落とす事は不可能なんです」


 葉三は不思議そうな顔つきで、早乙女を見る。


「あなたは、お兄さんと一緒に、兼子さんの話を聞き、あの刀、越前泰継の三ツ筒落ですが、さぞかし名刀であると思われたんじゃありませんか」


「たしか、人間の胴体を三つ重ねて両断できるんですよね」


「そう説明され、ちょうど良い、これを使おう、そう思われたでしょうが、でも違いました。あれは本物の打刀ではなく、よくできた模造刀でした。鋼ではなく、合金製です。もちろん登録証はありません。人を刺し殺すことなら、出来ない事はありませんが、首を切り落とすなんてことは、たとえ浅右衛門でも難しいでしょう」


 葉三は呆けた顔をする。


「殺害現場は壁も天井も床も、どこもかしこも血だらけでした。そりゃそうですよね。生きたまま首を切断すれば、頸動脈から血液が噴水のように飛び散るのですから。それも三人分です。しかしですね、ここでおかしな事があります。もし、その場に第三者がいたのなら、その人物でマスキングされて、血液の付着しない箇所があるはずなんです」


「三人いたのなら、その箇所が、次に殺された人の血で覆われたんじゃありませんか」


「ええ、もしそうだとしても、その部屋は密室でした。殺害した後、棚を動かしたり、扉を開けた形跡がまったくありません。犯人の足跡すらありません。あの部屋以外、廊下にもどこにも血痕がないのです。あの部屋には三人以外、誰もいなかった。誰かが、三人を殺害した後、その部屋を密室に細工したのではありません」


 早乙女は続けた。


「あなたの計画では、あの部屋は密室になる予定ではなかった、誰かが三人を刀で殺害し逃走した、そう見せかけようとしました。たまたま手に入れた日本刀を凶器に仕立て上げた、しかし、予定が狂ってしまった、三人が起きて、棚を倒してしまったからです。たぶんパイプなどを使って、工具を取り寄せようとしたんでしょう。それは、結局、出来ませんでしたが……。さて、三人は、窓を割ろうと、動く事が出来たのに、どうして、扉から逃げなかったんでしょう」





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