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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第三話 「鬼島の三密獄門」
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7.デート

「係長、デートに誘われてるみたいよ」


 金曜日の午後、天海が、猫屋敷に耳打ちした。


「マママ、マジすか! ちょちょちょ、いいい、いったい、誰すか!」


 猫屋敷を見て、天海は「動揺しすぎ」と笑った。


「ほら、あの社長さん。なんだか、事情聴取の時に、係長に一目惚れしたんじゃないかしら」


「そんなぁ」

「優しくて誠実そうだし、お金持ちだし……」


 捜査資料で人となりを知っているらしい。


「ででで、どうなんすか! するんすか! デート! するんすか!」


 猫屋敷は、天海の肩をはげしく揺する。


「さあ、どうかしら」


 猫屋敷は自分の頭をかかえる。その時、彼の携帯が鳴った。



「出たら?」


 ぐずぐずしていた猫屋敷を天海が促した。彼はしぶしぶ電話に出る。


「はい、なんすか」


「あ、あの、刑事さんですか、あの、兼子です、鬼島の……」

「ああ! たけるさんすか! どうしたんす!」


「じ、実は、その、怒らないで欲しいんですが……」

「怒るわけないっす! 何かあったんすか!」


「はい、その、俺、嘘ついてまして……」

「嘘すか?」


「はい、あの、事件のあった日、十一日、俺、し、死体を見たんです……」

「ええー!」


「お、怒らないですよね! 大丈夫ですよね!」 

「大丈夫っす! 問題ないっす!」


 そう言ったが、絶対、剣崎先輩なら激怒するだろうな、と思った。

 あ、だから、俺に電話したのか、と一人納得する。



 兼子健は、十一日、嵐のためにずっと家にいたが、午後三時ごろ、一時的に雨風が弱まったので、刀を返してもらおうと、再び沼袋の別荘を訪れた。


 明かりはついていたが、誰も出ない。

 ノブに手をかけると、玄関のドアは開く。


 声をかけても誰も出ないので、留守なら、お金を置いて、刀を持ち帰ろうと思った。

 しかし、どの部屋にも刀はない。一階の一部屋が、鍵が掛かっていないが、何かがつっかえて開かない。兼子は外から回って、中を覗いてみると、三人が首を切り落とされて死んでいるのを発見した。傍には、父の刀が転がっている。


 兼子は、自分が疑われる事を恐れた。家中の自分の指紋を拭き取り、玄関に置いてあった鍵で施錠し、鍵は海に投げ捨てると、急いで家に帰ったと言った。



「すいません、どうかしてたんです、俺、死体を見て、混乱して……」


 猫屋敷は「心配いらないっす!」と言い、電話を切った。

 その事を、ちょうど警備部から戻って来たばかりの早乙女に報告した。

 早乙女は腕を組んで考える。


「係長、どうするっすか? 俺、何したらいいすか?」


「そうね……、この近くで、静かに食事がとれる、お店ってあるかしら?」


 猫屋敷は「え?」と思った。


「出来たら、見晴らしが良くて、個室があると良いんだけど」


 もしかして、俺、デートに誘われてる? 


 そう思って、期待に胸を膨らませ、取って置きの、まだ行った事がない高級レストランを教えた。早乙女はそれをメモする。


「ありがとう、調べてみるわ、じゃあ、明日、私、仕事休むから、よろしくね」


 そう言って、早乙女はまた部屋を出て行く。

 猫屋敷は、魂が抜けたように、早乙女を見送った。




 早乙女以外のメンバーが、お茶休憩をとっている。


「きっと、社長さんとデートよ」


 天海はニンマリと笑った。


「駄目っす! そんなの、駄目っす! そうだ! みんなで係長を守るっす! デートを妨害するっす!」


 猫屋敷はいきり立ったが、剣崎に頭に拳骨を落とされた。


「仕事はどうすんだ」

「休むっす! 皆で休めば怖くないっす!」

「この馬鹿」


 餅柿は窓の外に目を向けて、何やら考えていたが、おもむろに口を開いた。


「剣崎巡査長、猫屋敷巡査」

「はっ!」


 急に堅苦しく呼ばれて、二人は姿勢を正した。


「特別警護任務を与えます。明日は、早乙女警部の護衛をするように。ただし、密かにです。絶対に気づかれてはいけません。いいですね」

「はっ!」


 猫屋敷は嬉しそうに敬礼する。

 剣崎は何やら複雑な顔つきだった。




「すみません。突然、呼び出してしまって」


 早乙女はいつものスーツではなく、爽やかなスカート姿だった。

 早乙女と沼袋葉三は、高層ビルにある創作和風フレンチレストランに来ていた。大きなガラス張りの窓からは皇居が見える。静かな店内。セレブ達が昼食をとっている。


「とんでもない、誘っていただき、とても嬉しいです」


 葉三は頬を染める。

 シックな雰囲気の個室に、色鮮やかな料理が一皿ずつ運ばれてくる。


「何、話してるんすかね」


 猫屋敷と剣崎は、個室の入り口が見えるテーブルに陣取ると、中に気を配った。


「さあな」

「盗聴器持ってくれば良かったすか?」

「馬鹿」


 二人は特に腹が減ってないので、サンドイッチだけ頼んだ。ギャルソンが変な顔をするので、猫屋敷は、適当にスープも注文する。


「お仕事は順調ですか?」

「ええ、お蔭様で、会社は信用を取り戻し、社員たちは希望を持って楽しく働いてます」


 会話は和やかに進む。


「あのう、刑事さん、じゃなくて、早乙女さん、とお呼びして、よろしいですか?」

 彼女は、「ええ、今日は休日ですから」と微笑む。


「事件の捜査、お疲れ様です。大変じゃありませんか?」

「ええ、頼もしい仲間が、いっしょに頑張ってくれますから」


 店内のどこからか「あちっ! あっちっ!」と悲鳴が聞こえてくる。


「早乙女さんのお仲間なら、きっと優秀な刑事さんなんでしょう」

「ええ、そりゃあもう自慢の刑事で、いつも助けられています」


 誰かが「すんません! 布巾ください! あと、おひや、おかわりっす!」と叫んでいる。


「事件の方は、解決しそうですか?」

「そうですね……、どのように解決するか、それは、まだ確定していませんが」


 早乙女は、悲しそうに「犯人が誰かは、分かりました」と言った。





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