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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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98/231

98.エーデル山の山荘

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 まだ朝日も昇りきらないうちに起床する。

神殿側が用意してくれた衣服に着替えた。

シンプルな綿のブラウスにグレイのパンツ、白糸で刺繍の施されたネイビーのチュニックと足下には頑丈なブーツという髪が短ければ男の子にも見える格好だ。

メリッサが身支度を手伝ってくれたが、山へ修業に行くのだ。化粧も必要ないし、髪もポニーテールにしただけ。



 大礼拝堂へ行きこれから始まる修業が無事に達成することを願い、祈りを捧げる。


(無事に神器を授かりますように・・・。)


そして、朝からわたしを見送るために大聖女様や神殿長、副神殿長、統括組の白の神官長、聖歌組の青の神官長、治癒組の赤の神官長、祝福組の黄金色の神殿長などなどいわゆる『長』が付く偉い方々が勢揃いだった。


「それでは行って参ります。」


お偉い方々に見送られながら、馬車に乗り込み出発した。


もちろん、ライオネル王太子殿下とリカルド様、メリッサとロビンは付いて来られず、皆早朝にもかかわらずわざわざ見送ってくれた。


わたしにはとても大仰なお見送りに感じたが、わたしが思うよりもわたしが修業に入る意味はとても重要なのかも知れない。


これで女神様から神器を授かりませんでしたー、なんてことになったらどうなるのだろうか?と考えるとぶるりと身震いがするので、これ以上考えるのは止めておく。


馬車に乗り込んだのはわたしとスーザンだけで、紫の騎士服を纏ったシャルロッテを含む女性騎士が数名、護衛に着いてくれた。


 聖なる山、エーデル山までは大神殿から北へ向かって馬車で一時間。

その間スーザンと二人きりの馬車の中は沈黙が続いていた。

スーザンはチラリともこちらを見ることなく、そしてどこを見ているでもなく、ただ背筋を真っ直ぐ伸ばした美しい姿勢で座っている。

わたしも一切の情報を帝国へ提供するつもりはないので、話しかけるつもりはない。


 ガラガラと馬車の走る音が聞こえる中、そっと視線を窓の外へ向けた。

朝日が眩しく周辺を照らし出すと、朝靄が朝露となってキラリキラリと小麦畑を輝かせる。

早朝から井戸に水を汲みに行く人や畑仕事をする人々がちらほらと見える。


人々の生活の息吹が感じられる地域を過ぎると長閑な山村となる。

目の前に見える山がエーデル山か。

山の麓には丸太で組まれた山荘が二軒建っていた。左側の山荘には小さな庭があり、ハーブや季節の草花で可愛らしく整えられていた。右側の山荘にはこぢんまりとした小麦畑と野菜畑。


 左側の山荘の前で馬車が止まると、一組の男女が出迎えてくれた。


「「ようこそおいで下さいました。」」


「マリエッタ様、エーデル山の管理人をしているベンとマーサ夫妻です。

修業中のマリエッタ様の生活の手伝いをしてくれます。」


「ベンです。困ったことがあれば遠慮なく何でも言って下さい。」


ベンはとても体の大きな男性で、焦げ茶色の髪にもじゃもじゃの髭、髪も髭も白髪交じりで、少し怖い感じのおじさんだった。


「マリエッタです。これから世話になります。」


「マーサと申します。

マリエッタ様の身の回りのお世話をさせていただきます。」


マーサはふくよかで朗らかな笑顔の、クッキー焼かせたら世界一という感じのとても親しみの湧くおばさんだ。


「マリエッタです。よろしく頼みます。」


「さあさあ、マリエッタ様のお過ごしになられるお部屋はこちらになります。

どうぞ中にお入り下さい。

私たちは大聖女候補のマリエッタ様がお越し下さるのを今か今かと首を長くして待っていたのですよ。

そしたらこんなに可愛らしいお嬢様で、お世話させていただくのも嬉しくて─────。」


マーサはよくしゃべる。しゃべりながら左側の山荘へわたしを案内してくれた。

右側の山荘はベンとマーサが住んでいるようだ。

ベンは馬車に乗っているわたしの荷物を運んでくれて、マーサはしゃべりながらお部屋の案内をしてくれた。


 玄関扉を開けて部屋の中に入れば木の香りが鼻先をくすぐった。

まず目に入ったのは屋根まで吹き抜けの広い居間。

そこにはソファーもあるし、ダイニングテーブルもあるし、お茶を淹れることができる程度の小さなキッチンもある。

とても明るくて心地の良いお部屋だ。

むき出しの丸太の梁がとても新鮮で、少しわくわくした。

マーサが摘んでくれたのであろう庭先に咲いていた花がテーブルの上や出窓、ローテーブルなどの上に飾られている。

一階は、居間以外に浴室やアトリエと言われた作業室、そして物置部屋。

室内階段を上がった二階には、寝室が二部屋に、本棚に本が一冊もない書斎があった。


歴代の大聖女達が考え事をしたいときに利用したというのも分かる気がした。

とても居心地がいい。

きっと今管理してくれるベンとマーサが心を尽くしてくれたからだと思う。

とても快適に過ごせそう。


 二階の寝室の窓から見える景色を眺めていると、美味しそうな匂いがしてきた。

そういえば今日は朝食をいただく前に出発したんだった。


「マリエッタ様、朝食のご用意ができました。一階の方へどうぞ。」


スーザンが声をかけてくれた。


「はい。今行きます。」


「朝食を召し上がられた後は、裏の登山道を登り頂上の祠で毎日、祈りを捧げていただきます。それ以外は特にございません。自由に過ごして頂いて結構です。

私は毎日、夕刻前にご様子を伺いに参ります。

その時にご要望や修業の進捗状況をお伺いします。私はこれにて失礼したいと存じます。」


スーザンは一度もわたしと目を合わせる事なく、この場を去ると伝えてきた。

何とも淡々とした秘書官だろうか。


「分かりました。ここはもう結構です。」


「では、また夕刻前に。」


「・・・。」


スーザンは頭を一つ下げると乗ってきた馬車に再び乗り、大神殿へ戻って行った。


わたしはスーザンがいなくなった事で警戒心が解け、深い溜息を一つついた。


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