83.急な来客
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ネストブルク荒野での戦が激しくなる一方、王城では思いがけない急な来客を迎えていた。
応接室では急遽ヴィクトールが対応し、最高級の紅茶が出される。
「ヴィクトール殿、お忙しい中お時間を頂いて申し訳ありませんわね。」
「ソフィーア様、わざわざ遠い所までお越し下さいまして。我々はいつでも歓迎いたします。」
年齢も七十を超え、髪は白くブルーグレーの瞳に眼鏡をかけた、白の聖女服に白いケープを纏った女性。
アデル聖国の大聖女ソフィーアだった。
大聖女とはこの世を司る女神、セディア神を信仰する者達にとって最も女神に近いとされる人物である。
『女神の代理人』とも言われ、治癒・導き・祝福の能力以外にも特殊な能力を持っていた。
ヴィクトール自身にかけられている守りの祝福もその一つであり、それは以前、水晶玉に込めることによりビザンデ鉱山の住人達を無事にチャンへレスの砦まで移動させたことは記憶に新しい。
そして彼女のナディール王国の王城までの移動手段も普通とは違っていた。
世界の数ある神殿の内、五大神殿と呼ばれる五つの神殿がある。
その五つの神殿には転移水晶が置かれ、大聖女と大聖女が連れ添う者はそれを拠点として瞬間移動ができるのであった。
それも大聖女だけが持つ特殊な能力の一つで、今回その能力を用いてアデル聖国のアディーレ大神殿からナディール王国の中央神殿へと瞬間移動し、そこから馬車に乗りここまで来たのであった。
「ふふふ。私にとってはそう遠くはないのですよ?」
微笑みながらソフィーアは出された紅茶をゆっくりと口に含み言葉を続けた。
「ところで私共が次期大聖女の候補を探しているのはご存知かしら?」
「はい、それは存じ上げております。確か十代の若い女性を中心に探されているとか。」
ソフィーアが六十歳を迎えた年から十数年、大聖女が次期大聖女の候補を探しているのは有名だった。
まさかエリザベートが・・・?
一瞬、ヴィクトールはエリザベートが次期大聖女の候補に選ばれるのかと思い胸が高鳴った。
何処の国でも欲しがる大聖女の存在。
大聖女がいれば国力、外交、その他のことについても国が平和で豊かになると言われている。
「それで今回、こちらにお邪魔したのは『ナディールの大聖女』と噂されるエリザベートさんに一度お会いしたくてね。」
もしやという期待で高揚する気持ちを抑えながら、もう一人の『ナディールの大聖女』の存在が頭を掠める。
マリエッタが次期大聖女の候補である可能性を考えた瞬間、自分が大いなる存在をエリザベートのために利用したことになると気が付いた。
それに気付き一瞬で頭から血の気が引く感覚を覚えたが、直ぐさまその可能性を頭から打ち消した。
「恥ずかしながらその様に呼ばれ大変烏滸がましいと存じております。
しかし生憎ですがエリザベートは今、戦場の後方支援部隊で負傷者を治癒する任務に当たってまして・・・戻りはいつになるかは・・・。」
「少しだけお話させていただくだけで結構です。
私も高齢でしてね、大聖女としてやっていくにもあちこち体にガタがきているのよ。
次期大聖女を育てるためにも時間が必要ですし。
なるべく早くお会いできる機会をいたたけないかしら?」
大聖女の頼みに待ってくれとも言えず、「畏まりました」と返すしかないヴィクトールだった。
暫しの間、ヴィクトールとソフィーアがとりとめのない世間話をしている時だった。
「火急にご報告があって参りました。」
扉を叩いたのは宰相のレンブランだった。
大聖女という賓客の対応をしている最中に割り込むというのは無礼である。
しかし今は戦の真っ最中。状況によって無礼は承知の上での行いだった。
「お取り込み中のところ失礼致します。」
レンブランはソファに座るヴィクトールの背後へ回ると、姿勢を屈ませ耳打ちをした。
戦場からの知らせは、ナディル帝国軍によりエリザベートに懸賞金がかけられ、命が狙われている。エリザベートを安全に王都へ返したいので至急護衛団を寄越して欲しいというライオネルからの依頼だった。
耳打ちをされているヴィクトールは次第に眉間に皺を寄せて険しい顔をする。
「では私はそろそろ・・・。」
場の雰囲気を察したソフィーアは帰ろうと立ち上がった。
ヴィクトールも合わせて立ち上がる。
「ソフィーア様、エリザベートを至急王城へ帰還させることになりました。
近いうちにお茶の席をご用意致します。」
先ほどの話しとは逆に急に都合がついたことに怪訝な顔をするソフィーア。
「そう、宜しく頼みますわね。
エリザベートさんはお怪我などしてませんの?」
「ええ。怪我をさせる前に帰すんですよ。」
「それはよろしいことです。」
ソフィーアはエリザベートの急な帰還に少し心配するが、怪我はないと聞き安堵した。
「今日はこれで失礼するわ。
忙しいところお邪魔しましたわね。」
「とんでもありません。
私としてはおもてなししたいところなのですが・・・。」
「ふふ。お気遣いなく。
では詳しい日時は中央神殿の方へお知らせ下さるかしら?」
「はい。そのように。」
歓待されることを避けるために急に訪問したソフィーアは、短い滞在の後、中央神殿へ戻ると瞬間移動でアディーレ大神殿へと帰って行った。
只今、第二章の下書きの執筆中です。
第二章から、マリエッタにも恋愛をしてもらう予定です。恋愛要素をなるべく織り込んでいくつもりなので、カテゴリーを異世界の恋愛に変更します。




