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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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81.ここでも歌う

 日も沈み、兵士や騎士達もこの陣営に戻って来た。


わたし達も負傷者の治療を終え、エリーと一緒に兵糧班の用意してくれた堅いパンと干し肉、そしてドライフルーツを水で流し込む。


戦の間は水がとても貴重なため、鍋や食器を洗う必要の無い食事が出される。そろそろ温かいスープが恋しくなってきた。


「どうだ、初めての戦は?」


 重役の戦略会議を終えたライオネル王太子殿下がわたし達に声をかけて下さった。


「ライ兄上、戦というものは令嬢には不向きなものですわね。」


 負傷して血塗れになった者を治療し、食事はフォークやスプーンさえもない。湯浴みだってろくにできず濡らしたタオルで体を拭うだけ。

エリーは貴族の令嬢では到底耐えられないそれらのことを言った。


「そうだな、ここで活躍しているお前達は淑女とはほど遠いかも知れんな。」


ライオネル殿下は何とも聞き捨てならないことをおっしゃる。わたし達は過酷な環境にも順応できるタイプの淑女なだけなのに。


「ライ兄上、私達はそんじょそこらの令嬢と違います。美しくありながら強く逞しいのです。

私達は『普通の淑女』ではなく、その上をいく『ハイレベルな淑女』なのです。

そこの所を間違えてもらっては困りますわ。」


 わたしはエリーの言うことにうんうんと激しく同意すると、ライオネル殿下は「それは悪かった。」と苦笑いで詫びてくれた。


「ところで忙しい兄上が会いに来るなんて、どうなさいましたの?」


忙しいはずのライオネル殿下がわざわざわたし達に会いに来たのだ。何か用があるのだろうとエリーが尋ねた。


「そうだった。折り入ってお前達に頼みたいことがあるんだが・・・。

ちょっと付いてきてくれ。」


折り入って頼みたいこと、そう言って歩き出しわたし達をある場所へ連れて行った。


 そこは陣営でも前の方で、兵士や騎士が野営しているテントが立ち並ぶ場所。

その外れにやぐらのような、やぐらよりも低くて簡易的な建築物が建っていた。


「兄上、これ、何ですの?」


「これは、舞台だ。

お前達にはここで歌って貰おうと思ってな。

お前達が今まで派遣された先で、多くの被害者のために子守唄や童謡などを歌っているのは知っている。

被害者はそのおかげで精神的に癒されていることも。

戦で殺るか殺られるかのやり取りをしている騎士や兵士達は、気持ちが高ぶっていて夜はろくに眠れていない。少しでも万全な体制で戦うためにはお前達の協力が必要だ。

どうだ、頼まれてくれるか?」


わたしとしてもお役に立てるのであれば喜んで歌いたい。ちょうど二人が並んで立てるくらいの簡易的な舞台。その様な物が用意されていたらそもそも断れるはずもないけど。


「分かりましたわ。

騎士や兵士のため、それが我が軍の勝利に繋がるのでしたら喜んで引き受けますわ。

それにしてもこのような物を作るだなんて、始めからそのつもりでしたわね?」


「まあな。」と悪びれる様子もない殿下に、エリーはふぅと軽く溜息をついた。


 その夜、就寝時間近くになるとわたし達はやぐらの上へ登った。


ランタンの明かりでぼんやりと照らし出されたやぐらから下を見下ろすと、たくさんの騎士や兵士が集まっていた。


「マリー、一曲目はあの歌行くわよ!」


「はいっ!」


あの歌とはあれだ。聖女の治癒を施すと騎士達は泣きだすので、それを見てエリーが作曲した『よく泣く騎士達への歌』だ。




『♪

一人で泣いてるそこの貴方

苦しみを耐え抜き涙を堪え

歯を食いしばりひとり泣き

さぁもう泣かないで涙を拭いて

私の前では我慢しないで

思う存分泣きなさい


ルーララー 大空へ

ルーララー 駆け出すの


貴方のもとへ エリーとマリーが癒してあげますわ ♪』




 泣いていいのか泣いてはいけないのかよく分からないこの歌を、やぐらの下に集まった騎士や兵士達は、はらはらと涙を流しながら聞いている。


『よく泣く騎士達への歌』歌った後は、この国のいろんな地域で歌い継がれている童謡や民謡を歌う。


この戦で全国各地から集まった騎士や兵士達は、自分の郷里の童謡を聞くとそれぞれ思い出があるらしく、皆懐かしそうな顔をしていた。


中には一緒に口ずさむ者もいて、このひとときだけは戦時中であることを忘れているようだった。


就寝時間になり『星屑に祈りを』と『今夜はお休み』を歌い終えると、皆ばらばらと各々のテントへと帰って行った。



 わたし達も今日は頑張りました。

お国のために戦う皆様のために明日も一生懸命頑張ります。

明日の晩もこの時間、この場所でお会いしましょう。

───それでは皆様、お休みなさい。


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