表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/231

80.ネストブルク荒野での戦い

 わたしたちは今、ネストブルク荒野に来ている。


ここネストブルク荒野は、ナディール王国の東部に位置し、帝国との国境に存在する。


 荒野と呼ばれるだけあって見渡す限り荒れ果てた大地が広がっている。

遠い昔には緑も生え、人が住んでいた時代もあったらしいけど今は住む人など誰もいない。川も池もない。そして古井戸も枯れて水は一滴も出ない。


 そんな土地だから、一応ナディール王国の領地となっているけど国境警備は置いていない。帝国も普段は手を出そうともしない土地。


 でもネストブルク荒野を突破されると、大軍で進軍するなら王都まで五日で到達してしまう。ナディール王国としては何としてでもここで阻止したいところだし、ナディル帝国としても何とかここを突破して王都まで進軍し、この国を陥落させたいところだろう。


 遠くの方では砂煙が舞い、微かに鈍い剣戟の音と鬨の声が響く。戦が始まって今日で二日目となった。


 味方の騎士から聞いた話だと、帝国軍は五万もの軍勢が押し寄せて来ているとのことだった。


正面に傭兵が三万。その三万が厚い壁のようにいて、王国軍を呑み込むように突撃してくるそうだ。

その厚い壁の後ろには、右翼と左翼に別れて各一万づつ兵士と騎士が控えている。三万の傭兵という厚い壁をようやく突破したところで、鍛えられた兵士や騎士が待ち構えているような布陣だったそうだ。


帝王のアレクサンダーが自ら陣頭指揮を執り、圧倒的な人数と強靭な兵力で襲いかかってきてなかなか打ち破れないという状況らしい。


 対して王国軍は二万だった。


王都騎士団長のグレゴール・ブロイド団長が将軍として陣頭指揮を執り、ライオネル王太子殿下も監督役として参加している。


 自軍の詳しい戦略は知らないけど、わたしの耳にも入ってきている戦略がある。


腕の立つ者には国からミスリル製の剣を貸し出している。


ミスリル製の剣はとても高価な物なのであくまで『貸し出し』という形だそうだ。

この戦で武勲を立てれば綺麗に装飾し直して褒美として下賜される。


いくらミスリル鉱山を発見したからと言っても、たくさんの剣を作る時間がなかったのと、あまり強くない者にまでミスリル製の剣を持たせると敵に奪われてしまう恐れがあるんだって。そのため、腕の立つ者限定でミスリル製の剣を持たせることになったそうだ。


 そして兵士や騎士には全員、特製の疲労回復ポーションと外用ポーションを持たせている。それで何とか相手の勢力に負けずに立ち向かっているらしい。


 もう一つわたしが知っている戦略がある。エリーがわたしに話してくれたんだけど、極秘の戦略らしい。

「極秘なのにわたしに教えてもいいのでしょうか」と心配したけど、「もうすでに戦が始まって、その極秘の戦略は実行されているから心配は無用よ。」と言って教えてもらった。


その極秘の戦略とは、騎士の中でも特に武に秀でた者を集めて密かに訓練し、ミスリル製の武器を持たせた少数精鋭の遊撃隊を編成したものだった。


その遊撃隊の名は『黒銀の騎士団』と名付けられて、戦場を縦横無尽に駆け回り敵の陣形を切り崩す役割を担っているそうだ。


何とその『黒銀の騎士団』のメンバーに、ビザンデ鉱山でご一緒したマーティン警備兵長も選ばれた。


確かにビザンデ鉱山での脱出の時、戦斧を振り回したマーティン様は凄かった。

彼だったら大活躍間違いないと思う。


 そんな帝国軍と王国軍の戦いはどちらも退くことなく、お互いの戦力は拮抗している状態だった。



 今回、わたしとエリーが派遣されたのは後方支援部隊にある医療班だった。


王都騎士団専属のノートン・ブルックナー医師が班長を務め、その彼のもとでわたし達も活動することになった。


 決戦場より後方に陣営を敷き、そこで運ばれてきた負傷した騎士や兵士を治療したり、エリーの聖女の治癒を施したりしている。


 次々に運ばれてくる負傷者は、浅い傷はポーションで、大きな傷や深い傷は完全治癒のフォーメーションA、矢傷や刺し傷など局所的な傷の治癒は、指先から細く聖力を注ぐフォーメーションBで、傷の状態に合わせて治癒方法を変えながら治していった。


 いつもだったら、エリーが騎士達に聖女の治癒を施すとあまりの感動でむせび泣く者が多かった。


でも今回は泣いたりする騎士はいなかった。エリーに治癒を施してもらうことに慣れてしまったとか、そういうことでは決して無い。


皆治癒が終わると、エリーの前で跪き頭を垂れる。そしてただ一言、


「必ず勝ってまいります。」


とだけ言って決意を秘めた眼差しをエリーに向ける。

エリーはそれに対してこくりと一つ頷くと、


「ご武運を。」


と短く返すだけだ。そしてそれを聞いた騎士は振り向くこともなく、再び戦場へと走って行く。


たったそれだけのやり取りだけど、騎士とエリー(わたしも含めて)が築いた絆はとても強く深いものだと感じられた。


 治療に使用したポーションは、今回の戦のために妖精付きの薬草を使用した『超特製ポーション』を数多く入荷した。それがかなりエリーの負担を軽くしているので、わたしも連日深夜まで薬草の仕分け作業をした甲斐があったと少しほっとしている。


そのおかげでエリーも聖力が枯渇することなく無事二日目を終えることができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ