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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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70.打ち合わせ

「あちらに労働者のための休憩所があります。風除けくらいにはなりますので、どうぞあちらへ。」


 夜も更け冷え込みが厳しくなる中、わたし達は警備兵長の案内で古く簡素な小屋へと入った。


そこは三十名程の労働者が休憩できるような小屋だった。おそらく鉄鉱石を積んだトロッコを押す人達の休憩所なんだと思う。ガタガタで素人が作ったような木製のテーブルやベンチ、椅子などが置いてあって、奧の方には薪ストーブがあった。


ランタンを手にしていた警備兵が、手早く天井からぶら下がっているランタンに明かりを灯し、薪ストーブにも火種を入れてくれた。


エリーとわたし、そして側仕えのジェシカとメリッサは女性は寒いだろうと薪ストーブの近くに座らせてもらい、男性陣は陛下を中心にテーブルを囲んでいた。


 テーブルを囲むのは、陛下とライオネル殿下以外に警備兵長のマーティン様、副兵長のガイル様、そして警備隊の六つに分かれた班の班長六名。


いつもだったらとっくに寝ている時間だけど、誰も寝る気配が無く打ち合わせが始まった。


 明日は、夜が明けて預けている馬の手配ができ次第、陛下はマーティン様とゲイル様を連れてアデル聖国に向かわれる事になった。


アデル聖国にあるアディーレ大神殿には、『女神の代理人』とまでいわれる大聖女のソフィーア様がいらっしゃる。


その大聖女様に、『守りの祝福』を込めた水晶をいただけるよう、お願いに行くとの事だった。大聖女様にお願いとなると、使者では失礼に当たるらしく直接陛下がアデル聖国へ向かわれる。


───『守りの祝福』


 それは大聖女だけが持つ特殊な能力の一つ。今の陛下も直接その身に『守りの祝福』をかけていただいているもので、戦場に身を置いても怪我一つ負わないというもの。


陛下だけでなく、各国の国王と王妃は政変や暗殺などで国が混乱に陥る事を防ぐために、特別に『守りの祝福』をかけていただいているそうだ。ただ、ナディル帝国の帝王と王妃を除いて。


その昔、貧しい村の生まれの大聖女様がいた。戦に巻き込まれあわや全滅という危機を、村全体にかけた『守りの祝福』で守り切ったとの逸話が残されている。

それがアデル聖国の国の起源だったとも言われている。


その『守りの祝福』を込めた水晶を使って、ビザンテ鉱山に置いてきた住民達を安全にこちらの国まで連れて来る作戦だった。


マーティン様とゲイル様が陛下に付いてアデル聖国まで行くのは、水晶を直ぐさま受け取り、ビザンテ鉱山の住民をナディール王国へ無事連れて帰る任務を請け負ったから。


 ライオネル王太子殿下は陛下の代わりに政務をこなすため、証拠を持って急いで王城へ戻られる。


因みに裏切ったオリバー・ザイデライト氏は、一族で国外永久追放の刑を受けたとして罪人名簿に記録されるらしい。


そして政務の他にもアデル聖国へ向かわれる陛下とマーティン様、ゲイル様の旅のフォロー、ビザンテ鉱山の住民の受け入れ先の準備、そしてアロイド山の鉱山開発に関する整備の着手など数多くの任務を請け負う事となった。


 そして、先ほどまで一緒に帝国兵を相手に闘ってきた警備兵の皆は、アロイド山を拠点に東側のナディル帝国の警戒に当たるそうだ。


 アロイド山の鉱山開発には、わたしが陛下に鉱物の妖精が見える話をしてしまったことが関係している気がしてならない。


 掘ってみても鉱物なんて一切出てきませんでしたーなんて言われたらどうしようかと少しだけドキドキするけど、あれだけたくさんの黒くて銀色に光る妖精がいたのだから何か出てくるはずだ・・・と思う。


 打ち合わせの内容はこれからの行動予定の他、路銀の受け渡しをする中継地、ビザンテ鉱山の住民を移動させるルートなど多岐に渡った。




 今日は疲れた。体が鉛のように重く疲労感が頭のてっぺんから足のつま先までのしかかってくるよう。薪ストーブの暖かさが眠気を誘い意識を保つのを難しくさせる。


眠気をごまかすために窓の外に目を向ける。いつの間にか東の空が白んできた。


「そろそろ夜が明ける。

ライオネル、忙しくなるが頼んだ。

他の警備兵達にビザンテ鉱山へ置いてきた家族に会えるまでしばらくの我慢だと伝えてくれ。」


「「はっ!!」」


 陛下は側にいた従者に預けていた馬の手配を指示すると「さて、鳩を飛ばすぞ。」とそう言って少しだけ楽しそうに席を立った。




 冷たく澄んだ空気に包まれて、少しづつ辺りに日が差す。


次第に渓谷にも朝日が差し込み、眩しく照らし出す。


その美しさに昨夜の襲撃が夢の中の出来事のようにも思えた。


切断された吊り橋とロープリフトが、渓谷の向こう側で静かに揺れている。それがオリバー様の裏切りも、ナディル帝国の襲撃も夢ではなかったと思い出された。


 コーネル様が、オリバー様の裏切りの証拠?である帝国とのやり取りに使う鳩を懐から取り出した。


「行けっ!!」


両手で優しく包んだ鳩を、勢いを付けて朝日に向かって解き放った。


コーネル様の手から解き放たれた鳩はバサバサと羽音を立て、上昇しながら飛んで行く。


何も迷いも無く、朝日に向かって羽ばたく鳩を、わたし達は無言で見つめていた。







 陛下とマーティン様とゲイル様はアデル聖国へ、ライオネル王太子は王都へ急ぎ出立した。


わたし達は急ぐ必要は無いので、のんびり帰る。


エリーとわたしが乗ってきた馬をマーティン様とゲイル様へ渡したので、エリーはケビンの、わたしはロビンの馬へ一緒に乗せてもらった。


体力も限界だし心身ともに疲れていたから、ロビンの馬に乗せてもらう方が楽なので助かった。エリーを乗せたケビンは、少し鼻の穴が膨らんでいたのが気にくわないけど、エリーも疲れているだろうから見逃してやることにした。


 そして宿へ到着すると、エリーもわたしも、食事もそこそこに倒れ込むようにベッドへ沈み込んだ。


初めて襲撃されることを味わい、初めての戦闘で短剣を振るった。

黒装束の兵に追いかけられる危機感、エリーには傷一つ付けてはならないという緊張感。

しかも昨夜は徹夜だった。


 生まれて初めての危機に心身とも疲れていたわたし達は体調を崩した。


二日ほど寝込んでしまったが、温泉に入りながらのんびりとしていたら、三日目にはいつものエリーとわたしに復活した。


 一生懸命頑張ってる陛下やライオネル王太子に申し訳ない気持ちになりながら、エリーと一緒に温泉に入ったり、観光したりしながらゆっくりと王都へ帰った。


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