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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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65/231

65.ビザンデ鉱山

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

「ふうむ・・・。鉄鉱石の産出量がここまで激減しているとは・・・。」


 文官から上がった報告書を眺め思わず唸る。

ナディール王国の北東に位置し、ナディル帝国との国境にある、ビザンデ鉱山の事である。


 ビザンデ鉱山は、埋蔵量が豊富で良質な鉄鉱石が採掘できる。しかも近場に高炉を建設し、地金だけでなく鋳造まで一貫してできるため、ナディール王国にとっては重要な鉱山の一つである。


 鉄鉱石の産出量が、今年は例年の半分と激減している。報告によると、岩盤崩落が起こった事と、高炉の不具合が頻発した影響だということだった。


 ビザンデ鉱山はおよそ百年前まではナディル帝国の領地だった。立地的にもナディール王国からは険しい渓谷を挟んで帝国側に存在していたため、鉄鉱山であることでの魅力はあるものの、無理矢理こちらの領地にするつもりはなかった。


 しかし時は大戦時代。


この世の至るところで戦が繰り広げられていた。覇権を狙っていたナディル帝国は、武器を大量生産するため、ビザンデ鉱山を所有する領主、当時のザイデライト伯爵に大量の鉄鉱石を、ほぼ無償で国へ納める事を要求した。


男性のほとんどが戦へ駆り出されていたため人夫が足らず、鉄鉱山しか収益の見込める物を持っていなかったザイデライト伯爵は、経済的に行き詰まった。


 悩みに悩んだザイデライト伯爵は、渓谷を挟んだ敵国、我がナディール王国へ助けを求めた。


鉄鉱山を明け渡す見返りに守って欲しい事。貴族であることを捨てるが、経験を生かして鉱山の管理人として雇って欲しい事。


それらを条件に、当時のナディール王国はビザンデ鉱山に厳重な国境警備を置き、ザイデライト伯爵には、爵位は授けなかったものの、上級文官の役職を与え鉱山の管理をさせた。


 それからは現在に至るまで、数年に一度の割合でナディル帝国からの襲撃に遭っている。しかしザイデライト家の方に地の利があり、山の上流からの守りであることを生かして、現在までナディール王国の王領地として守り続けてきた。


その様な背景のあるビザンデ鉱山が、今年に限り産出量が激減した。そう、今年に限って・・・。


 今年は敵国であるナディル帝国が変革の年を迎えた。

ここ数年、ナディル帝国の帝王ダリウスが病に伏せていたため、ビザンデ鉱山を奪還しようとする動きは鳴りを潜めていた。

しかし今年、そのダリウスが死亡した。そして王太子だったアレクサンダーが王位を継承したと聞いている。

若い新王アレクサンダーがビザンデ鉱山を奪還しようと挙兵するのは時間の問題だと考えられる。


「気になるな・・・今のうちに視察に行くか・・・。」


 そうして原因究明と現状把握と、道中の温泉旅行を兼ねてビザンデ鉱山へ向かうことにした。







 今回は聖女活動はお休みで、国王陛下の鉱山視察に同行することになった。


国王陛下と、ライオネル王太子殿下とエリー、そしてそれぞれの御身代であるアントニオ様とわたしが同行した。その上、それぞれの側仕えや侍従、護衛騎士を連れてなかなかの大所帯で向かう。


 王と王太子が城から出るなんていいのかな?と思っていたら晩秋から冬の終わりまで戦が起こることは少ないんだって。

しかも第二王子のセドリック様がお留守番しているから何とかなるだろうって。

まあ、そんなに危険が無いと踏んでの事だと思うけど。


 秋も終わりに近付き時折冷たい風が吹き抜ける。山の木々も、はらはらと枯れ葉を落とし冬の訪れを感じる今日この頃。


馬車で移動していたのを、山の中で山道に強い馬に乗り換えて進む。


 ビザンデ鉱山までの道中、温泉宿に宿泊しながら向かった。


任務として同行しているのに、温泉に入れるのはなかなかの役得だった。


 そしてこの旅で発見したことがある。山の中にはたくさんの種類の妖精がいた。木にも、落ち葉にも、岩にも、川にも、そして温泉にも。温泉の妖精は、少し黄色かかっていた。多分硫黄が関係していると思う。掛け流ししている所から、湯と一緒にポンポン湧いてくるからちょっと楽しい。しかしわたし以外の人には見えてないようだったので、黙っておくことにした。


 道中、何の妖精なのか分からないけど変わった妖精を見かけた。


ビザンデ鉱山に向かう渓谷の手前の、アロイド山の山肌が露わになった所。


そのゴツゴツとした山肌から、物凄い勢いで飛び出す妖精達がいた。

両手で抱えるほどの大きさから、手のひらに乗るほどの大きさまで。

ポンポンと言うよりビュンビュンと言った方が近いと思う。

色は黒いのに、銀色の光を纏っている。妖精だからふわふわとした毛の塊なんだけど、何だか強そうだった。


その黒くて銀色に光る妖精が、あまりにも凄い勢いでこちらに飛び出して来たので思わずビビってしまった。


「おい、よそ見してんじゃねぇよ。馬から落ちるぞ。」


ケビンに怒られた。


 アロイド山の山道は意外に整備されていた。山道には、二本のレールが走っていて、レールに沿って移動する車輪の付いた荷台と行き交う。荷台には鉄鉱石や製錬された地金、その他鋳造製品が積まれており、鉱山が近い事を感じられた。

ちなみにレールに沿って動く荷台は、六人の労働者が押して動かしている。トロッコというらしいが、わたしの記憶にあるかわいいレトロな列車とはずいぶん違う。


 アロイド山の中腹より少し上流で、見晴らしの良い険しい渓谷に辿り着いた。目の前には大きな吊り橋が架かっていた。


 渓谷には吊り橋と並行して、頑丈な木箱が等間隔でロープに吊されている。滑車を利用して往復しているようだ。おそらく鉄鉱石等を運搬するロープリフトみたいなものだと思う。


 わたし達は、吊り橋の手前で馬を預けると、吊り橋を渡りビザンデ鉱山へと入って行った。


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