64.ナディール王国の成り立ち
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────ナディル帝国。
ナディール王国の東側に隣接しており最大の敵国。
大陸一の大きさを占め、最も栄華を誇る時代には大陸の半分もの面積を国土としていた。昔も今も覇権を狙い侵略を繰り返す軍国主義の国である。
そして何より、ナディル帝国から分裂し独立したのがナディール王国だった。
およそ二八〇年前、まだナディール王国が生まれておらず、現在のナディール王国が、ナディル帝国の領地の一つだった頃に遡る。
当時のナディル帝国には、三人の王子がいた。
第二妃の生んだ第一王子のジークフリート、
王妃の生んだ第二王子のヘンドリックス、そして第三王子のランドルフであった。
第一王子のジークフリートは闊達で賢く、そして下の者に対しても配慮のできる性格から、次期帝王として大切に育てられた。
しかしジークフリートが五歳になった頃、王妃に第二王子となるヘンドリックスが生まれた。
妃の序列によって王位継承順位の決まるナディル帝国では、ジークフリートの王位継承順位は下がり、立場は突如弱いものと変わって行った。
しかし、第二王子のヘンドリックスの能力は凡庸で、父である帝王と容姿が似ていなかった。しかも母である王妃とも似ていない容姿をしていた。
それにより、影ではヘンドリックスは王妃の不義の子ではないかと囁かれ、第一王子のジークフリートを支持する派閥の勢いは収まる事はなかった。
ジークフリートが八歳、ヘンドリックスが三歳の頃だった。
正妃が第三王子となるランドルフを出産した。
ランドルフは賢く、活発で、何より父である帝王の血を濃く受け継いだ容姿をしていた。何より特徴的な獅子のたてがみのような金の髪、冬の澄み切った夜空のような蒼い瞳を受け継いでいた。
人格者の第一王子のジークフリート、
凡庸で帝王と全く似ていないが王位継承順位一位のヘンドリックス、
そして最も帝王の容姿を色濃く受け継いだランドルフと、
それぞれの王子を中心とした派閥争いは苛烈を極めていった。
そしてジークフリートが二十歳、ヘンドリックスが十五歳の時だった。
ヘンドリックスが成人し、王太子として任命される直前だった。
派閥争いに疲れ、国のためには派閥争いなど何も利益を生まないと考えたジークフリートは、王位継承権を返上することを決意した。
帝王に相談し、王位継承権を返上すると公爵の爵位とナディル帝国の西方の地、フローリアスを領地として賜る事となった。
フローリアスは主に農業の盛んな地域だった。帝都から遠く離れ、ジークフリートは田舎の領主として、領民と触れ合いながらのんびりと過ごしていた。
そしてフローリアスの地で出会い、恋に落ち、妻に娶った女性が大聖女だった。
もともと領民の信頼が厚いジークフリートが、大聖女を娶ったことで、自領だけでなく、周辺の領地や他国とも友好な関係を築き上げていった。
その一方、政府は混乱していくばかりだった。成人してもヘンドリックスはなかなか立太子させてもらえず、ランドルフとの派閥争いは激しくなるばかりだった。
なかなか立太子させてもらえない事で、業を煮やしたヘンドリックスが政変を起こした。
「悪政を敷き国を混乱に貶めた」と因縁づけた大義名分を掲げ、自らの親である帝王を討ったのであった。
そして帝王となったヘンドリックスの統治はひどい有様だった。まずは何も罪の無い弟のランドルフを捕らえて投獄した。ほしいままに浪費をしては税を上げ、自らの派閥に有利な法を定め、軍備が整う前に他国への侵略を繰り返し、負傷者を多く出すなど国は疲弊するばかりだった。
ある日、ヘンドリックス帝王の悪政に耐えかねた貴族が反旗を翻した。
政変でもなく、帝王の討伐でもなく───。
それは、ジークフリートを王と掲げた新しい国家の設立だった。
当然ながらヘンドリックス帝王がそれを許すはずもなく、謀反者を征圧すべく自ら兵を挙げた。
しかしジークフリートを捕らえる事は容易いものではなかった。
フローリアス周辺の領地を治める七つの貴族が後ろ盾となり、ジークフリートを支えた。近隣国も大聖女の住む地を守るという名目で、軍事支援しジークフリートの味方となった。
ジークフリートを中心とした新国家設立の勢いは止まらず、ナディル帝国の西部に領地を持つ貴族が次々にジークフリートに付いていった。
その後、瞬く間にジークフリートを初代国王としたナディール王国が建国されたのであった。
ナディール王国は、元のナディル帝国の西部をそのまま領土とし、ナディル帝国の三分の一の領土をごっそり削り取る結果となった。そしてジークフリートを支えた七つの貴族は侯爵位を授かり、『七大侯爵』と呼ばれるようになった。
ナディル帝国からすれば、国土の三分の一を失い、謀反者の征圧にも失敗したことになった。
弟のランドルフは、この混乱に乗じヘンドリックスを討ち王位に就くこととなった。
それがおよそ二六〇年前の出来事だった。
それからは、奪われた地を奪還しようとするナディル帝国と、それから守ろうとするナディール王国の戦いの歴史だった。




