57.ワダリ村へ
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医療活動二日目。
朝は聖女の治癒が必要な人達に治癒を施しに回る。
フォーメーションBの聖女の治癒は、エリーの手の形が相変わらず『ここをクリック!』なのは気になるところだけど、そこはあえて何も言わないでおく。
エリーが治癒を施すと、徐々にそれを遠巻きに眺める村人達の態度に変化が表れ始めた。
昨日は感嘆の声を上げる人が多かったのだけど、今日は、エリーが手を組み祈りの言葉を唱え始めると、村人達も一緒になって手を組み祈るようになった。
村人達が一緒に祈った所で、治癒の効果が上がるとかそういったことは一切ない。しかしその様子は、エリーを中心とした祈りの時間と変わり、どこか厳かな空気に包まれる。まるでエリーという女神に祈りを捧げているようにも見えた。
とにかくエリーの民の心を捉える求心力は凄いということだ。
日もだいぶ高くなってくると、ワダリ村で救助活動をしていた騎士達が被災した負傷者を搬入してくる。
わたし達は昨日と同じように、応急措置をし、ポーションを処方する。そして症状が重い負傷者は医師の方々に回す。
しかし災害から数えて四日目になると、搬送されて来る負傷者が格段に減った。もちろん、多くの負傷者が助け出されたのもあるが、主な理由は発見時に既に亡くなっている事が多くなったからだ。
わたし達は応急措置も請け負いつつ、今、生きている人達のケアもする事にした。
完治していない人達を再診してポーションを処方する。包帯を巻き直す。
ストレスからくるのか、負傷してない人や軽症者が、発熱、吐き気、目眩などの症状を訴えるようになった。その様な人達も診察してポーションを処方した。
「王女殿下、少しよろしいですか?」
エリーに声をかけたのは、医療団のブラウン団長だった。
「ブラウン団長、よろしくてよ。」
「今日、昼過ぎに被災地のワダリ村で、亡くなった被災者の集合葬儀が行われます。
私達も参列することになりましたので、もしよろしければ王女殿下もご一緒にどうかと思いまして・・・。」
ブラウン団長は遠慮がちに言う。王族が葬儀に参列するということはとても特別な事だから。普通だったら王族が葬儀に参列するのは国賓や国に多大な貢献をした人物だけ。
「私達も参列しますわ。是非、被災した者のために私達も冥福を祈りたいわ。」
「かしこまりました。では、昼過ぎて出発の準備ができましたら、声をおかけします。王女殿下がいらして下されば、被災したワダリ村の人々は、きっと励まされることでしょう。」
エリーは快く、葬儀に参列することを了承した。
そして昼過ぎになり、半数くらいの医療団員を残して、ワダリ村の外れにある葬儀場へと向かった。
田舎道のため馬車ではなく馬に乗っておよそ二十分。
災害の影響でより悪路になるため、馬も途中でつなぎ、そこからは歩いて十分。
ワダリ村の西の外れ、災害の影響の少ない、何もない見晴らしのいい場所。葬儀場というより墓地だった。
救助活動をしているアムラダディの騎士や王都から派遣された騎士達が、シャベルを使って等間隔に土を掘っていた。そして布に包まれた遺体を次々に埋めていく。終いに上面を平らに割った大きな石を墓標にしていた。
すでに集まっていた多くのワダリ村の人々は、一様に悲しみに暮れていた。
肩を寄せ合い涙を流す人、嗚咽を漏らしながら肩を震わせ泣いている人、遺体にすがりつき泣き叫ぶ人・・・。
その様子にわたしの胸はズキリと痛む。
そして救助活動していた騎士達も騎士服を汚しながら、その表情は疲労の色を濃くしていた。
墓地の片隅には、一人の初老の男性が佇んでいる。白い神官服を身に纏っているので葬儀を取り仕切る神官だろう。
そこでわたしはある違和感に気が付いた。
──聖女がいない。葬儀なら導きの能力を持った聖歌組の聖女が『鎮魂の歌』を歌うはずだ。
わたしはそこでまた心がズキリと痛んだ。ああ、聖歌組の聖女に依頼する献金を用意できないからか。
いったい聖女とは何だろうか?一人くらいワダリ村のために歌ってくれてもいいのに。神殿とはいったい何だろうか?と考えていたら、エリーが小声で話しかけてきた。
「マリー、導きの能力の聖女が一人も来ていないわね。」
「はい、わたしも同じことを考えていました。」
「そう、『鎮魂の歌』覚えてるわよね?」
「えっ?」
エリー、歌うつもりだ。わたしと一緒に。
『鎮魂の歌』はもちろん覚えている。今までエリーの学友として聖女学の授業と歌の授業の時に一緒に学んだ。わたし達は、聖歌組が歌う聖歌も一通り学んできた。
エリーは私が返事をする前に、一緒に連れていた側仕えのジェシカにひそひそと何やら指示を出した。
指示を受けたジェシカは、墓地の片隅にいる神官と打合せをしている。
そしてわたしは思い出した。
エリーは治癒の能力の他に、導きの能力を一、持っていることを。
 




