54.フォーメーションB
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ブラウン団長が鉗子を使いながら、患者の脇腹に刺さった枝を丁寧に引き抜く。
痛みでもがき苦しむ患者の体をわたしが押さえ、エリーが治癒を施す。
エリーは手を組み、祈りの言葉を唱える。手が淡く光ると、人差し指と親指を立てて、人差し指の先から治癒の聖力を注ぎ込む。
いつもの事ながらそれを見ていた周囲がざわめき出す。高い献金を出せない平民にとっては、聖女の治癒は珍しいのだろう。しかも献金も受け取らず、一国の王女が一平民に対して治癒を施す姿は普通だったら考えられない。
「なんて尊いお姿。」
「ああ、我らの大聖女様。」
「この国に生まれて良かった・・・。」
などの感嘆の声が聞こえてきた。
わたしのエリーは民のため分け隔てなく治癒を施す心優しくて尊いお方なのだ。となぜかわたしが誇らしく思う。
エリーは両手の親指と人差し指を立てて、残りの三本の指を握った形で幹部へ聖力を注ぎ込んでいる。わたしとしては聖力ビーム銃をイメージしてかっこ良くやって欲しいところだったが、残念ながら、エリーの手の形は『ここをクリック!』だった。
つくづくエリーとわたしのセンスは合わない。
「なるほど、局所に指先から聖力を流す事によって、聖力を無駄なく効率的に使う訳ですな。」
ブラウン団長が感心するように呟いた。
わたしはこの患者さんが早く良くなることを願いながら、注意深く傷口を見る。そろそろ聖力を注ぐのを止めさせようと、エリーに治癒を中断させる。
「エリー、この辺でストップしましょう。続きは明日で。」
「ええ、そうね。」
男性の脇腹の枝が刺さって抉れた部分に外用ポーションをかけて、清潔な布で塞ぐ。また明日も治癒を施すことを説明して後は被災者の避難テントで静養してもらう事にした。
本日のエリーが治癒を施したのは合計三件だった。
分割して治癒をしたこと、指先で局所的に聖力を注いだことが功を奏したのか、今のところエリーは聖力枯渇を起こすことなくピンピンしている。
「マリー、分割で治癒をすることと、指先で治癒の聖力を注ぐやり方、うまくいったわね。」
「はい。エリーが聖力枯渇で倒れなくて本当に良かったです。」
「戦場では即動けるような治癒が必要だけど、今回のような治癒の必要な人が複数人で、それでいて治療のための時間がとれる人に対しては使えるやり方ね。」
「はい、わたしもそう思います。」
「マリー、決めたわ。このやり方を『フォーメーションB』と名付けるわ。」
「『フォーメーションB』?」
「そうよ。一、二人を完全治癒するのを『フォーメーションA』、多くの人を分割治癒するのを『フォーメーションB』と名付けるわ。」
「『フォーメーションA』と『フォーメーションB』・・・。」
「そうよ。現場に合わせて臨機応変にフォーメーションを変えるの。」
「か、か、かっこいいですね!!」
「マリーもフォーメーションに合わせて私のフォローを頼むわ。」
「はい!お任せください!!」
こうしてわたし達は、現場の状況に合わせて治癒のやり方を変えるという方法を編み出した。
日も傾き辺りが茜色に染まると、救助活動しているワダリ村の被災地から救援騎士達が引き上げてきた。
本日の活動は切り上げとなり、ここでようやく到着時にできなかったアムラダディ領の救助隊の方々や、医療団の方々と簡単に挨拶を交わす。
ふわっと美味しそうな匂いが漂ってきたので、そちらに目を向けると、ラムール村の人達が炊き出しをしてくれていた。
お腹すいているし、疲れてるし、わたしも炊き出しをいただきたいところだった。しかし残念ながら、エリーがアムラダディ領の領主に夕食の招待を受けていたのでそれに同伴しなければならない。
わたし達は急ぎ馬車に乗り込むとアムラダディ城へと向かった。
ラムール村から馬車で小一時間走ったところでそれは見えてきた。
その城は十年位前に建て替えられたという新しい城で、古くて大きな王城とは趣が全く違っていた。
夕闇の迫る空にアムラダディ城は紫色に染められ、美しくいかにも上級貴族の住まう城といった様子でそびえ立っていた。




