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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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44.馬に乗って散歩した

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 首長達との会議が終わると俺は急ぎ執務室へと向かった。


 国王陛下への結果報告と、北方の少数民族達へ食糧を支給する許可をいただくための手紙をしたためる。


国王陛下への手紙をしたためた後は、今まで協力して小麦の品種改良を研究してきた植物学者のギルバート・モリアーティ先生への手紙だ。


北方とエステルスーン領へ技術団を派遣し、新種の小麦の栽培技術を指導して欲しい事をしたためる。


それと合わせて、寒さに強い新種の小麦を『ライ小麦』と名付けた事と、実の付きのいい新種の小麦の名前をギルバート先生に名付けて欲しい事もしたためた。


二通の手紙を早馬で届けさせると、シュナイダー殿が執務室へとやって来た。


「此度の北方少数民族の襲来問題の件、見事な采配でございました。」


「シュナイダー殿のお力があればこそです。」


「その様なお言葉をいただき、大変恐縮でございます。食糧の方は既に手配しておりますので、明日には北方の各部族へ支給出来るかと思います。それと同時に捕虜達を釈放し、その後避難している村人を村へ帰す段取りとなっています。」


「それでは、村の警備や巡回に当たっている騎士達の任務を明日には解除できそうですね。」


「はい、我が領のためご尽力いただき、誠に有難く存じます。つきましては、明日の夜、簡素ではございますが酒の席を用意をさせていただきます。王宮騎士団の皆様と我がエステルスーン騎士団との親睦の場となれば幸いに存じます。」


「それはいいですね。騎士達も喜ぶことでしょう。ついでにエリザベート達にも声を掛けてみます。」


「王女様達にも参加くださるのは大変嬉しいのですが、若い女性に出席いただくのはちょっと・・・。酒に酔った男共の場となってしまいますので・・・。」


「確かに王族や貴族の令嬢には見せられない場となるでしょう。しかし妹は今後、戦地へ聖女活動のため赴くことが増えます。騎士達と交流するいい機会となりましょう。私が長居させないようにしますから大丈夫ですよ。」


「そうおっしゃるのなら。王女様のような美しい方が出席していただけたら、きっと騎士達も喜ぶでしょうな。」


 そうシュナイダー殿と話をした後、明日の宴会の事を伝えるためエリーの部屋へと向かった。


 部屋では案の定、エリーはマリエッタ嬢と紅茶を飲みながらしゃべっていた。いつも一緒にいてしゃべる事がよく尽きないな、と思いながら、王都への帰還は明後日になる事、そして明日の夜に宴会が催される事を伝えた。


エリーは「その様な場へ参加するのも悪くはないわね。」と言いながら少し目が輝いていたのを俺は見逃さなかった。







 栄養失調の少年の三回目の治癒も終わったし、脳挫傷の村人の経過も順調だった。


 わたし達の出番も無くなってきたので、エリーと一緒に『視察』と称して馬に乗ってエステルスーン領を散歩することになった。


 季節は春だというのにこの辺りはまだ寒く、防寒用ローブが手放せなかったが、道端の草花がひっそりと芽吹いているのを見つけた。


 エステルスーン領の春も直ぐそこまで来ている。何もない場所だけど夏には見渡す限りの草原が広がるそうだ。


 略奪の被害に遭った村も見せてもらった。警備の騎士と、最低限の家畜の世話のために数人の村人がいるくらいで、村は閑散としていた。

村の中心部にある食糧倉庫が荒らされているのがやけに目立った。

その他民家の台所も幾つか荒らされているようだった。

襲われた村と、襲わなくては生きて行けない少数民族・・・。


複雑な気持ちで散歩から城へ戻ると、ちょうど会議が終わったらしく、少数民族の首長らしき人達が城門から出て行くのが見えた。

体調を崩したのか、担架で運ばれている人もいた。


 散歩の後、エリーの部屋で紅茶をいただく。


「殲滅は回避されたようね。」


「えっ、なぜ分かるのですか?」


「少数民族の首長達が帰って行くのをマリーも見たじゃない。」


「ん??」


「もうっ。鈍いわねっ。ライ兄上が殲滅を選んだのなら、首長達は一人残さず生きては帰れないわよ。」


「・・・。」


事と次第によっては、あの首長達は全員殺されていたのか。わたしは少し恐ろしい気持ちになり、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 しばらくエリーと雑談していると、扉を叩く音が聞こえた。エリーが返事をすると同時に扉が開き、入って来たのはやはりライオネル王太子殿下だった。


「お前達はよくしゃべる事が尽きないな。」


少し呆れたような口調で、ライオネル殿下はエリーとわたしの間に座った。


「ライ兄上、少数民族の首長達が帰って行くのを見ましたわ。兄上は生かして帰したのですね。殲滅以外にどんな解決策を講じたのです?」


「ああ、それはな、寒さに強い新種の小麦を開発しただろ?それを栽培させて自給自足出来るようにしたんだ。その代わり収穫高の三割を納めさせるけどな。」


「三割?五割徴収してもよろしいのでは?」


「あの者達は基本、狩猟や遊牧で生活している。農耕民族では無い。先ずは三割から様子見だな。それであの者達が裕福になるようだったら五割にすればいいさ。」


 ライオネル殿下の品種改良の努力が、こんな形で実るとは。庭師の少年の格好をして、王城の中庭で土いじりをなさっていたあの頃の殿下を思い出す。


「新種の小麦の名前を考えたぞ。その名も『ライ小麦』と決めた!」


「イマイチな名前ね。」


「ステキな名前ですね。」


「・・・意見が割れたな。それでも『ライ小麦』で決めてしまったからな。それと、王都へ帰還する日が決まったぞ。明後日の朝出立だ。」


「分かりましたわ。私達も一緒に出立いたします。」


「出立前に、王宮騎士団とエステルスーン騎士団との宴会が明日の夜、催されることになった。お前達も参加してみるか?」


「その様な場へ参加するのも悪くはないわね。」


「今後、聖女活動する上で騎士達と親睦を深めるのも良かろう。では、俺はそろそろ戻る。」


そう言って、ライオネル殿下は席を立ち足早に戻って行った。


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