41.二度目の治癒
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翌朝、朝食を済ませるとエリーの部屋へ向かう。一日の行動予定を話し合うためだ。わたしがエリーの部屋へ行けば、必然的にメリッサとロビンも着いてくるので全員で行動確認をする事が出来る。
「昨日は足りないポーションの調合、ご苦労さま。」
「ありがとうございます。今日は使った本数を確認して、まだ必要なポーションがあればまた調合したいと思います。」
「そうね。それがいいわね。
今日の最優先は、あの栄養失調の少年よ。予想ではあと二回、聖女の治癒が必要ね。」
「はい。わたしも内臓が普通に機能するようになるまでは、あと二回必要だと思います。」
少年に治癒を施したら、ポーションの残数を確認して、必要ならばわたしはポーションの調合、エリーは脳挫傷を負った村人の経過確認、避難している村人達の慰問、その後騎士団の視察をする事になった。
そしてこれ以上滞在の必要がないと判断すれば、王都へ帰還となる。
わたしたちは、立ち上がりエプロンドレスを着ると、エリーの「さあ、行くわよ。」との声で、捕虜達が収容されている牢部屋へと向かった。
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昨日と比べて、少年の目は焦点がはっきりしていた。少年の手を取り、脈を計る。
「昨日より脈は強く感じます。心拍数も回復してきていますがまだ少ないようです。」
「そう。やはり直ぐには回復しないわね。では治癒を始めるわ。」
エリーが少年の腹部に治癒を施した後、用意しておいたとろとろのパン粥をスプーンですくって食べさせる。
「慌てず、ゆっくり飲み込んで。」
少年は小さく頷くと、口をむにむにと動かした後ゆっくりと飲み込み、催促するかのように口を開けた。
雛鳥に餌をやる親鳥の気分になってちょっと楽しい。
五回ほどパン粥を食べさせた時だった。
「なあ、ねぇちゃん。あれ、ねぇちゃんの歌声だろ。あの歌、歌っておくれよ・・・。」
「あの歌?」
「昨日あそこから聞こえて来たんだ。」
力のない声で、少年が話しかけてきた。『あそこ』と言いながら動かした目線の先には、明かり取りの小さな窓があり、その向こうにはポーション工房の屋根が見えた。
「ああ、あの時の・・・。」
昨日、わたしがポーションを調合しながら歌っていた歌の事だろう。ちらりとエリーを見ると、エリーは促すように頷いた。
「いいわよ。歌ってあげる。」
わたしは持っていたパン粥の皿を置くと、少しだけ姿勢を正した。
「♪
湖の畔に咲いている
可愛い花はアマリィス
遠くで雲雀が鳴いている
思い出すよ母さんの子守歌
紫色の可憐な花びら
小さな花はアマリィス
遠くで響く木を切る音
思い出すよ父さんの大きな手 ♪」
思いの他わたしの歌声は建物内で反響し、響き渡っていた。気が付いたら牢部屋の他の捕虜達はピクリとも動かず、皆俯いて聞いていた。
「ねぇちゃん・・・何でその歌知ってんだ・・・?おいらの母ちゃんがよく歌ってくれた歌だ・・・。」
「避難している村の子供達が歌っていた歌よ。」
「・・・そうか。おいら、同胞を襲ってたんだな・・・。」
弱く、囁くように吐き出した言葉だったが、牢部屋にいる全ての者の耳まで届いていたようだった。
静まり返ったその雰囲気に、わたし達は牢部屋を出た方がいい気がして、パン粥の皿を近くにいた若い女性の捕虜に渡すと、そっと牢部屋を退室した。
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ポーションの残数を確認すると、結局ポーションは充分足りていて再度調合する必要は無かった。
そのままエリーと村人達の避難部屋へ行き、脳挫傷を負った村人の経過確認をする。その後、避難している村人達の慰問、騎士団の視察をした。
昼過ぎには予定していた行動を全て終えたわたし達は、エリーのお部屋で軽食をいただく事にした。
「マリーはいつの間にあの歌を覚えたのよ。」
「ここに到着した日です。避難してきた村の子供達が庭園で歌っていたんですよ。」
「平民の間では、あの様な歌が歌われているのね。」
「そうですね。きっと様々な土地で様々な民謡が歌い継がれているんだと思います。」
とエリーと会話をしている時だった。扉を叩く音が聞こえてきた。エリーが返事をすると同時に扉が開き、入って来たのはライオネル王太子殿下だった。
「ライ兄上!」
急ぎ椅子から立ち上がろうとしたわたし達を制止し、ライオネル王太子はエリーとわたしの間の椅子に座った。
「ふうー。俺も休憩。」
ライオネル王太子はだらけた姿勢になると、テーブルの上のクッキーをつまむ。
「それにしてもシュナイダー殿の口髭は見事だと思わないか。俺も生やしてみようかな。」
「似合わないと思うわ。」
「似合うと思います。」
「・・・意見が割れたな。やはり止めておこう。ところで死にそうだった捕虜の少年の具合はどうなんだ?」
「そうね。聖女の治癒はあと一回施せば、大分回復すると思うわ。その後は無理をせずにゆっくりと食事量を増やして行けばいいでしょう。もう、明日の治癒で私達の出番は終わりね。」
「それでなんだがな。明日、各部族の首長を呼び出して今後の事を会議で話し合う予定だ。その話の流れ次第では、お前達にも長期滞在して貰う可能性もある。もう少し王都へ帰るのは待ってくれ。」
「ここでの指揮責任者はライ兄上よ。兄上に従うわ。」
「悪いな。」
ライオネル王太子は休憩を兼ねて、わたし達が王都へ帰るのを待つよう伝えるのが目的だったようだ。この後少しだけ世間話をすると、わたし達に「挨拶は不要だ。」と言って足早に騎士団の訓練場へと戻って行った。
「・・・ライ兄上は殲滅する事をお考えかも知れないわ。」
「せ、殲滅?!いくら何でもそこまで・・・。」
北方の少数民族の略奪は、食糧を盗みはするものの、むやみに村人を殺したり食糧以外の財産を奪って行くことは無いと聞いている。
それに、食糧難にさえならなければ略奪なんて無くなるはず・・・。
「いいえ、あり得るわ。そもそも王都の騎士団とライ兄上が派遣されて来たのよ。ライ兄上は父上にけりをつけて来いと言われてるはずよ。」
そうなったら、あの捕虜の少年はどうなってしまうのだろうか?その答えが怖くて、エリーとの会話はどこか上の空となってしまった。




